小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

悪魔と正義のジレンマ

INDEX|8ページ/20ページ|

次のページ前のページ
 

「じゃあ、私は、河合刑事と」
 ということを言った。
 それができるのは、警部補以上から、刑事になって15年以上が経つ刑事ということで、桜井警部補は、そのどちらにも当てはまったのだ。
 他の捜査員でも、この条件に当てはまる人であっても、
「このままでいいです」
 という人が多い中、必ずペアを変えることにしている桜井警部補は、
「部下を育てるのが、今の自分の最優先事項だ」
 と思っていたからだった。
 だから、
「桜井警部補といつも同じような間、ペアを組むことになる」
 というわけである。
 途中で退職した人や、転属になった人でない限り、必ず次回の変更時期が来るまで、桜井警部補も、ペアになった若手刑事も、
「決してペア解消ということはしない」
 ということであった。
 だから、
「二人はまだまだこれから」
 ということであったが、まわりから見ていて。
「河合刑事ほど、桜井警部補と相性が合う若手はいないだろうな」
 と誰もが認めているコンビだった。
 ただ、
「桜井警部補は厳しい」
 ということを前もって聞いていた刑事のほとんどは、
「ペアになりたくないな」
 と、ペアになることに消極的だった。
 だが、実際にその間耐えれば、
「刑事としてのイロハは、しっかり身につけられる」
 ということで、それを嫌がるということは、
「実に最近の若手らしい」
 と思わせるのだ。
 刑事になったのは、勧善懲悪でも、正義感からででもない。下手をすると、
「刑事しかなかった」
 という消去法から生まれた就職だったのかも知れない。
 それを考えれば、
「警察なんて。面白くもない」
 という思いが、今の刑事にも少なからずあることだろう。
 だから、先輩刑事としても、
「嫌々やっている連中を育てようとは思わない」
 と思っていた。
 実際に、刑事になって刑事課に赴任してくる人の中で、何人中何人が、
「刑事という仕事に誇りをもっているだろうか?」
 と思うのだ。
 そこまでいかなくとも、ちゃんと、
「刑事の仕事をまっとうできる」
 という人は、さらにその中から絞られると思うことから、
「最初のふるいで、まず落とされる」
 という人が、すぐに辞めてしまう人だと思った。
 これは、警察に限ったことではなく、他の仕事にでもいえることであって、桜井警部補は、
「自分が選んだ相手に目の狂いはない」
 ということで、
「与えられた期間をまっとうするのは当たり前だ」
 と考えていた。
 だから、
「今までに目の狂いがなかったことが、自分の誇りだ」
 とも思っていた。
 だから、逆に、それが崩れると、
「俺もそろそろ引退かな?」
 とすら考えるようになってきた。
 まだまだ40代後半ということで、まだまだのはずなのに、そこまで考えるのは、
「それだけ自分にプレッシャーをかけることで、いつまでも若い気持ちを失わないようにしないといけない」
 と考えるからであった。
 だから、その中でも、
「逸品だ」
 とまわりにも認められている河合刑事は、
「素晴らしい」
 と桜井警部補は自分でもそう思うのだった。
 だから、
「河合刑事の意見は、少々辻褄が合わないと思っても、見守る気持ちで聞いてみることにする」
 というのが、今の桜井警部補のモットーだった。
 しかし、今回の事件においての、河合刑事の発想は、桜井警部補を久しぶりにゾクゾクさせるものであった。
 そもそも、年齢からくるといってもいいかも知れないが、自分のウイークポイントである、
「パソコンやネット」
 などの、
「IT機器といってもいい」
 というものを分かりやすく説明してくれることで、何かの事件のヒントもあるということで、本当に久しぶりに、
「捜査に対して前のめり」
 になったのだ。
 ほとんどは、若手にやらせてみて。その中で、
「道を間違えている」
 と思ったところで、相手を正しく導くというのが、桜井警部補のやり方であり、モットーでもあった。
 だから、いつも冷静沈着であることを目指していたわけで、これも、
「後輩を育てるための、わざとである」
 といってもよかったのだ。
 だから、今回の河合刑事の疑問を注意深く、そして、興味を持って聞いたのだった。
「要するに、このパソコンを見る限り、ネットは現在も繋がっているということになるわけですよ」
 と河合刑事は言ったのだ。
 他の人は、特に、ホテルボーイは、ホテルマンとしての接客の経験から、河合刑事が何をいいたいのかがピンときたようだった。
 しかし、掃除スタッフは、IT関係には、かなり疎いのか、
「何を言っているのか、まったく分からない」
 と言った雰囲気だったのだ。
 河合刑事は、桜井警部を見ていて、
「考えているとことだ」
 とは思ったが、分かっているのかどうなのか、正体は不明であった。
 しかし、短いとはいえ、数か月の経験から、
「桜井警部補は、分かってくれるはずだ」
 ということは感じていた。
 しかし、まさか、今理解できているとは思っていなかっただけに、分かりやすく説明を行うことに徹したのだった。
 桜井警部補も、分かっていないかのように質問しているということは、君のいうことを考えてみると、
「今は、ネットがつながっているということだね?」
 と言った。
「はい、そうです」
「ということは、ネットがつながっているということは、今から3時間前に、誰かが接続の手続きをしたということだね? 君のさっきの話であれば、パソコンはスマホと違って、WIFIが切れると、有線にしないと、ネットをつなげることができないということになるので、必ず、誰かがネットを継続する手配をしたということになるわけだ」
 といって、桜井警部補は、初めてにやりと笑った。
 それを見て、
「ああ、やっぱり分かってらしたんだな」
 と、桜井警部補に対して、
「さすがです」
 と言いたげに、目配せをし、頭を下げた。
「そう、要するに、被害者が5、6時間前に死んでいるとすれば、ここで誰がその手続きをしたということになるのか?」
 ということであった。
 刑事二人がそれに気づいていて、第一発見者の一人が分かっているのだから、話は早かった。
 そのことにl気づいたホテルボーイは、頭を回転させ始めたのだ。
「ということは、密室だったので、あとから誰も入ってこれないということですよね?」
 とホテルボーイは言った。
「そういうことでしょうね? だた一つ気になるのは、この部屋のドアが閉まらないようにするフックを扉に引っ掛けるだけにしておけば、密室にならないのではないですか?」
 というと、
「それはそうですが、もし、部屋の中に誰かがいて、部屋のロックがかかっていなければ、ホテルの警備室のモニターに引っかかるはずなんですけどね」
 という。
「それはどれくらいの間ですか?」
 というと、
「大体、20分くらいではないでしょうかね」
 という。
「そんなモニターチェックに引っかかった部屋はなかったということですね?」
「ええ、そうです。分かっていれば、その時点で、我々が確認するはずですからね」
 ということであった。
作品名:悪魔と正義のジレンマ 作家名:森本晃次