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悪魔と正義のジレンマ

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「ということは、もし、犯人がここにいたということであれば、3時間前までは、間違いなくいたということになるけど、それ以降は、ひょっとすると、20分以内までもいた可能性があるということにもなりますね」
 と言ったが、
「それが、今回の事件と関係があるのかどうか難しいところだ」
 というのは、河合刑事にも感じたところだった。
「あくまでも、少し頭の隅に置いておく程度」
 ということを感じたのであった。
 それを考えると、もう一つ気になるのが、
「なぜ犯人は、そんな時間までここにいたということになるのだろう?」
 ということである。
 もし、ここにいたのが犯人ではないと仮定し、下手をすれば、
「犯人だから、ここにいられた」
 という、とんでもない突飛な発想というものが生まれてきたのであった。

                 捜査会議

 この突飛な発想は、時々河合刑事がふと感じることであり、今まで、その突飛な発想が、えてして、
「事件解決につながる」
 ということもあったりするのだ。
 だから、
「まったく関係のないことではないか?」
 と思うながらも、
「心の隅においておく」
 ということを辞めないのであった。
 桜井警部補も、そういう一種の、
「非科学的な捜査」
 というものを嫌ってはいるが、
「時と場合によって」
 いや、
「時と、人間によって違っているといえるのではないか?」
 と考えるようになった。
 それが、桜井警部補が、
「教育に徹するようになった」
 ということで、自分ながらの楽しみを見つけたということで、本人だけでなく、刑事課全体でも、ありがたいことから、
「お互いに得をする関係」
 ということで、ありがたいと思っていたのだ。
 第一発見者であるホテルボーイと、清掃のスタッフの話を聞いたところで、現状の状況も把握できたが、目撃者というと、まず難しいだろう。
 というのも、
「事件の発生時間が早朝で、まだ皆寝ている時間だということ」
 そして、
「部屋が密室であるので、もし、ちょうどの時間、通路を歩いている人がいても、まず気にする人もいないだろう」
 ということ、
「もし、気づいた人がいるとすれば、隣室くらいではないか?」
 と思えるが、ちょうどその時、片方の隣室は、空室であり、もう片方は、すでにチェックアウトしているので、追いかけて確認するというのも難しいだろう。
 そもそも、死体発見の時間が、ほとんどの部屋がチェックアウトした後ということで、目撃者捜しは、まず無理ではないかと思われた時間だったのだ。
 そうなると、期待できるとすれば、防犯カメラの映像くらいしかない。殺人事件ということで、さすがに防犯カメラの押収くらいは難しいことではなく、そのビデオを警察に持って帰って、確認作業が行われることになった。
 現場で分かったことの報告と、防犯カメラの解析、それに、あとは、被害者の身元から、被害者を恨んでいる人間がいないかという捜査が、差し当たっての行動ということになるであろう。
 捜査本部は、F警察署に置かれた。本部長には、
「門倉警部」
 が就任、もっとも、これはいつものことで、そして、こちらもいつものことということで、現場の責任者、および、捜査会議の進行役としては、桜井警部補ということになるのであった。
 さっそく、第一回の捜査会議が行われた。
「被害者の身元ですが、部屋にかかっていた服から見つかった財布の中にあった運転免許証から判明したのですが、名前を高千穂洋三といい、年齢は47歳。H県にあるK大学の研究室の所長さんのようですね。これは同じ背広に入っていた名刺入れから見つかった本人の名刺で判明しました」
 ということであった。
「そのK大学というのは?」
 と桜井警部補に聴かれた若い捜査員は、
「はい、国立の総合大学で、H県の県庁所在地に位置している、結構有名な大学で、理学や医学系の研究室が結構あるようで、その研究室での研究が、結構医学界などでは、評判がいいようですね」
 ということであった。
「じゃあ、この高千穂研究所というところも、その筋では結構有名だったりするんだろうね?」
「ええ、そういうことになりますね」
「大学には連絡を取ったのか?」
「ええ、大学の方でもびっくりしていたようで、さっそく事実関係を確認するということでした」
「ところで、その高千穂所長は、なぜ、今回、そのビジネスホテルに宿泊していたのか聞いたのか?」
「ええ、ちょうど学会が開かれているということのようで、その会合への出席のために、宿泊していたようです。二日に渡っての会合だったので、今日も朝から始まるはずだったのですが、高千穂博士が来ないということで、会場の方でも、おかしいと思っていたようなんですよ。そこで、ホテルに連絡し、ホテルボーイが確認に行ったところ、ちょうど、掃除のために中に入った掃除のスタッフが、殺されている被害者を発見したということでした」
「ん? 掃除のスタッフは、鍵を開けて中に入ったということかい?」
「ええ、カードキーを使ってですね」
「ということは、掃除のスタッフは、宿泊者がチェックアウトしたと思ったから部屋を開けたということなんだろうな?」
「ええ、ご存じとは思いますが、ビジネスホテルなどでは、連泊だったりするお客さんは、昼くらいまでお休みになっているお客さんもいるので、その時は、客の方で、起こさないようにしてほしい場合や、掃除はいらないという場合には、外にプレートを付けて、中に人がいるから入らないように促すことができるようになっているんですが、今回は、その様子もなかったということで、中に入ったということでした」
「なるほど、しかし、実際には、予定として、学会の会合はあり、そこに来ていないので、確認の電話もあった。だから、中に入ってみると、死体で発見されることになったということなんだな?」
「ええ、実際にはそういうことになります」
「妙だな」
 と、桜井警部補が呟いた。
 報告をした若い捜査員はキョトンとしていたが、現場を一度は見ている河合刑事も、
「ええ、そうですね」
 と相槌を打ったのだった。
「何がかな?」
 と、本部長の門倉警部は聴いたが、門倉警部の場合は、分かっていても、分からないふりをして、状況によって、聞き返すということが往々にしてあることから、今回も、どっちなのか、桜井警部補は、どこか上目遣いで、本部長を見たのだ。
 もちろん、本部長の態度が事件に関係があるわけでもなく、気にすることではないが、これが、上層部の会議の進め方なのではないかと思うと、納得できるところでもあったのだ。
「いえ、プレートが貼ってなかったということなんですが、犯人がもし、死体発見を遅らせたいという意志があったとすれば、少なくとも、プレートくらいは、どれかを張っておくと思うんです。起こさないでほしいというようなですね」
 と桜井警部補がいうと。
「だけど、それでも、会議に出席予定があったことで、関係者から問い合わせがあったわけだろう? 部屋に行ってみるくらいはするだろうし、内線電話だって掛けるのではないかな?」
作品名:悪魔と正義のジレンマ 作家名:森本晃次