小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

悪魔と正義のジレンマ

INDEX|5ページ/20ページ|

次のページ前のページ
 

 親が裕福なのは、小規模であるが、会社経営をしていたからだった。
 祖父の代から、同族会社ということでやってきたが、
「今の時代にそぐわない同族会社」
 ということであったが、普通であれば、大きな会社に吸収合併されても仕方がないところであったが、専務というのがやりてで、その専務は、実は、慎吾の父親の弟ということであり、慎吾から見れば、
「おじさん」
 ということになるのだ。
 そのおじさんは実に頭がキレる人で、たびたびの会社の危機を救ってきたのだ。
 一時期は、
「自分が社長になるためのクーデター」
 というものを企んでいたのではないか?
 といわれていた時期があったが、あくまでもウワサで、すぐに断ち切れになった。
 しかし、
「その割には、リアリティがあったな」
 といっている人が結構いたが、それも、すぐに下火になっていたのであった。
 逆に、
「リアリティがあればあるほど、印象深いが、忘れてしまう時は、一気に忘れてしまうのではないか?」
 という、心理的なことがあるというのを、最近発見したのが、
「高千穂研究室」
 だったというのだ。
 最近の高千穂研究室の成果は、世間でもかなり認められていて、文科省のお墨付きももらっていることで、
「金に糸目はつけない」
 ということで、高千穂博士も、やりがいがあると思っていた。
 ただ、本人がどこまで分かっているのかは分からないが、それなりのプレッシャーがあったのは間違いない。
「何といっても、バックには、国家がついている」
 ということで、それなりの成果を挙げないと、それこそ、
「税金泥棒」
 といわれても仕方がないだろう。
「そんなことは、博士も分かっているさ」
 と、そのような話を研究員にすれば、研究員は、怒りから、そう言って、話を一蹴することであろう。
 ただ、それも、研究員がむきになってしまうというところが、
「何かおかしい」
 と思わせるところがあるが、彼ら研究員は、
「研究を一途に行っていることで、博士に対して気を遣うということには長けているが、それ以外の人に対して気を遣う」
 ということはできない性分であった。
 だから、まわりから何かを言われると、必要以上に、喜怒哀楽を表していた。
 そのことは博士も分かっていることで、本来なら、注意喚起をしてもよさそうなのだが、敢えて、
「何も言わない」
 ということに徹しているようだった。
「そんなことを研究員に強要すればするほど、却って意識してしまって、余計なことにならないとも限らない」
 ということであった。
 博士の言い分はもっともであるが、博士はそれ以上のことを考えていた。
「研究員が自然に対応できるように、自分たちの研究体制をその通りにすればいいんだ」
 と考えていたのだった。
「まわりを、個々の気持ちに合わせる」
 という、
「一見不可能だ」
 といえるようなことを、博士は堂々と言ってのける。
 これは、時々、表に向かって発信していることであった。
「博士がいうのだから」
 ということで、
「なまじウソとは思えない」
 という人もいれば、
「そんなバカなことができるはずがない」
 ということで、最初から博士の考えを否定し、
「あの人が博士だなんて、本当なのか?」
 と思わせることで、まわりの目をくらませることに成功していた。
 それぞれ、両対象の見方があるということは、それだけ、神出鬼没で、とらえどころがないと思わせ、
「考えていることを隠すにはちょうどいい」
 といえるだろう。
 それこそ、
「木を隠すには森の中」
 あるいは、犯罪などで、
「証拠品を隠すには、一度、警察が捜査したところが一番安産な隠し場所だ」
 といわれるようなものだと考えていた。
 さらに、博士はいつも考えていることであろうに、ついつい忘れてしまうということの中に、
「自分がやっていることを、自分がやられる:
 ということに対して、気づくことはないということであった。
 この発想は、戦争などの作戦でよく言われることで、どこか、
「長所は短所の裏返し」
 とでもいえることであろうか。
 もっと言えば、裏返しである、長所と短所というものが、紙一重といわれているということを、理屈では分かっているつもりでも、実感としてないのであれば、
「意識していない」
 ということと同じことだといえるだろう。
 高千穂博士が殺されたのが発見されたのは、あるビジネスホテルの一室だった。
 心理学研究の会合があり、東京の学会での発表会に出席した時のことだった。
 その心理学研究の会合というのは、毎年同じくらいの時期に催されるもので、さすがに毎年というわけにはいかないが、それでも、博士は出席できる時には必ず出席をしていたのだ。
 この研究会は、最近は、
「心理学の研究だけではなく、精神疾患についての研究ということも議題に上がることが多く、その中でも、医師による、症例発表というのも、結構時間が割かれているようだった」
 だから、最初の頃よりも時間が掛かるようになり、最初であれば、一日で終わったものが、今では、翌日の午前中くらいまで掛かるようになっていた。
 今まで、夜は、
「料亭での懇親会」
 などというものが行われていたが、さすがに翌日もあるということで、食事会に毛が生えた程度のもので収めていたのだ。
 だから、そこまで酒を飲むわけではないはずだったのだが、死体が発見された時、
「博士がかなり酔っている」
 ということが判明したが、それについて、最初は捜査員の誰も不思議には思わなかったようだ。
 死体の発見というのは、清掃スタッフが見つけるのと、ホテルボーイが見つけるのとで、ほぼ同時だったといってもいいだろう。
 ホテルボーイとすれば、本来であれば、午前中の会合に、博士が現れないということで、
「どうしたのだろう?」
 と、とりあえず、ホテルに連絡を取ってみた。
「チェックアウトされていませんね」
 ということだったので、
「まだ、寝ておられるのだろうか?」
 ということも考えられた。
 ちょうどその時、清掃のスタッフが、ホテルの部屋を掃除に入っていたのだが、中には、
「睡眠のため」
 であったり、
「連泊をする」
 というお客様がいることで、
「掃除をしなくてもいい部屋」
 というものがあるが、その場合には、部屋の中に、マグネット式の、プレートがあるので、
「それを扉に張り付けておく」
 ということで、客が意思表示をするというのが、常識のようになっていた。
「起こさないでください」
 であったり、
「掃除はNG」
 などということが書かれているのである。
 それを見て、掃除のスタッフは、
「この部屋は、掃除しなくてもいいんだ」
 ということで、
「中でまだ寝ているか?」
 あるいは、
「すでに、どこかにお出かけになっているか?」
 ということを考えるのだろう。
 だが、博士の部屋の前には、何も張り付けられていなかった。だから、清掃のスタッフは、
「掃除をしよう」
 と思っていたが、その時、ちょうど、ホテルボーイが上がってきたのだった。
 お互いに顔を見合わせたが、ホテルボーイが最初に聴いた。
作品名:悪魔と正義のジレンマ 作家名:森本晃次