悪魔と正義のジレンマ
「それが、あの病院に逃げ込んだやつの実績だったのではないか?」
ということになる。
確かに、
「悪党」
ではあったが、今ほどひどい首相ではなかった。
だから、
「他にできる人がいない」
ということでただ、ズルズル来てしまったことが、やつの実績記録ということになったのであった。
それを考えると、
「少なくとも、病院に逃げ込んだやつからこっちは、首相というには、憚りがある」
ということから、あえて、
「ソーリ」
という呼び方をする人がいるということを聴いたことがあるが、
「本当にそうなのか?」
ということに、信憑性というものはないのだった。
それを考えると、
「国家が亡国を迎えているのは、ただの架空の話ということで片付けていいのだろうか?」
といってもいいだろう。
実際に、そういう政治を含めて、今の時代、いろいろな有識者によって、セミナーや会合が開かれている。それが、今回の、学術会合もその一つだということで、ホテルマンも、そういう会合を行っている博士や有識者に、一定の造詣を深めているといってもいいだおう。
だから、ホテルマンは、
「高千穂話せに注目していた」
ということであった。
しかし、まさか、
「その高千穂博士が殺害される」
などということが起こるとは思ってもいなかったので、
「ホテル始まって以来の大事件」
といってもいいだろう。
これまで、ホテル内において、
「殺人事件」
というものが起こったことがないわけではなかった。
何度か実際にあり、ただ、殺人事件ではなく、
「自殺だった」
ということはあっただろう。
密室で、睡眠薬を服用しての自殺」
というのは、このホテルだけではなく、あったことで、実際に、
「まるでブームのようだ」
という時期があった。
このホテルは
「昭和の頃からあった」
ということで、実際に新しいところではないので、特に、バブル崩壊も経験しているので、その時期に自殺する人も結構いて、ブームの時期のホテルマンたちは、精神を病んでしまう人もいたが、普通に、
「慣れっこ」
になった人もいたようだ。
もっとも、それからかなり時間が経っているので、自殺をする人もめっきりいなくなり、殺人事件というのも聞かなくなった。
「だから、犯罪事件というものは、ビジネスホテルでは少なくなった」
ということで、今の若手のホテルマンは、
「ホテルで人が死ぬなんて」
と、初めて経験する人がほとんどだった。
もちろん、今回の第一発見者であったホテルボーイも、清掃のスタッフも、その後は、しばらく、そのショックが消えたわけではなかったようだ。
掃除のスタッフなどは、
「部屋に一人で入るのが怖い」
ということで、特例として、もう一人と一緒に部屋に入るということで、何とか仕事を続けていた。
ホテルボーイも、部屋に赴くことができれば、他の人になるべくお願いするということをしていたが、若さからか、気分転換が早いようで、数日もすれば、前のような仕事がこなせるようになり、ショックもなくなってきているようだった。
その後、警察からの聞き込みも何度かあった。
最初こそは、
「まだ、ショックが起こっているので、どこまで話せるか分かりませんが」
ということであったが、そこまで気にはしていなかった。
話の中で、
「実は、今回の被害者が、睡眠薬を服用していたんだけど、それについて、何か気になることはないかね?」
と刑事から聞かれ、彼はふと思ったこととして、
「そういえば、ユニットバスのところにあった洗面台の上に、何かの薬の袋が置かれていましたね」
ということであった。
睡眠薬というと、普通は錠剤で、ビンに入っていると思うので、そのクスリは睡眠薬ではないと思えた。
「何の薬か分かりますか?」
と聞くと、
「ハッキリは分かりませんが、ひょっとすると、胃薬ではないかと思うんですよ」
ということであった
「胃薬ですか?」
と少し落胆した刑事だったが、
「でも、それが胃薬だということであれば、他にも薬を飲んだという可能性がありますよね?」
というホテルボーイの言葉を聞いて、
「というと?」
「いえね、薬って、漢方薬などのようなもの以外というと、食後に飲むのが普通ンじゃないですか。つまりは、意を痛めるということが原因だっていうんですよね。だから、何か突発的に、常備薬、つまり風邪薬や、頭痛薬などを服用する時、空腹の状態であれば、胃薬を一緒に飲むと思うんですよ」
という。
「そういえば、帰ってきた時は宴会の後だったということで、食事は済ませているだろうから、胃薬を飲んだとすれば、普通に胃が痛くなったという可能性も否めませんが、もし、他に服用する薬のために飲んだとすれば、空腹状態である、深夜から朝方に掛けてろいうことになるわけで、そうなりと、眠くなるまでに時間もかからなかったということで、辻褄は合ってくるわけだ」
と言った。
だが、河合刑事は、少し疑問があり、
「でも、眠ってしまって、殺されるまでにこの部屋が密室だったということであれば、犯人は、少なくとも、睡眠薬を服用する前にこの部屋にいたということになるわけですよね? もし、扉を開けっぱなしにしていたとしても、20分で警報が鳴るということであれば、その間に、犯人を招き入れたということになる。自分を殺す相手をですよね」
というのだった、
そこまで考えると、
「今回の犯罪には、何か時間というものが影響しているような気がしますね」
ということであった。
「WIFIの接続に気が付いたのは偶然であったが、あれも、3時間という縛りがあったわけで、部屋のロックも20分以内に密室にしないと、下のフロントで分かることになるというのを考えると、何か不思議な気がしてくるわけですよ」
というのだった、
もちろん、あまり必要以上に考えることはないのだろうが、
「考えれば考えるほど、混乱してくることを考えると、やはり、この事件は複雑だということになるだろう」
河合刑事は、今回の事件に対して。これまでの犯罪事件にはないものが感じられた。
それを、
「刑事の勘」
ということで片付ければいいのかどうか分からなかったが、同じ思いを桜井警部補も感じていると思うと、ある意味、ワクワクするものがあった。
今回の発見というか、
「ベルボーイが思い出してくれたこととしての、問題であった」
ということであるが、一つ気になったのが、
「なぜ、鑑識はそのことを言わなかったのか?」
ということであった。
鑑識に聴いてみると、
「そんなものは発見されなかった。分かっていれば、ちゃんと報告書に書いていますよ」
ということであり、それももっともなことであった。
ということは、ベルボーイの言葉に嘘がないということであれば、
「誰かが、その場から証拠品を持ち出した」
ということになる。
考えられるのは、掃除のスタッフしかいないわけだが、なぜ、そんなことをする必要があるのか?
もし、くせで捨てるとしても、部屋の中のごみ箱に捨てるであろう。
ただ、それが残っていると犯人にとって都合が悪いことなのか、それとも、
作品名:悪魔と正義のジレンマ 作家名:森本晃次