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時代に曖昧な必要悪

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「我慢する」
 という言い方になるというのだった。
「ほう、それは、興味深い発想だね?」
 と、新吉もその話に食いついた。
 ここで感じたのは、
「そうか、オンナというか、奥さんともなれば、自分のことだけではなく、全体のことを見るという感覚になるものなんだ」
 ということであった。
「そうだ、俺は自分のことしか考えていなくて、だから、セックスの面で飽きがきたからといって、自分のことだけしか考えず、それでも、実際には、女房のことを考えているから、どうすればいいのか? と考える」
 と思っていたのだ。
 確かに、そうだった。
 自分の性的欲求がどんな形でも満たされれば、それで家庭も丸く収まると思っていたのだ。
 確かにそうなのかも知れないが、それが自分のためだけにしか考えていないことで、
「家族のため」
 などというのは、言い訳にしか過ぎないということになると思ったのだ。
 彼はさらに続ける。
「だから、オンナというのは、悩んでいる時は、自分で抱え込み、相手に何も言わないのさ。そして、何かを言い出した時、それは、すでに心が決まっている時なのさ」
 というのだ。
「ん? そうなのか?」
 と、新吉は感じた。
「いやいや、男だって、オンナには何も言わないようにしているではないか?」
 ということであった。
 そのことを少し含みを入れていうと、
「確かにそうなんだけど、男というのは、オンナが先に、別れや破局を考えていて、それを、男が聞かされる前というのは、男とすれば考え方が違うんだ」
 という。
「どういうことなんだ?」
 と聞くと、
「旦那というのは、奥さんが何かを悩んでいるということに気づいたとしても、自分から声を掛けるようなことはしないだろう? それは、声を掛けるのが怖いからさ」
 という。
 それに対しては、まったく反対意見があろうはずもない新吉は、黙って頷いていた。彼は続ける。
「だから、男は、こう思うのさ。もし、何かあった時は、オンナの方から相談してくるものだってね」
 という。
「ああ、なるほど、確かにそうだね」
「だけど、オンナとしては、自分の中で、もう後戻りができない状態を作っておいて、初めて男に話すんだよ。つまりは、相手に説得されても、絶対にひるまない状態を自分で作っておきたいんだろうね。ある意味、伏線を敷いているといってもいいのかも知れないけど、それがオンナとしての習性だということであれば、分からなくもない」
 という。
「だけど、そうなると、男としては、どうしようもないじゃないか?」
 というと、
「そうさ、もうその時点で、すでにすれ違っているのさ。男とすれば、初めて聞いたと思うだろう? だから、自分と奥さんは同じところにいると思って、これから説得をすれば、戻ってきてくれると思うのさ。しかし実際には、奥さんは、すでに戻れないところにいて、そこからこっちを冷静に見ているだけなんだ。その奥さんが一人で苦しんできた道を、男は無視されてきたわけだから、男としても、これはたまったものではないといえるだろうね」
「うん」
 と、頷いて、さらに言葉を待った。
 ここまでくれば、完全に、新吉も前のめりであった。
「だけど、オンナとすれば、そんな状態を作ったのは男だと思い込んでいる。それが、一人で先に進んでしまったことの弊害といってもいい、お互いに話をしながら、その地点まできたのであれば、そんな問題は起こらないだろうね」
「俺もそう思う。でも、そんな形を奥さんの方が、望むものだろうか?」
 というと、
「奥さんは、まず、旦那に裏切られているのかも知れない。これは、不倫というハッキリした形でなくとも、結婚までに抱いていた結婚生活であったり、旦那の性格が、違っていたと感じた時、きっと、そのすべての責任を、旦那に押し付けてしまうんだろうね。そこから、少しずつ自分の悪いところを考えていこうと思うのかも知れない。そう思わないと、裏切られたということの信憑性に欠けるだろうからね。だから、まずは、旦那に責任を押し付けるのだけど、そうなると、あとは妄想ということになるので、二人の考えている距離感は、まったく離れてしまったということになるだろう。そうなると、もう相手に何を言っても無駄だということになり、自分一人の殻に閉じこもって、自分なりの結論を出すようになるのさ」
 という。
「そうなってしまえば、もう離婚しかないじゃないか」
 というと、
「そうさ。離婚しかないということになるから、男にはどうしようもないのさ」
 という。
「なるほど、離婚というものがちらつき始めて、奥さんが何も言わなくなれば、問題だというのはそういうことか」
「ああ、だから、皆、奥さんとは会話をしないとダメだっていうんだ。相手が何も言わないから、なんでも分かってくれていると思うのは間違いだといわれるけど、そこは正しいということに、離婚が避けられないと自覚すると、男はやっとわかるんだよ」
 ということであった。
「なるほど。だけど、奥さんが、一人で苦しんでいる時に、旦那が声を掛ければ、何とかなるということなのかな?」
 と聞くと、
「それはどうだろうか? そもそもの二人の性格にもよるだろうし、考え方の違いというものあるからな」
 ということであった。
「確かに離婚の入り口で、最初から距離ができてしまうと、離婚というものが決まってから、実際に離婚するまでに、かなりの労力を使うということになるだろうな」
 といえるだろう。
 そのことをその友達は訴えていたが、新吉も真剣に聞いた。
 だが、話を聞いて時間が経てば、
「心の片隅に残っている」
 ということではあるだろうが、だからと言って、
「今の俺たちの夫婦生活にかかわる何かができたり、ヒントになることはないだろう」
 と考えるのであった。
 そんな時、
「実家の父親が、入院した」
 という報が入り、一時期は、
「介護が必要」
 ということで、聡子が、
「いざという時は」
 ということで、考えられたのが、
「とりあえずの、家族との同居」
 だったのだ。
 これに関しては、聡子から、
「絶対に嫌だ」
 といわれるかと思ったが、そうでもなかった。
 実際に、
「しょうがない」
 といいながら、同居が始まって、半年くらいは、入院している義父の様子を見ながらの介護という形をとったのだ。
 会社は結局辞めることになり、半年介護を続けたが、病院でも、
「奇跡」
 というくらいに回復し、退院してもいいということになってから、
「そんなに介護も必要ではない」
 ということから、
「それでも、予断を許さない」
 ということから、同居はそのままにして、
「私、パートに出ます」
 ということで、聡子は、家族の許しを得ることで、近所のスーパーにパートに出ることになった。
 そもそも、
「お義父さんがよくなったといって、家にいるようでは、さすがに神経が持たない」
 と思った。
 入院しての介護というものと、
「退院してからであれば、違う」
 と感じていた。
「それは、父親の立場からしてもそうだけど、介護をする方としての嫁としても、かなり違う」
 といってもいいだろう。
家には、
作品名:時代に曖昧な必要悪 作家名:森本晃次