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時代に曖昧な必要悪

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 柏木家においての、夫婦間は、別に、
「亭主関白」
 という形でも、
「カカア天下」
 というわけでもない。
 どちらも干渉することがないといえば聞こえはいいが、
「乾ききった仲」
 といってもいい夫婦仲であった。
 何か話をすれば、お互いに
「喧嘩になる」
 ということは分かり切っているわけで、喧嘩にならないようにするには、
「お互いに干渉しない」
 というのが一番の得策だと思っていた。
 特に、新吉の方にその気持ちが強かった。
 小学生の低学年の頃、いじめられっ子だった新吉は、最初の頃は口で逆らっていたが、結局は、相手は数人現れて、喧嘩になってしまえば、かなうわけもなく、結局最後は負けてしまう。
「それだったら、最初から逆らうことをしないで、相手が飽きるのを待つしかない」
 と思うようになった。
 最初に逆らってしまうと、相手は、面白がって苛めがひどくなる。それを思えば、逆らわずにいて、相手の感情が冷めるのを待つというのも、被害を最小限に抑えるという知恵だったのだ。
 それを思い出して、
「どうせ、口ではかなわない」
 と感じることで、逆らわないのが得策と思うのだった。
 さらに、逆らわない理由にもう一つあった。それは、
「うしろめたさがある」
 ということである、
「奥さんに内緒で、不倫をしている」
 ということであった。
 相手は、会社の同僚の女の子。年齢としては、8歳ほど下で、短大を卒業してから、数年という女の子だった。
 彼女からすれば、
「先輩の厳しい目の中で、一人優しくしてくれた先輩が、新吉だった」
 ということだが、新吉の方も、結婚してからいい加減冷めた関係になっていた家庭を思えば、彼女の存在は、眩しく見えたのだ。
 そもそも、自分の家庭を、
「乾ききった関係」
 にしてしまったのは、夫である新吉だった。
 その原因は、
「夜の夫婦関係」
 というものにあった。
 付き合っている頃は、
「遭える時には、ずっと一緒にいて、ずっと、ラブホテルの部屋の中で過ごしてもいい」
 とまで思っていた。
 それについて、聡子は何も、文句も言わない。
 だから、付き合っている時は、完全に、
「亭主関白気取りだった」
 といってもいいだろう。
 確かに亭主関白気取りは、二人にとって新鮮であった。ただ、それは付き合っている時だけのことであり、付き合い始めてから結婚するまで、そんな関係が続いた。
 もちろん、お互いに仕事をしているのだから、毎日というわけにはいかない。逆に、
「適度な期間」
 というのが、余計に新鮮だったのだろう。
 だから、二人の交際期間は、よく言われる、
「長すぎた春だ」
 といってもいいだろう。
 まわりから、
「長すぎた春」
 という言葉を聞かなければ、新吉の方も、
「結婚」
 ということに踏み切る勇気はなかったかも知れない。
 なぜなら、
「結婚というものを意識していなかったわけではない」
 と、新吉としては思っていたからである。
 結婚を意識しながらも、引き延ばしてきたのは、
「踏み切る勇気がなかった」
 ということと、
「この関係が、新鮮だ」
 ということからだっただろうが、さすがに、これ以上この関係を続けていると、それこそ、
「凍り付いた関係になるのでは?」
 と考えたことで、結婚を考えたのだった。
 もちろん、ちょうどタイミングよく、
「私たちどうなるの?」
 という言葉を、聡子が言ったからでもあった。
 実は、聡子にも、新吉にも、
「長すぎた春」
 という言葉を口にしたのは、同じ人物だった。
 二人にとっての、共通の友達だった人が言ったのだが、その人は男性で、高校時代からの友達だったのだ。
 高校時代からの同級生であったが、彼も、当時のクラスメイトとすでに結婚していた。ちょうど新婚の時期で、本人とすれば、
「結婚というのはいいものだぞ」
 といいたいのだろうが、それを、
「長すぎた春」
 と表現したのは、彼なりに、
「このままこの二人には刺激的な言葉を言わないと、ズルズルいく」
 と考えたからだ。
「結婚して別れることになるかも知れないが、今のまま、ズルズルいくよりもマシではないか?」
 と思ったのだ。
 それには、長すぎた春というのは、悪い状況であるということが彼には分かっていたのであろう。
 結局結婚することになった二人だが、夜の生活において、それまで思いもしなかった感情が、新吉に芽生えた。
 それも、
「毎日セックスをするわけでもないのに、すぐに女房に飽きてしまった」
 と感じたのだ。
 自分でもびっくりしてしまう感覚であった。
「おかしい、こんなはずではない」
 と思いながら、それでも、
「抱いていれば、夫婦としての感情が湧いてくるかも」
 ということで、夫婦生活を自分の気持ちを偽りながら続けていたが、結果は、変わらあかった。
 結局、
「飽きがきてしまうと終わりなんだ」
 と思った。
 ただ、愛情が消えたわけではない。あくまでも、性生活に対して飽きが来ただけのことだった。
 だから、
「離婚までは考えていない」
 それは、戸籍に傷がつくなどという昔の考えではなく、
「愛情が残っているから、夫婦であることに支障はない」
 と思ったからだ。
 だから、新吉は最初、
「不倫」
 ということは考えなかった。
「愛情が残っているだけに、裏切ることになる」
 と思ったからであり、しかし、それ以上に、
「不倫をすれば、夫婦ではなくなってしまう」
 と考えたからだ。
 そこで、
「あくまでも、性的欲望に飽きがきたからというだけのことであれば、裏切らない方法で、自分が満たされればいい」
 と思い、その方法を、風俗に求めた。
「風俗は、不倫ではない」
 という理屈である。
 それが、
「正しいのか間違いなのか?」
 ということは分からない。
 その人それぞれの考え方であり、新吉は、
「不倫ではない」
 と思ったのだ。
 そう、
「お金を使って、時間を買って、その時間による肉体的な疑似恋愛だ」
 と思えばよかったのだ。
 だから、1年くらいは、風俗に通うことで、その肉体的な欲求不満を晴らすことで、気持ちも少し和らいできたというものであった。
 だが、風俗には、相当なお金がかかる。
「月に何度も」
 ということができるわけではない。
 それを思えば、次第に虚しさを感じるようになった。
「疑似恋愛が嫌だ」
 というわけではないが、この中途半端な期間にストレスを感じ、しかも、そこにお金の問題が絡んでいることでのストレスだったのだ。
「お金がかかる」
 ということに対しての不満ではない。
「お金がかかることで、中途半端な期間待たなければいけない」
 ということに対してのストレスが、不満につながることだった。
 だから、結局、風俗通いも、1年で終わったのだ。
 そんな時、不倫相手となる女が近づいてきた。
 それは、
「新吉の心の隙間に入りこむ」
 という絶妙なタイミングだったのかも知れない。
 結局、そこで結びついた二人は、ズルズルと不倫関係に陥った。
「数日に一度という、適度なタイミングでの不倫」
作品名:時代に曖昧な必要悪 作家名:森本晃次