悪魔と正義のジレンマ
「防犯カメラのチェックをお願いしよう。あの部屋に誰か第三者が入ったのは間違いないわけで、防犯カメラに映っているかも知れない。そしてその時に忘れてはいけないのが、いつ入ったかということだ。この間最初に部屋で気になったこととして、WIFIがつながっていたということから、死体が発見されて、我々がパソコンを確認するまでの、救撒くとも3時間以内に、誰かがそこにいて、パソコンを捜査していたのは間違いない。被害者はすでに死亡していたということは間違いないので、犯人である可能性は高い。それを踏まえて、防犯カメラを確認してほしい」
ということであった。
「次にできればでいいが、隣の部屋に宿泊していた人に連絡が取れれば、なんでもいいから声が聞こえたかどうかを聞いてきてほしい。些細な声だったり、音だったりというのが、何かの役に立つかも知れないからな」
ということであった。
桜井警部補も、河合刑事も、この時点で考えていたのは、
「かなり親密な関係の相手だったのではないか?」
ということを考えていたが、
「かといって、先入観での捜査は禁物」
ということも分かっていて、
「必要以上に考えないようにしよう」
ということであった。
「とりあえず、まずは、この辺りを中心に、捜査をしてほしい。何かあったら、すぐに報告してほしい。それによって、第二回。第三回の捜査会議を開く必要があるからな」
捜査会議というのは、
「捜査員の、情報共有」
というのも当然であるが、それによって、捜査方針が決定し、逸れてしまいそうな捜査状況を一本に戻すという意味もある。
刑事ドラマなどでは、よく、
「はぐれ系」
といってもいいような、
「単独捜査というものが好きな刑事」
というのが現れて、捜査方針をめちゃくちゃにしてしまう人が出てくるのが多いが、それは、過剰に、
「警察組織の捜査が、あまりにも、凝り固まったものということで、それに挑戦するものとして描かれていることから、ドラマとして、人気なのだろう」
特に、日本人の、
「勧善懲悪」
という感覚であったり、
「判官びいき」
のようなものから、
「一人で、警察組織に立ち向かう」
というような、
「アウトローなはぐれ刑事」
というのは、喜ばれるのだ。
それがいいことなのか悪いことなのか分からないが、
「ドラマのように、簡単にいかないのが現実」
ということであり、
「事実は小説より奇なり」
といわれるが、
「まさにその通りだ」
といってもいいだろう。
今回の事件がどのようになるのかというのは、まだ始まったばかりで分からないが、少なくとも、いくつかの疑問点が残った。
「被害者が、犯人を簡単に部屋に入れた」
「被害者が睡眠薬を服用していた」
「WIFIの設定から考えて、殺害されてから数時間後に、少なくとも誰かがそこにいたという事実」
「犯人は、被害者がこのホテルに泊まっているのかが分かったか?」
もっとも、これは、関係者に問い合わせれば分かることであるし、親しい間柄なら、本人に聴けばいいことであるが、それを、
「自分を殺すことになる相手に教える」
というのも、何かおかしな気がする。
あとは、他の殺人事件と同じで、共通する疑問や、解き明かさなければならない事実というものもある。
もちろん、
「犯人が誰か?」
ということは最終的な問題であり、そのためには、
「殺害動機」
であったり、
「容疑者が決まってくれば、その中でのアリバイ捜査」
というのもあるだろう。
そんな捜査がこれから行われるわけで、その前に浮かんだ疑問が解決できるかどうかというもの問題であった。
実際に今のところは、疑問がいくつか残ったということから、
「一筋縄ではいかない」
と考えたのだった。
やはり疑問の中で大きいのは、最後に見つかった。
「睡眠薬の服用」
ということではないだろうか?
睡眠薬
まず、捜査の中で、
「防犯カメラの解析」
というものが最初に分かることであった。
特に、被害者が宴会から帰ってきた時間。
「ちょうど、10時半くらいに戻ってこられたと思います」
というホテルマンの話であった。
なぜ、ハッキリ覚えていたのかというと、その人が、学会の偉い先生であるということは、数日前から、話題になっていて。その日に見たホテルマンは、
「この人が有名な博士」
ということで、想像にたがわぬだけの人物であると感じたことで、注目をしていたということであった。
今回は特に、
「毎年恒例の開催であったが、イレギュラーだったこともあって、博士たちが同じ宿に泊まることができなくなったということだったので、今回だけのことだということは分かっているので、余計に、気になってしまうのだろう」
ホテルマンからすれば、
「まるで、首相や天皇が泊まる」
というくらいのワクワクだった。
もっとも、泊まるのが、
「首相」
ということで、
「ソーリではない」
ソーリというのは、
「ただ、国家主席という名の下での、仮面をかぶった何もできない男」
と考えているからだ。
特に最近のソーリ連中というのは、
「ろくなやつがいない」
ということで、今までであれば、
「あいつが最悪だから、他の人に変わりさえすれば、政治はよくなる」
と思っていたが、ここ数年間というのは、何代か変わったソーリのほとんどは、
「やっと変わったと思ったけど、すぐに前の方がマシだった」
ということが分かってきた。
「そういえば、ここ数年で、すぐにソーリは変わったが、その前のソーリは、悪どいことばかりしていたのに、
「歴代一位の通算在籍期間」
ということだったではないか?
「なぜなのか?」
ということを考えていたが、その理由として、
「なぜ、こんな簡単のことに気づかなかったのか?」
ということであるが、それこそ、
「誰も他にいなかった」
というだけのことだったのだ。
その男が、実際に、
「歴代記録」
というものを作ってからすぐに、
「体調を崩したので、病院に入院する」
ということで、本来であれば、自分が率先して政治の難局に立ち向かわなければいけない立場で、
「そのために、ソーリになった」
という状態で、記録を達成したという実績を残して、簡単に、土俵を降りるということになったのだ。
つまりは、
「首相の立場を放り出して、病院に逃げ込んだ」
ということであった。
だから、それ以降の首相は、皆、どんどんひどくなり、就任早々、
「あいつ以外だったら誰でもいい」
とまで言われるようになったが、実際に辞めてしまうと、
「今度は期待できる」
というのも最初だけ、組閣の時点で、
「こいつも今までと変わらない」
ということになるのだ。
そうなると、
「また他のやつを」
といっても、簡単に辞めさせるわけにもいかないわけで、
「どうせなあやらせてみるか」
ということでさせて見ると。やっぱり最低最悪の首相ということで、結果は変わりがなあったのだ。
しかし、
「だったら、他に誰が?」
ということになり、結局、任期までさせることになる。
作品名:悪魔と正義のジレンマ 作家名:森本晃次