表裏別離殺人事件
風俗のスタッフというのも、そういう意味では、気配りがうまくできなければ、結構大変ではないだろうか?
「客と女の子」
との関係は、
「それぞれにしか分からない」
ということもあるだろう。
しかし、それが問題ということになると、
「女の子も、まわりの人ばかりに任せてはいられない」
ということになるだろう。
それを考えると、
「ホテルのスタッフも、風俗店のスタッフも、どこか似たようなところがあるといってもいいのかも知れない」
といえるだろう。
今回の死体発見の顛末というのは、
「まず、305号室の部屋から、今から帰るという打診があったことで、いつものように、受付から、自動ロックを解除した。
清算額もないことから、内線電話で、フロントの女性からは、
「ありがとうございました」
という返事があっただけだった。
フロントの方とすれば、
「てっきり、部屋から出て、そのままエレベーターで一階まできてから、フロントの前を通り過ぎて、駐車場の方に出ていく」
ということを考えていたが、
フロントの人も、
「最初に前金でお金を払って、そのままエレベータで部屋までいくのを、ほとんど見ているわけではない」
しかも、
「顔は見てはいけない」
ということで、
「客の方も、気を遣ってということか、まったく意識をしている様子はなかったのだ」
ということであった。
「ホテルを出てから、男が、
「どこに行ったのか?」
は不明だという。
そもそも、
「顔を見ているわけでもなく、その男を特別意識していたわけではないので。気にならないというのは当たり前のことだった」
ということである。
しかし、
「あとで、防犯カメラを見れば分かるということ」
ということで、
「そこに、犯人が映っているかも知れない」
ということになるのかも知れないが、
何よりも、
「そもそも、防犯カメラが何のためにあるのか?」
ということで、もちろん、警察もホテル側も、
「まさか」
と感じていることであるが、
「殺人事件が起こるなどということは、普通ではありえない」
といってもいいだろう。
それこそ、
「ありえないということを意識してしまっている」
ということで、
「殺人事件どころか、自殺があったというのも、30年も前のことだったということではないか?」
ということであった。
警察がやってきたのは、22時少し前であった。
物々しいパトランプにサイレンの音、客の中には、急いでチェックアウトしていく人もいた。
フロントをジロリと睨んでいるが、どうしようもないことで、ホテル側も苦笑いをするしかなかった。
お客さんには、
「運が悪かったと思ってもらうしかない」
ということになるのだろう。
客がゾロゾロと帰っていく時、フロントには刑事が入ってきていて、さっそく、部屋を開けてもらい、第一発見者と一緒に中に入ることになった。
第一発見者は、掃除のスタッフであり、ホテルのオーナーも急いで駆け付けてきて、一緒に現場に向かったのだ。
さすがにオーナーには落ち着きが見られたが、第一発見者である掃除のスタッフの顔は青ざめていた。
「こんなことは初めてですよ」
といっていたが、オーナーとしても、自殺者があったことは知っていたが、
「まさか自分が?」
と思ったことだろう。
心の中では、
「人生の中で一度あるかないかというような事件がかつて一度あったのだから、もうないだろう」
という、都合のいい考え方をしたとしても、それは無理もないことであろう。
掃除のスタッフにすれば、
「殺人事件など、それこそ、テレビドラマの中でのことで、自分には関係ない」
と思ったに違いない。
昔、インフルエンザ委が流行って、全国的に、学校閉鎖などが頻繁だった時期、その人の学校では、ほとんど患者がいないということで、
「まるで、別世界での出来事」
とばかりに、
「ニュースの方がウソではないか?」
と感じるほどだったのだろう。
それを思えば、今回は逆であり、
「どうして自分だけ」
と思ったことだろう。
だからこそ、警察が駆け付けてきて、喧騒たる雰囲気になったとしても、
「どこか他人事」
という風に感じていたのである。
そもそも、ここのホテルは、決してきれいでもなければ、人気があるわけでもない。風俗嬢には、
「あのホテルは嫌だわ」
といわれているようで、その理由の中には、
「以前、自殺があった」
ということを知っていて、納得の上で、嫌だと思っている人もいるだろうが、大多数は、「そんな30年も前のことなど知る由もない」
とばかりに、聞いたとしても、本当に他人事のように感じることであろう。
部屋の中に入ると、想像以上に散らかっているのが分かった。中はすでに、規制線が敷かれていて、部屋にはロックがかかるようになってはいるが、それでも、
「立ち入り禁止」
の札が貼られていたのだ。
中には誰もいなかった。表には、制服警官が立っていて、さながら、
「警備員」
の様相を呈していたのだ。
刑事と鑑識を見ると、直立不動のまま敬礼をするので、刑事や鑑識も、つられて敬礼をした。このあたりの規律は、警察としてしっかりしているということであろう。
「もちろん、発見した時のままということだろうね?」
と刑事が警官に聴いたが、掃除スタッフがその横から、
「はい、もちろんです」
と、先手を打つ形で答えた。
「それにしても、何とも汚いようにおもうんだが」
と刑事がいうと、
「いえいえ、お客様が帰った後のお部屋というのは、こんなものですよ」
といっていたが、実際に目を覆いたくなるようなものも散見された。
部屋の作りは、入ってからすぐに狭い玄関があり、そこから入ってすぐの右側の扉があった。
そこを開いてみると、目の前に洗面所と、その右側にはバスルーム。そして、その奥にはトイレがあった。
その手前の狭い通路を通って中に入ると、真正面には、液晶テレビとその下に、冷蔵庫があった。右側にはダブルベッドがあり、その奥には、テーブルと椅子が、対面式に配置してあった。
その向こうは窓になっていて、ラブホテル特有の、外が見えないように、木製の扉があり、その奥が、すりガラスのガラス窓となっていた。
シーツはすっかりめくれていて、客がまぐわったという痕が、ありありというところであった。
ホテル備え付けのガウンの一つが、脱ぎ散らかされていて、その横には、
「一番目を覆いたくなる」
というべき、
「ホトケ」
が、横たわっていたのだ。
その遺体は、目をカッと見開いていて、いかにも、
「断末魔の表情」
であった。
まるで、歯ぐきから血が出てきそうなほどに食いしばった口からは、いかにも、
「モノ言わぬ死体」
というものを物語っていたが、目だけはあらぬ方向を見つめていて、
「いかにも、無念さを表しているようで、その女がどういう女なのか分からないが、死んでしまえば、皆同じということで、哀れをさそい、思わず手を合わせる刑事と鑑識であった。
ことが行われたのは明らかで、避妊具の中には、男性の、
「果てた痕が歴然」
であった。
刑事が、