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時代に曖昧な必要悪

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 ということで、彼の言葉をそのまま受けとめた。
 聡子の中には、二人の関係は、
「相手が自分のことを好きになり、自分が好きになられたから好きになったんだ」
 と思っていた。
 そして、男女関係において、
「それが一番の理想の恋愛関係なのだ」
 と思っていたのだ。
 この思いは、彼と付き合いだしてから感じたことではなく、ずっと前から、つまりは、
「新吉と付き合っている頃」
 にも感じていたことであった。
 要するに、
「私がすべて中心」
 という考え方が、元々の聡子の中にあり、そう感じるからこそ、
「新吉も、今の彼氏も、私と付き合っているんだ」
 ということで、
「二人は、自分と付き合うべくして付き合っている相手」
 ということで、
「自分に対して裏切るなんてことはありえない」
 と思っていたのだ。
 そして、彼女の中にある、
「カリスマ性」
 というものを、まわりが一番感じる時というのは、
「自分ファースト」
 つまりは、
「自分がかわいい」
 と感じた時であった。

                 聡子の恋愛観

 聡子がその彼氏に、
「騙されていた」
 と思ったのは、大学三年生の終わり頃だった。
 大学での勉強を頑張ったおかげか、何とか3年生までの間に、習得すべき単位をすべて習得できた。
「これで、心置きなく就職活動ができる」
 ということであった。
 ただ、聡子が就活をしている時というのは、正直、
「就職難の時代」
 といってもよかった。
 特に正社員の募集はそれほどあるわけでもなく、かといって、派遣もそこまではなかった。
 最初は、
「付き合っていた彼がいることで、就活も頑張れる」
 と思っていたが、すでに彼氏はいない。
 しかも、自分を裏切った男ということで、正直、思い出すのも嫌だった。
 その時に感じたのは、
「元々都会の人間で、本命だと思っている彼女も、同じ都会育ち」
 ということで、
「もし、自分も都会育ちだったら、あんな女に負けることなどなかった」
 と思った。
「本命の彼女」
 というのを見たことがあったが、
「私に比べて、あんな蓮っ葉な女」
 ということを感じていた。
 彼女が出た大学は、全国から学生が集まってくるが、これは、彼女の出た大学に限らず、
「都会の人は、都会の人同士」
「田舎の人は、田舎の人同士」
 という結びつき方をする。
 それは、
「都会の人同士が最初に結びつく」
 ということからきているのではない。
 むしろ、
「田舎から出てきた人が田舎の人と結びつくことで、自然と都会同士が結びつくということになるのだ」
 ということであった。
 それだけ、
「田舎者のコンプレックス」
 というものが強いということであるが、中には、
「都会に染まりたくない」
 という思いから、わざと、田舎の人間を意識する、田舎出身者もいるということであった。
 そんな田舎出身というコンプレックスを自分で意識し始めると、コンプレックス解消に、
「逆に、田舎の人と一緒にいる」
 という考えも浮かんでくるのだった。
 というのは、
「東京の人といっても、元々は田舎から出てきた人」
 ということで、
「相手よりも先に東京にいる」
 ということをステータスにして、
「相手にマウントを取る」
 ということが、どれほどあさましいものかということに、誰が先に気づくかということになるだろう。
 聡子は、
「自分が先に気づいた」
 と思っている。
 そして、そのことに気づくことができたのは、
「自分の中にある、カリスマ性のおかげだ」
 と思うのだった。
 だから、
「彼氏に裏切られた」
 という思いから、もちろん、ショックではあったが、そのショックというものが、
「自分の自尊心を傷つけられたことによるものだ」
 ということが分かっているから、またしても、感覚がマヒしたおかげで、ショックが尾を引くということはなかったのだ。
「いずれ、また誰か現れる」
 と思ったが、
「待てよ、私には田舎に待たせている新吉がいるじゃないか?」
 と思ったのだ。
 そもそも、
「なぜ、すぐに新吉のことを思い出さなかったのか?」
 というのが疑問だった。
 新吉のことを忘れていたわけではない。もちろん、嫌いなどということはあり得ないだろう。
「好き嫌いというレベルではない」
 ということだろうか?
 もし、そう感じているのだとすれば、
「それは、恋愛していたと思っている時期が、高校生だった」
 ということで、
「大学時代と高校時代のギャップというものが、かなり大きかった」
 といってもいいだろう。
 確かに。
「高校時代というものは、大学入試のための時間だった」
 といってもよく、
「本来なら、青春の真っただ中にいるわけで、受験勉強よりも、本来なら身につけなければいけないものがあるはずの時代ではないか?」
 ということで、
「大人になっても、まだまだ子供」
 といわれる人が多いのではないかということをよく聞くが、
「世の中というものが、子供の成長を妨げるような体制を作っているのではないか?」
 と思えてならないのは、聡子だけではないだろう。
 聡子は、結局、都会でも、田舎でも、
「就職はどっちでもいい」
 という中途半端な気持ちになっていた。
 表向きには、
「田舎に帰って就職したい」
 とはいっていたが、心のどこかで、
「今の状態で田舎に帰れば、都会から逃げてきたと思われるのは必至ではないか」
 と聡子は感じていた。
 しかも、そのことに一番敏感なのが、新吉であり、そう思えば、
「一番そのことを悟られたくない相手が、新吉なんだ」
 と感じたのだ。
 それでも、結局、就職は田舎の会社となった。
 内定は数社あり、
「東京でも、田舎でも、それなりに内定はもらえた」
 ということであるが、東京の会社には、正直魅力はなかった。
 企業の規模というよりも、東京の会社のほとんどは、
「採用人数が、かなり多い」
 ということであった。
 ということは、
「それだけ、残る人が少ない」
 ということになるのではないだろうか。
 採用人数が多いところは、
「一年も経てば、3割くらいしか残らない」
 ということをいわれていて、
「それを見越して採用している」
 ということだ。
 つまり、
「就活によって内定がもらえることが、本当の入社ではなく、実際に1年でもやってみて、その間に、ふるいに掛けられる」
 ということを考えれば、よく考えればおかしな会社だといってもいい。
 少なくとも、
「辞めるかも知れない社員に、一年間、給料を払うというわけで、その間にも、人件費がかかるというわけで、本来であれば、就活の時に見極めるべきところを、見極め切らない人事の無能さ」
 ということを考えると、
「会社の体制であったり、トップの考え方がおかしい」
 といえるだろう。
 さすがに、そんな会社に内定をもらっても、
「あくまでも滑り止め」
 ということであり、
「他どこも内定がなければ、そこに行くしかないか?」
 とも思ったが、そんな会社に入るくらいだったら、
「バイトか派遣から始める」
 ということもありではないだろうか?
作品名:時代に曖昧な必要悪 作家名:森本晃次