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時代に曖昧な必要悪

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 どこまで本当かは分からないが、
「正社員への登用あり」
 というところも少なくない。
「ふるいに掛けられるよりも、下から這い上がる気持ちの方がいいかも知れない」
 と感じるのも、無理もないことであろう。
 それを思えば、
「都会にいるよりも、田舎の方がいい」
 ということで田舎に戻ってきた、
 頭の中に、新吉がいないわけではなかったが、
「まずは就職」
 ということで、必要以上に、意識はしなかったのだった。
 ただ、大学生となって、この街を出ていった時と違って、
「この4年間で変わったのは間違いない」
 とは思っているが、
「その間に、同級生だって、きっと変わってしまったに違いない」
 とは思いながらも、
「一番変わったのは自分だ」
 という気持ちが強くなっていると感じたのだ。
 あくまでも、
「錯覚なのか」
 それとも、
「感覚がマヒしているか」
 ということのどちらかなのだろうが、どっちなのか、考えあぐねているようだった。
 実際に、新吉に遭ってみると、最初は、
「ああ、やっぱり田舎者だ」
 と聡子は感じた。
 その時、
「これだったら、私が主導権を握ることができる」
 と感じた。
 これは、実は田舎に帰ってきて就職した会社でも感じたことだった。
 特に田舎の会社の人は、
「大学時代だけ、東京にいっていた」
 ということに、何やら意識が強いようで、
「ずっと東京育ちだ」
 という人に比べれば、その意識は数倍強いと思えるくらいであった。
 さすがに、
「数倍」
 というのは言い過ぎで、それだけ、自分の側が有利だと思っているかという意識の表れに違いがないのだろうが、逆に、
「自分がマウントを取っているわけではない」
 という正当性を考えている気がして、余計にその感覚が強くなってくると感じるのであった。
 だが、その思いを増幅させたのは、新吉との再会からであろうか。
 新吉の言葉が、昔と違い、自分に対して上目遣いであり、
「それだけへりくだっているのではないか?」
 と感じられたからであった。
 それは、新吉よりも、会社の同僚や先輩の方が強かった。
「ずっと東京にいた人に対しては、田舎の人は、そのへりくだり方が強すぎて、それこそ、自尊心を傷つけられる気がするということから、余計に、田舎者を感じさせる」
 と思うのかも知れない。
 そのことは、
「自分が都会に出た時に感じたことではないか?」
 といえる。
 しかし、
「大学に入学した」
 という解放感と、さらに、
「東京への憧れ」
 というものの、両方のプラス要素から、感覚がマヒしてしまうだけになり。
「自尊心を傷つけたくない」
 という意識を、
「感覚がマヒしている」
 ということで片付けようとしたのかも知れない。
 だから、自分には、
「コンプレックスは感じなかった」
 ということで、田舎に帰ってきてからも、
「都会人という目で見られる」
 ということに、
「マウントを取ろう」
 という気にはなるが、
「コンプレックスを感じる」
 ということにはならない。
 ただ、自分の出身の街で、まるでよそ者のように見られるのは、どこか自尊心を傷つけられているようで、気持ちのいいものではなかった。
 それを紛らわせてくれる存在が、新吉だったということで、今までとは違った意味で、
「新吉の存在感が、自分の中で大きくなってきた」
 と思うようになってきた。
 見た目には、
「男性を立てている」
 という雰囲気を醸し出しているように見える聡子であったが、実際には、
「あなたよりも、私の方に主導権がある」
 といつも思っていた。
 というのは、そもそも、新吉には、決断力というものが欠けていた。
 そこが、
「どこか子供のようなところがある」
 と、高校時代から感じていた。
「高校生なんだから、子供っぽいところがあっても、それは愛嬌ではないか?」
 と思っていたが、特に、新吉に対しては、そう感じるようになったのであった。
 だが、それが、
「自分が相手に比べて、大人なんだ」
 という、
「優越感だった」
 ということに気づくと、
「自分が、東京での彼に対しても、優越感を絶えず感じていた」
 と思うのだった。
 優越感に浸るというのは、
「自分の相手に対する劣等感の裏返しだ」
 という当たり前のことに気づいていない。
 逆に相手は、
「この人は、自分に対して劣等感を感じている」
 と感じることができると、相手の裏にある優越感も感じることができ、
「それが逆に、自分が相手に優越感を持たせる隙間を与えてくれている」
 ということで、
「心の中の遊びの部分を持つことができている」
 と思えるだろう。
 それを思えば、相手に、
「マウントを取る」
 ということもなく、主導権を握ることができる。
 その遊びの精神がなければ、
「主導権を握るには、マウントを取らなければいけない」
 ということになるのだと考えるだろう。
 つまり、
「気持ちに余裕がなければ、主導権を握ることができない」
 だが、どちらかが、明らかな主導権を握らないと、お互いに進む方向が分からなかったり、
「その方向が間違っているのか?」
 あるいは、
「お互いにすれ違っているのか?」
 ということが分からないのだ。
 というのは、
「それだけ、お互いに譲り合う気持ちもなければ、一緒にいることの意味すら分からなくなっている」
 といってもいいだろう。
 田舎に戻ってきてからの聡子に、そこまで分かるわけもなかった。
 もっといえば、
「恋愛」
 というものが分かっていなかったのだ。
「結婚のための、前ステップ」
 ということで、
「まるで、昭和の頃の考え方だ」
 といってもよかっただろう。
 ただ、これは、新吉にとっても、同じことであり。
「まだまだ、二人の付き合いは、子供の恋愛ごっこのようなものだ」
 といってもよかった。
 さすがに、ままごととまでは思っていなかったが、まわりの人には、そこまで見えていたのかも知れない。
 それでも、二人にとっての時間は、
「他の誰も寄せ付けない」
 といってもいい時間であった。
 それを、
「これこそが恋愛なんだ」
 ということで、二人の時間を大切にするということを、お互いに感じていた。
 だから、誰にも入り込めない雰囲気が二人にはあり、
「それをまわりも分かってくれている」
 と感じていた。
 しかし、実際には、そこまでの感覚はなく。実際に、
「聡子を好きになった男性」
 もいた。
 それは、会社の得意先の営業の人であったが、聡子とすれば、
「仕事上での付き合い」
 ということで、付き合い方は、
「社交辞令」
 としてしか思っていなかったのだ。
 確かに社交辞令というものはあるだろう。
 次第に、
「相手が私のことを意識している」
 と思うようになると、聡子は気持ちが大きくなった。
「私を好きになる他の男性だっているんだ。私もまだまだまんざらでもない」
 と思うようになると、
「何も新吉さんだけではない」
 とも思えた。
 ただこれは、
「もし、新吉と別れることになったとしても、私は他の人から好かれる人間なんだ」
 ということで、その考えが、
作品名:時代に曖昧な必要悪 作家名:森本晃次