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表裏別離殺人事件

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 所持品のバッグの中から、
「相沢つかさ」
 と書かれた運転免許証と、K大学の学生証が出てきた。
 そして、パスケースが別にあり、そこには、デリヘルの名刺があった。そこには、
「いちか」
 という名前で、年齢は19歳と書かれている。
 実年齢は、21歳なので、本来なら、
「年齢査証」
 ということなのだが、
「こういう業界は、これくらいの年齢査証は、当たり前のこと」
 ということを後になって聴いたので、刑事も、
「そんなものなのか?」
 と思い、自分が、本当に風俗業界に疎いということを、いまさらのように思い知らされた気がしたのだ。
 ちなみに、この刑事は、
「樋口刑事」
 といい、真面目な性格ではあるが、一般常識などの知識はそれなりにあることで、彼が「ここまで、風俗関係に疎いとは思わなかった」
 ということで、皆不思議に思っているのであった。
「彼女は、現役の女子大生でありながら、風俗をしているということなのかな?」
 と樋口刑事がいうので、
「最近の風俗嬢になる理由の多くに、奨学金を返すためという女の子が結構多い」
 ということを、オーナーが説明した。
 どうやら、さすがにオーナーともなれば、風俗業界のことをよく分かっているようで、この様子では、
「風俗嬢もかなり知っているのではないか?」
 とも思えた。
 ただ、それが、どこまでの親密さかということまでは分からなかった。
 そもそも、
「そのことと、今回の事件はまったく関係がない」
 ということで、それ以上のことを詮索する気にもならなかったのだ。
 今度は、掃除のスタッフに、
「何かあなたが入った時に、違和感のようなものを感じませんでしたか?」
 と聞いたが、青ざめた表情は、若干落ち着きを取り戻しているようだが、まだまだまともに答えられるとは思えなかった。
「今が無理なら、何か思い出した時にでも、遠慮なく署まで連絡をいただければいいですからね」
 と優しくいうと、ホッと胸をなでおろしたように、肩の荷を落としているようだった。
「そういえば」
 と、思い出したように、スタッフが頭を挙げていった。
「ん? 何か思い出しましたか?」
 と樋口刑事がいうので、オーナーも、興味深げに耳を傾けていた。
「ええ、この事件に関係があることなのかはわかりませんが」
 という前置きをしておいて、
「実は、私が入った時、浴室のお湯が出しっぱなしになっていたんです」
 という。
「私どもは、まず、そっちが気になって、浴室のお湯の線をます止めたわけですね。浴室は入ってすぐの右側にありますからね」
 というので、部屋の構造を思い出すようにしていた樋口刑事も、その話に、
「まさにその通りだな」
 と感じたことで、その行動を言及することはできないと感じた。
「線を止めたあとで、部屋に入ってくると、シーツが床に落ちていたりと、ひどい有様だったので、少し閉口したわけです。もちろん、部屋があれているのは、今に始まったことでもなく、日常茶飯事ですからね。でも、風呂の栓が開けっ放しになっていたこともあって、かなりひどいお客なんだということは、最初から覚悟はしていました」
 という。
「そこで、中までくると、そこには、死体が転がっていたということになるわけなんですね?」
 と聞かれ、
「ええ、まさしくその通りです。私も、しばらくその場に立ち尽くしていたと思います。急いで、内線でフロントに電話を入れましたからね」
 という。
「本来であれば、殺害された部屋で、他の人の指紋はつけておいてほしくはないが、今の話から、最初から風呂の栓をしめたりするのに、手を触れていることから、それもしょうがないか?」
 と感じたのだ。
 しかし、その不安は、すぐに解消された。
 樋口刑事の懸念を分かっていたかのように、
「私たち掃除の人間は、ビニールの手袋をしているので、指紋はついていないと思いますよ」
 というのだった。
「この人は、さっきまであれだけ青ざめていたのに、少しでも落ち着くと、ここまで考えられるんだ」
 ということで、
「想像以上に、普段は冷静な人なのではないか?」
 と感じたのだ。
 風呂の水が出ていたというのは、実に興味深いことだね」
 と樋口刑事は考えたが、元々、
「探偵小説に造詣が深い」
 という自負のある彼は、今まで読んだ探偵小説に思いを馳せていた。
 というのは、
「結構、水道の栓が流しっぱなしになっていた」
 というのが使われていたということを思い出していたのだ。
 それがどういうことなのかというと、
「密室トリックなどの中に、機械的なトリックとして、木片にひもを結び付け、水を出しっぱなしにすることで、その勢いで、扉の閂を下すなどという、トリックが使われていた」
 というのを思い出したのだった。
 そもそも、今回の事件で、
「密室トリック」
 というのは、まったく関係がない。
 表の扉は、オートロックであるわけで、昔のような、
「閂」
 を使う密室ではないので、もしこの事件に、
「密室トリックがかかわっている」
 としても、
「水道の栓が開きっぱなす」
 というのが、密室トリックに関係があるとは言えないだろう。
 それを考えると、
「今のところ、せっかくの思い出してくれたことであるが、事件に直接関係があることなのかどうか、本人が言っていたように分からない」
 ということであろう。
 今回の事件において。
「そもそも、被害者がデリヘル嬢」
 ということで、樋口刑事としては。
「あまりよく知らない業界での事件」
 ということから、
「難しい事件だ」
 と、勝手に思い込んでいた。
 そもそも、
「被害者がデリヘル嬢だ」
 というだけのことで、犯人の動機に、
「デリヘル嬢」
 ということがかかわっているのかどうかも分からない。
 かしこい犯人であれば、
「捜査のかく乱」
 ということで、殺害現場をラブホテルに選ぶことで、
「デリヘル関係による殺害」
 と事件を限定させようとすることくらいは、十分に考えられることであった。
 ただ、それも、
「思い込みは禁物」
 ということであり、樋口刑事も、十分すぎるくらいに分かっている。
「今までに、どれだけの犯罪捜査をしてきたか」
 ということであるからだ。
 そして、掃除スタッフの話からは、それ以上の思い出したことで気になることはないということであった。
 樋口刑事は、鑑識さんのところに行って、
「今分かっていること」
 ということを聴きに行った。
「いかがですか?」
 と聞くと、
「そうですね。死因は絞殺ですね。ここに締められた跡があります」
 ということであったが、
「凶器は?」
 と聞くと、鑑識は、黙って首を横に振った。
 どうやら、この部屋から発見できなかったということであろう。
「ネクタイのようなものなのかな?」
 と聞くと、
「そうかも知れないですね」
 と、鑑識もハッキリと言及できないようだった。
 実際の凶器がそこにはないのだから、鑑識も断定的なことを言えないということになるのだろう。
 それを考えていると、鑑識が、
「この断末魔の表情は、かなり苦しんでいるといえると思います」
 という。
作品名:表裏別離殺人事件 作家名:森本晃次