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悪魔と正義のジレンマ

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「今まで、血の臭いなんて感じたことあったのかな?」
 と思ったが、実際には記憶にはなかった気がした。
 二人が、実際に殺害現場を見た時、陰惨な雰囲気は否めなかった。まるで、
「絵に描いたような惨劇」
 といってもいいだろう。
 被害者は、乱れたベッドの上で胸を刺されて、仰向けになって死んでいた。
「死んでいた」
 ということが分かったのは、その表情が、完全に断末魔の表情を示していて、明らかに争った跡が感じられた気がしたからだった。
 だが、刑事が到着して冷静に見ると、
「これ、本当に争った跡なんですかね?」
 と、一人の若い刑事が言っていた。
 というのは、
「ベッドメイクで、シーツがベッドに嵌っている部分が、すべて外れているんですよ。それでいて、普通ならそこまで乱れていれば、シーツは、床に落ちていてよさそうに思うんですが、そんな様子はないんですね。ということは、あとからシーツをわざとまくり上げたかのようにしたというのが最初からの計画ではなかったのかと感じたんですよね」
 と言った。
「なるほど、確かにそうだ。言われて見て感じたことだけど、これだけ争ったような跡があるのに、シーツにしわがほとんどない状態というのは、言われるとおり、どこか辻褄が合っていないようだね」
 という。
「そしてもう一つきになるのは、ナイフを突き刺したままにしておいたにも関わらず、シーツに、血をふき取ったような跡があるのも不自然な気がしますね」
 というと、今度は、
「いや、それは、犯人が返り血を浴びたので、それを隠そうとしてシーツで拭いたのではないか?」
 と言ったが、
「それもあるかも知れないですが、そうだとすれば、どうして拭き取る必要があったんですか? この犯人が明らかに、偽装工作をするくらいに、冷静だったのか、それとも頭がいいというのか、それだけの人間だったら、返り血を浴びるくらい、最初からナイフを使っての犯罪を計画していれば、それくらいのことは想像もつくでしょうから、だったら、着替えを持っていきさえすれば、その問題は最初から解決すると思うんですよね。それを考えると、この殺人には、他にもいろいろ矛盾が出てくるように思うんですけどね」
 と若い刑事が言った。
「考えすぎではないか?」
 と老練の刑事が言ったので、少し推理合戦はそこで終わった。
 鑑識が調べたところでは、
「死亡から、約5,6時間は経っているでしょうから、早朝の5時から、その前後一時間というところではないでしょうかね? そして、凶器は、ナイフによるものであることに間違いないでしょう。つまりは、出血多量による、ショック死といってもいいと思いますね」
 ということであった。
 見た目そのままという印象だったのだが、刑事が気になったのは、ベッドの横に作業机があるのは、どこのビジネスホテルにもあることだが、そこにパソコンが置かれていた。
 そこで、電源を切ることもなく開かれていたが、時間が経っていることから、スクリーンセイバーになっていたのである。
 そのこと自体に、別におかしなところはなく、当然、パスワードを知らないので、中を見ることはできなかった。
 そこのホテルは、他のホテルと少し違っていて、WIFI機能がついていて、
「パスワードがなくとも、接続することはできる」
 ということであった。
 しかし、パスワードがない状態のスクリーンセイバーであっても、
「バッテリーの使用状況と、もう一つ、ネットの接続状況というのは、見ることができるようになっている」
 ということを、若い刑事は知っていた。
 そこで、
「おや?」
 と感じたのだが、
 その反応に、ベテラン刑事もビクッときたのだった。
「どうしたんだい?」
 と聞くと、彼も、ビジネスホテルの中には、
「WIFIというものをずっと使い続けることができない」
 というところがあるのを知っていたのであった。
 それを、ホテルボーイに訊ねてみると、彼もそのことは知っていたようだ。
「お客さんから、よく質問を受けますからね」
 という。
 さらに彼は続けた。
「このホテルでは、WIFIというのは、ずっと接続ができるというわけではないんですよ。つまり、定期的に、うちでは、約3時間使っていれば、自動的にWIFIが切れる形になって、再度、接続手続きをしてくださいと、ポップアップしてくるんですよね。これは、スマホにしても同じことで、もう一度接続をお願いするようにしているので、もし、それをしないと、WIFIはそのまま接続されないままになってしまいますね」
 ということであった。
「つまり、スマホなどでは、その会社の専用回線である、有料回線に繋がってしまうので、それが自動的に起こることで、別にお金がかかるということを意識しなければ、問題なく使えますが、パソコンなどでは、いちいち接続しないといけないので、急に回線が切れたということになりますね」
「それはそうでしょうね」
 と、若い刑事と、ホテルボーイの話を聞いていて、ベテラン刑事は、
「分かるように説明してくれよ」
 というのだった。
 彼としては、確かに話が難しいわけで、特に、WIFIなどというものがどういうものかということすらよく分かっていなかったので、それこそ、チンプンカンプンだったことであろう。
「ちなみに、WIFIというのは、ネット罫線のことなんですけど、本来であれば、電話線のように、線をプラグにはめ込むことでネットがつながるということはご存じですよね?」
「ああ」
「でも、今の時代は、それを無線で行うことができるんです。つまり、どこかに、回線の中継点となる機械をおいて。そこから飛んできた電波を受信することで、ネットがつながるということですね。その時に、セキュリティの問題などから、パスワードを必要としたり、会社が契約している回線であれば、一定時間しか有効ではないというような設定の回線もあったりします、それが今のお話だったわけです」
「ということは、今の話でいけば、このパソコンでは、今、回線がつながっているかいないのかを君に分かるということになるのかい?」
 といわれた若い刑事は、少し勝ち誇ったように、
「ええ、分かっています。今このパソコンは、パスワードを打ち込まなければいけない状態になっていますが、実は、ネットがつながっているかいないかというのは分かるんですよ」
 といって、スクリーンセイバー状態の画面のマウスを動かして、右下近くにある部分に、電池を横に下ようなマークと、まるで、年輪のある切り株を、4分割したかのような、それこそ、バームクーヘンのような形のものを指さした。
「このバームクーヘンが違う形だったら回線がつながっていないということになるわけです」
「それが、一体何を意味しているというのかい? この事件と何か関係があるとでもいいたいのかな?」
 と聞いた。
 ちなみに、この若い刑事は、
「河合刑事」
 といい、年配の刑事は、
「桜井警部補」
 と言った。
 まだまだ若い河合刑事の、
「お目付け役」
 ということで、桜井警部補がペアになったわけだが、それを決めたのは、桜井警部補自身だったのだ。
 数か月前に、ペアの変更が行われた時、
作品名:悪魔と正義のジレンマ 作家名:森本晃次