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時代に曖昧な必要悪

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 店長は、父親の代までは、単独で店長をしていたが、その父親が途中で、傘下に入ってしまったことで、今の店長が、引き継いでいるということであった。
 もっとも、
「店長が優秀だ」
 というわけではなく、近くの土地を持っているということで、スーパー側もむげにもできず、
「とりあえず、店長」
 という形で、社員としての、
「雇われ店長」
 であった。
 だから、
「本人はそれほど、たいそうな立場というわけではないが、それでも、店長ということで、それなりにプライドがあったりしていた」
 ということである。
 だから、従業員から慕われているわけではないので、最初は、聡子とのことも、隠れて付き合っていたが、次第にまわりに分かるようになってきた。
 店長が、隠すどころか、
「バレてもいい」
 と思っているからである。
 昔からの、
「2代目店長」
 といわれていた父親を見て育っているので、経営者という気持ちが強く、そんなに優秀でもないくせに。
「俺が店長でいる間は、俺が親分だ」
 とばかりに、まわりに対して、店主風を吹かせているといってもいいだろう。
 ただ、聡子はなぜか、そんな店長に惚れてしまった。
 普通であれば、
「どうせ、こんな役にも立たない店長」
 と思うのだろう。
 確かに、
「店長としての才覚は、そんなにないかも?」
 と思っていたが、なぜか、
「放っておけない」
 というものがあった。
 どこか、奥さんとして、
「母性本能をくすぐられる」
 というところがあったのだ。
「10人のうち、一人くらいはいるんじゃないか?」
 という、
「その一人になってしまった」
 ということであった。
 しかも、身体の相性がよかったのだから、余計に離れられない。
 聡子とすれば、
「旦那には抱いてもらえない」
 その理由は、聡子は分からなかった。
 しかも、結婚してからすぐということだったので、女としては、
「まさか、飽きられた」
 ということを思うわけはない。
 思うのかも知れないと感じることは、プライドを傷つけられるのと同じだった。

                 精神疾患

 聡子という女は、
「その場に流されやすい」
 という性格だった。
 こんな、
「うだつの上がらない店長」
 に、惹かれるのだから、それも無理もないことだろう。
 しかし、だからと言って、優柔不断というわけではない。ただ、優柔不断に見えてしまうところがあるのが、
「情緒不安定」
 というところがあるからだろう。
 それは、
「病的なくらい」
 といってもいい。
 夫婦がうまく行かなくなった」
 ということを、聡子は、
「自分の、この優柔不断なところにあるのかも知れない」
 と思うのだった。
 聡子という女は、
「その場に流される」
 というわりには、
「頑固で、自分の意志を曲げない」
 というところもある。
 彼女の場合は、完全に、
「長所と短所は紙一重」
 ということで、その表裏が細かい性格にも表れているのだった。
 だから、中途半端に知っている人からみれば、
「二重人格だ」
 といわれるのだ。
 その性格が正反対であることから、
「躁鬱症」
 といわれたり、
「情緒不安定だ」
 といわれるのであった。
 実際に、
「神経内科の医者に診てもらった」
 ということはないので、ハッキリとした病名は分からない。
 特に、神経内科などの病院には、
「首に縄をつけていく」
 というところではない。
 元来、
「本人が、自分の病状を把握し、ひょっとすると、精神疾患なのではないかと納得した上でいかなければ、医者と二人三脚での治療」
 というわけにはいかないだろう。
 特に、友達が、神経内科に行った時、
「怒って帰ってきた」
 ということで、その内容を聞いた時、
「私も同じことになるんじゃないだろうか?」
 と考えたのだ。
 彼女の悩みというのは、
「会社での上司との問題から派生したこと」
 であった。
 というのは、その時、友達が話したこととして、
「私は、先生が、事情を話してくれといわれたので、自分が感じていることを話したのよね。物忘れが激しいことであったり、上司が自分のいうことや行いを、全否定するって話をしたの」
「それで?」
 と、聡子が聞くと、
「そのお医者は、話を聞くだけ聞いて、会社を休職しろっていうのよ」
「それは、当たり前のことじゃないの?」
 というと、
「そんなことをいわれにいったわけじゃなくて、もっと他に聴きたいことがあるのに、まず最初がそれだったので、腹が立ったのよ」
「うん」
 気持ちは分かる気がする。聞きたいことを言いもしないで、最初から分かっていることを、いかにも当たり前のように言われてしまっては、腹が立たないわけもないというものであった。
「私は、病名だったり、どうすればいいかということを聴きたいのに。会社を休職すればいいとか、今まで自分で考えて努力してみたけど、できなかったことをさんさん言われて、それで、それをどう解釈すればいいのかって感じなのよ。それこそ、犯罪事件が起こって、第一発見者になった時、最初に初動捜査の警官に聴かれ、さらに、あとからやってきた刑事にも聞かれ、挙句に、本庁から来た人にも同じことを言わないといけないというのと似てるのよ」
 というのだ。
 彼女は、昔から、二時間サスペンスが好きで、よく、サスペンスに出てくるシーンをたとえに出して話をしていたが、彼女の場合、適格な例で話してくれるので、分かりやすかった」
 といってもいいだろう。
 彼女が言いたいのは、
「何度も同じことを聴かれて、何度も答えているうちに、少しずつ、辻褄が合わなくなってしまうんじゃないか?」
 ということであった。
 特に、最近、
「記憶力が定まらないことを気にしている彼女」
 とすれば、ドラマを見ていて、
「どうして、忘れてしまったり、辻褄が合わないと思えることを分かっていて、警察は聴くんだろう?」
 ということであった。
「自分の病状が、自分だけでなく、まわりの人皆がそうなってしまったんだ」
 と感じるようになったのだ。
 そう、
「自分だけでなく、皆そうなんだ」
 と思うことから。
「皆同じはずなのに、どうして自分だけが違うんだ?」
 と思ってしまうことに、普通であれば、
「自分だけが忘れっぽくなったからなのに」
 と感じるのだろうが、いずれは思うとしても、それまでに時間が掛かりすぎるのだ。
 だから、理解できたところで。
「ああ、自分には精神疾患があるんだ」
 と感じ、やっと自分から病院にいくということができるようになったというわけであった。
 それを思えば、
「私は、自分の状態を納得して病院に行っているんだから、お医者も、自分の覚悟を分かったうえで診察してほしい」
 と考え、
「相手の言葉を真摯に受け止めよう」
 と思うことで、逆に、
「相手がこちらの思っていることと違う対応をすれば、信じられなくなってしまう」
 と考えたからであった。
 だから、彼女としては、
「医者のいうことを鵜呑みにはできない」
 という気持ちもあった。
 しかし、その予想は的中した。
作品名:時代に曖昧な必要悪 作家名:森本晃次