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表裏別離殺人事件

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「ということは、犯人が、下手なくせに、強引に殺害を試みているということか、それとも、故意札するのに似合わない凶器を使ったということになるのかな?」
 というので、
「おそらくそんなところではないでしょうか?」
 と鑑識も同じ意見のようだった。
「それにしても、凶器をどうしてそのままにしておかなかったのか?」
 と樋口刑事が言った。
「だって、考察であることは歴然としているわけで、それをいまさら持ち帰るには、何か理由があるのではないかって思うんだよね」
 と、樋口刑事は続けた。
 その理由は、正直分からない。
「今の段階で分かれば、すごい」
 といってもよく。
「もしこれが、事件の核心をついているのであれば、ある意味、そこで事件が解決するということもあるわけで、それこそ、スピード解決の記録更新になるかも知れない」
 ともいえるだろう。
「事件というのは、そんなに簡単なものではない」
 ということで、それが、
「殺人事件ともなると、なおさらだ」
 ということになるだろう。
「結構部屋が荒れていますが、これは、抵抗している間に、こんなになったんでしょうかね?」
 と聞くと、
「そうかも知れないですが、少し気になるのは、ベッドの上に、脱いだ浴衣があるということなんですよね」
 と鑑識が言った。
「どういうことですか?」
「さっき、掃除の方から話を聞くまでは、疑問はなかったのですが、お湯が出しっぱなしになっていたということだったでしょう?」
 という。
「ええ、そうですね」
「それがおかしいんですよ」
 というので、
「何がですか?」
「いえね、浴衣が置いてあるということは、着ていた浴衣を脱いだということですよね?」
「ああ、そういうことになるんだろうな」
 と、樋口刑事はまだ分からないようだった。
「浴衣を脱いだということは、ここで裸で行為をしたすぐではないということで、当然考えられるのは、風呂に入って、浴衣を着たということですよね? つまり、そう考えると、お湯が出しっぱなしというのは、おかしいと思いませんか?」
 ということであった。
 さすがにそこまで聴けば、樋口刑事にも、理屈が分かった気がした。
「なるほど、一度風呂に入ったのであれば、お湯を出しっぱなしにするということはおかしなことですよね?」
「ええ、そうです」
 というので、
「ということは、ここに犯人の何らかの意思が働いているということになるのかな?」
 と考えられた。
「いや、被害者の意志が働いていたのかも知れませんよ」
 と鑑識が何気なく口にしたが、そのことも、樋口刑事には、どこか引っかかっている気がしたのであった。
「この鑑識も、さすがというか、かなりの現場の場数を踏んでいるということか?」
 と考えた。
 樋口刑事は、刑事としては、自分では。
「まだまだ若手だ」
 と思っていたが、年齢的には30代後半ということで、
「中堅」
 といってもいいだろう。
 現場経験もそれなりにあるので、今までの事件でも、
「樋口刑事の閃きによって解決した」
 という事件も少なくなかった。
 警官の中には、
「樋口刑事の推理力には感銘を受ける」
 という人も結構いるようで、樋口刑事も、その自覚というものはあるようだった。
 しかし、今回のような、
「ラブホテルが犯行現場」
 ということであったり、
「被害者が風俗嬢」
 というのも初めてで、最初から、
「雰囲気にのまれているように思えて仕方がない」
 といってもいいだろう。
 だが、樋口刑事にとって、意表をつくことが多いことから、
「どこか、事件はすぐに解決するのではないか?」
 という考えがあるのを自分でも分かっていた。
 ただ、それは、錯覚でしかないということも分かっていて、それだけ、
「事件に呑まれている」
 ということになるのだろう。
「異様に見える部分が多い
 ということで、それが、
「犯人による欺瞞のようなもの」
 と考えることで、
「策を弄する人間は、その分、どこかに落とし穴がある」
 ということで、その落とし穴の存在を期待しているところがあるということになるのだろう。
 しかし、そうは思っても、この状況だけでは、分かることは限られている。そもそも、被害者の人間関係も分かっていないので、
「じゃあ、誰が犯人か?」
 などということが分かるわけもない。
「動機がハッキリしない」
 ということだ。
 だが、
「被害者がデリヘル嬢だ」
 ということから、どうしても、
「デリヘル嬢である」
 ということが、
「直接的に動機に結びついている」
 と思わせ宇に十分であった。
 もちろん、
「デリヘル嬢だから殺された」
 といううのは偏見でしかないが、そもそも、風俗というのが、
「お金を払って、その人の時間を買うことで、そこで疑似恋愛を楽しむ」
 というのが風俗だと認識している。
 それに大筋で間違いはないだろう。
 だから、
「勘違い野郎がいて、その子との疑似恋愛を、本当の恋愛だ」
 と思い込むことで、
「結局は疑似恋愛だ」
 と分かった時、
「可愛さ余って憎さ百倍」
 というべきか、明らかな殺意というものが芽生えてしまうというのが、当然のように思えるのであった。
 ただ、そうなると、
「ここまで謎を残すような殺害をするだろうか?」
 と思った。
 確かに。
「疑似恋愛への勘違い」
 ということであれば、
「手の込んだ殺害を考えたりはしないだろう」
 と考えるが、果たしてどうなのだろうか?
 といっても、今回の殺人が、
「完全犯罪というものをもくろんでいる」
 とも思えない。
 あくまでも、
「よく分からない、疑問に残ることが多い」
 ということであって、そこに、
「策が弄されている」
 という感覚がないのであった。
 それを考えると、
「犯人のプロファイルが現れてこない」
 ということになる。
「犯人がどういう人物なのか?」
 ということから、動機であったり、そこに現れる状況から、犯人を限定するというやり方が、
「犯罪捜査におけるプロファイル」
 ということになるのだろう。
 実際に、
「被害者のこともよく分かっていない」
 ということであり、
「犯人にたどり着くものが、この状況ではまったく分からない」
 ということだ。
 犯人の顔も、フロントは見ているわけではない。
「うちは、フロントからは、客の顔は見えないようになっている」
 ということで、逆にいえば、
「犯人も、フロントの人の顔が見えない」
 ということになるというわけである。
 これは、被害者にしても同じことであり、
「被害者がどんな人だったのかというのは分かりませんね」
 ということになるだろう。
 もし覚えていたとしても、平時の顔ということなので、最後の断末魔の表情からは、想像もできないに違いない。もし確認するとすれば、
「後から、防犯カメラの映像を見る」
 ということしかできないだろう。
 もちろん、防犯カメラは捜査資料として、提出された。
「フロントのところの防犯カメラ」
 そして、
「三階の305号室の入り口が確認できる」
 という位置の防犯カメラであった。
「それを確認することが、先決だろう」
 ということであった。
作品名:表裏別離殺人事件 作家名:森本晃次