小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

時代に曖昧な必要悪

INDEX|10ページ/18ページ|

次のページ前のページ
 

 というのは、それまであえぐように苦しんでいた新吉を、やっと解放された気分にしてくれたのだ。
「これだ。この気持ちを俺は欲していたんだ」
 と、気分としては、
「何年ぶりのこの充実感だろう」
 と感じた。
 不倫を始めた頃は、
「女房に、相変わらず、オンナというものを感じることはないが、愛しているという感情だけは、まるで新婚当時に戻った気がする」
 ということで、つかえていた精神状態に、光明が差し込んだといってもいいかも知れなかったのだ。
「女房にバレないように不倫を続けるということが、家庭を守る秘訣だ」
 と、他の人が聞けば、
「何と、自分だけに都合のいい考え方」
 ということになるのだろうが、実際には、
「家庭を守るため」
 と本気で考えていて、その気持ちが、まわりに対して、自分の殻を作ることになり、それが意固地な性格を形成していった。
 ただ、それが、
「元々からの性格だった」
 ということになるのかどうか分からないが、少なくとも、女房である聡子は、その時は不倫を夢にも感じてはいなかったが、昔からの彼の性格に関しては、しっかりと分かっているつもりだったのだ。

                 聡子の不倫

 旦那の不倫を、かすかにであるが感じるようになると、聡子は、どう考えただろう?
 そもそも、聡子も、旦那ほどではないが、
「余計なことを言って、波風を立てたくない」
 と思う方だったので、表から見ていると、
「亭主関白に見える」
 というのは、そういうことだったのだ。
 だから、
「余計なことはいわない」
 というのが聡子の性格だと、新吉は思っていたが、実は、その根底にあるものが違っていたのだ。
 聡子は、
「実に女らしい」
 といってもいいところがあった。
 これは、聡子のことではなく、会社の人で、
「離婚した」
 という人から聞いた話であったが、その人が、後悔しているというよりも、
「悔しがっている」
 ということで、愚痴のようにいうのだが、それは、人に対しての説得のような感じで、
「それが、彼の性格なんだ」
 とは思ったが、聞いていてあまり気分のいいものではなかった。
 それでも聞く羽目になったのは、
「自分が不倫をしている」
 ということを悟られたくないと感じていたからではないだろうか?
 その離婚した同僚がいうには、
「奥さんの性格を見誤っていた」
 というのだ。
「それはどういうことなんだ?」
 と聞いてみると、
「奥さんというのは、オンナだったんだよ」
 という言い方をしたのだ。
「まるで、禅問答のようではないか?」
 と感じた新吉だったが、その気持ちの裏に何があるのか、自分も知りたいと感じたのであった。
「オンナっていうのは?」
 と聞いてみると、
「オンナってのはな。もちろん、一概には言えないが、我慢をする生き物なんだよ」
 という。
「我慢?」
「ああ、そうだ。女は男よりも、強くできている。考えてもみよよ、男に子供が生めるか? あの陣痛に何時間も耐えて子供を産むんだぞ、すごいじゃないか」
 子供のいない新吉には、その気持ちはよく分からない。
「いや、何よりも、離婚したその同僚も、確か子供はいなかったではないか?」
 ということで、一瞬呆れてしまったが、その真剣な顔を見ている。
「呆れている」
 という気持ちを相手に感じさせてはいけないと思うのだった。
「そんなものなのかな?」
 と、ごまかすかのように、同意するわけでもなく答えた。
 相手がどう思ったのか分からないが、話を続けた。
 ひょっとすると、こっちが呆れているということは分かったうえで、
「それでも、ここまで話す気持ちになっているのだから、最後まで話さないと、気が済まない」
 と思っていると感じると、
「しょうがないから、聞いてやろう」
 と思うのだった。
 最初はなるべく、
「彼の気持ちだけを聞くようにし、不倫相手と自分の関係にシンクロさせないようにしよう」
 と思うのだった。
 余計なことを聴かされて、考えたくもないことを考えさせられ、余計な悩みとして抱いてしまうことになるのは、
「本末転倒だ」
 というものだと感じていたのだ。
「なるほど」
 と、結局、出産というものを実際に知らないもの同士なのに、説得する方は、まるで知っているかのように思っている。
 それは、彼が、妄想の中で実際に、出産を知っていると思い込んでいるからなのか、
「妄想というものが前面に出てしまうと、こうなってしまうのか?」
 とも思った。
「誇大妄想」
 というものを抱くことが、いいのか悪いのか、またしても、分からないことにぶつかった。
 今までであれば、
「妄想という言葉は、ろくなことにならない」
 としてしか思っていなかったが、
「リアルで飽きを感じたことで、求めた性欲」
 という状況を考えると、
「その感情も、妄想ということに繋がるのではないか?」
 と感じた。
 だから、彼が妄想を抱いていると分かった時、
「そんなやつの話など聞けるか」
 ということで、話を聞くことを断ることもできたし、話を聞きながら、上の空であってもよかったのだろうが、新吉の性格として、
「一度話を聞く体制に入ると、聞き流すというような器用な真似は俺にはできない」
 と思うのだった。
 だから、真面目に話を聞くことになったのだ。
 彼と離婚してから話をするのは、この時が初めてではなかった。
 離婚のごたごたの時にも、相談のような形で受けたのだが、その時は、それなりに、上の空で聞くことはできた。
 しかし、一番印象に残った言葉だけが、頭の中に残っているのだが、それが、
「離婚というのは、結婚の何倍もエネルギーがいる」
 ということであった。
 それは、彼からだけでなく、
「一般的な話」
 ということでよく聞かされたが、それはまさしくその通りだといってもいいだろう。
 だから、彼は今回も、新吉に話を聞いてもらおうとしたのだろう。
「どうせ、他の連中は、誰も聞こうとはしないんだろうな」
 と思ったが、
「いずれ、俺がいざとなった時、あの時聞いてやったということで、聞き手を今作っておくというのもいいだろう」
 と思ったのだった。
 確かに、
「離婚は結婚の何倍も大変だ」
 ということは、離婚というものを経験したことがない新吉にとっては、それほど心を打つものではないはずなのに、なぜか心の中に残ったのだった。
 だから、今回も、
「煩わしいな」
 と思いながらも、
「今の自分の心を打つような言葉が飛び出すのではないか?」
 と感じたことで、話を聞いてみる気になったといってもいいだろう。
 実際に、彼の話が、核心に入っていくのが、新吉には分かっていた。
 それは、相手が、その人でなければいけないわけではなく、きっと、新吉が、
「真剣に相手の話を聞く」
 という態勢になった時、自分で分かると感じるからではないだろうか?
 それを考えると、
「自分は聞き上手な方なんだろうな」
 と感じるようになった。
 彼の話として、
「オンナが、旦那に対して我慢する」
 というのは、相手のことだけでなく、家庭のことをすべて一人で抱え込むように感じることで、その重圧のことを、
作品名:時代に曖昧な必要悪 作家名:森本晃次