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表裏別離殺人事件

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「部屋を汚い」
 と思った一番の原因がそこで、しかも、
「部屋に入ってからすぐに気が付いたのが、その、情事の痕跡」
 であった。
 刑事はただ、あからさまな状態に、吐き気に近いものを覚えていたが、オーナーは、さあすがに、
「おや?」
 と感じていた。
 というのも、
「あまりにもあからさますぎる」
 と感じたからだった。
「この人が、この部屋に入ったのが、午後7時くらいということですか?」
 と刑事がいうので、
「この刑事さんは、デリヘルというものを知らないのではないか?」
 と思ったオーナーは、
「そのつもりで話をする必要があるな」
 と考えた。
「いえ、先に男性の方がチェックインして、あとから女性が来られました」
 とオーナーがいうと、刑事はやはり怪訝そうな表情となり。
「そういうことはよくあるのかい?」
 と聞くと、
「ええ、そういう業界でのお客様は、まず男性がお部屋に入ってから、女性がやってくるというのが当たり前になっていますね」
 というので、
「そういう業界というのは?」
 と刑事が聞くので、オーナーも、
「やはり、刑事さんはこういう業界に疎いんだ」
 ということで、
「デリヘルといわれる風俗業ですね」
 というと、
「ああ、聞いたことはありますが、こちらでも、そういう業界の方が多いわけですか?」
 というので、
「ええ、逆にデリヘルをご利用されるお客様の方が多いといってもいいでしょうね。だから、最初に男性の一人客というのは、今では当たり前になっています」
「なるほど、あとから女性がその部屋を訪れるというシステムですね?」
「ええ、そうです」
 というので、
「じゃあ、この女性も風俗嬢ということでしょうか?」
 と刑事が聞くと、
「一概には何とも言えません。中には稀に、お仕事の関係なのか、別々にお越しになるお客様もおられますからね」
 ということであった。
 不倫などであれば、
「一緒にいるところを見られるのを憚る」
 ということもあるかも知れないが、敢えてなのか、オーナーは、そのことに言及することはなかった。
 部屋には、死体があるだけだった。最初に入ったというべき男性は、その場所にはいなかった。
 それを考えた時、刑事は、
「おや? 男性がいないじゃないか? フロントで聞いた時は、一度中に入れば、部屋から内線でフロントに、退室の申告がなければ、外には出られないのでは?」
 ということであったが、刑事はあることに気が付き、奥にある扉に近づいて、木の扉と、奥のガラス戸を調べていた。
「なるほど、ここからは出られないわけだ」
 ということで、ガラス戸が、途中までしか開くことができず、そこから部屋を出ることができないということが分かった。
「万が一、出ることができたとしても、隣のマンションの壁が相当迫ってきているので、そこから下に降りることは不可能ですね」
 と刑事は言った。
「ええ、その通りです。ここから出られてしまっては、せっかく部屋への玄関扉のロックを掛けても、意味がありませんからね」
 ということであった。
 部屋から簡単に出ることができれば、追加料金をちょろまかすということもできるということだ。
 もっとも、そんな危険を犯してまで、そこまでするかどうかというのは、別問題だと感じてはいた。
「じゃあ、この部屋は密室だったということかな?」
 と刑事が聞くと、
「いえ、そんなことはないですね」
 とオーナーが言った。
「これは、もちろん、想像でしかなく、可能性の問題なんですが」
 と前置きしたうえで、
「デリヘル業界ならでは」
 ということになるかも知れないですね。
「というと?」
 と刑事は、興味津々で、前のめりになっていた。
「入る時は別々なので、出る時も別々というお客様もいるということです」
 という。
「どういうことなのかな?」
 刑事は、まだ分かっていないのか、それとも、
「分かってはいるが、念のために聴こうとしているのか?」
 ということであろう。
「お部屋は、休憩時間で使用される場合もありますし、ホテルのサービスとして、長時間のフリータイムを利用される場合もあります。宿泊もあるわけで、10時間以上のフリータイム時間というのも普通にあります」
 という。
「それで?」
「でも、デリヘルなどのサービスは、通常は長くても3時間くらいしかないでしょう。もちろん、お客様の中には、時間を組み合わせて、長時間にする人もいるでしょうが、相当な金額になります。なかなかいないと思うんですよ。それに、、そういうお客さんは、うちのようなホテルではなく、シティホテルのような、しゃれたところを使うでしょうからね」
 というのであった。
 刑事も、それに関しては、まったく異論がないようで、
「うんうん」
 と頷いていた。
「ということは、時間が満了すれば、女性が先に帰るというわけですね?」
「ええ、そうです。デリヘルというのは、派遣で、次から次に、範囲内の場所に、派遣されていくわけですから、時間も大切ということで、送迎の運転手が、駐車場で待っていることも多く、女の子は、次の時間帯が埋まっていれば、すぐに移動を余儀なくされるので、さっさと出てきて、そそくさと送迎者の乗りこむということが多いわけですよね」
 というのだ。
「じゃあ、今回も?」
「ええ、そうですね、フロントの人の話では、確かに、305号室から、
「一人出るという連絡があったということです」
 といってから、オーナーは、
「苦虫をかみつぶしたような表情」
 になったのだった。
 その表情を刑事は見逃さず、
「何か?」
 と聞くと、
「いえね、発見したのが掃除のスタッフなんですよ。その発見が、一人出るといってから、10分も経っていないということだったんですね」
 というのを聞いて、
「それが?」
 と、刑事も何が言いたいのか考えていた。
「確かに、女性が出てから、男性がすぐに出るということは珍しくはないんですよ。わざと、別々に出るという形をとる人もいますからね。だけど、今回は、そのことが、実際の状況を裏付けているようで、それが、どうも気になるというか」
 とオーナーは、奥歯にものが挟まっているかのようだった。
 刑事も、若干のいらだちを感じながらも、大いに興味を持ち、次の言葉を待った。
「10分くらいというのは、そんなにあわただしいわけではないんですがね。だけど、普通は、男性も、女性が身支度をしている時に、一緒に自分も帰る準備をしているから、10分という時間で出ることができるわけです。しかし、今回は、被害者が殺害されているとだけでなく、部屋が異様に散らかっているということが気になりましてね」
 という。
「そんなにおかしなことなのかな?」
「いえ、あくまでも、私の勘ということで申し訳ないんですが、違和感というところだと思っていただければ幸いです」
 というのだった。
 よくは分からなかったが、刑事には、
「オーナーが、部屋が散らかっているということに、何らかの違和感を感じていて、それが一番気になることだ」
 ということは分かったつもりだったのだ。

                 初動捜査

 被害者の身元は、すぐに分かった。
作品名:表裏別離殺人事件 作家名:森本晃次