自殺というパンデミック
ソープランドに勤めていて、年齢は22歳。今のお店に入って、半年だという。
その前には別の店にいたということだが、その店も一年くらいで辞めている。
「お店を転々とする子は少なく無いですからね」
と店長が言っていたのが、
「誰かとトラブルのようなことはなかったですか?」
と聞いてみると、
「それは分かりませんでしたね。彼女は性格的に、静かな方で、自分の気持ちを表に出すことはなかったです。だけど、真面目で実直な性格でしたよ」
と、勤めていたとちらの店でも、同じような評価だった。
「派手なところは見られましたか?」
と聞くと。
「いいえ、そんなことはありませんでしたね」
「でも、こういうお店だと、あまり目立たないような女の子というのは、あまりお客さんもつかなかったりするんじゃありませんか?」
「いえいえ、そんなことはないですよ。お客さんの中には、恥ずかしがり屋さんもおられます。特に初めて来られるようなお客さんは、特にそうなので、そういうお客さんには、彼女のような女の子がいいんですよ。お客様にとっては、癒しになるとおっしゃってくださる方も結構いますからね」
ということであった。
「なるほどですね。じゃあ、彼女にはリピーターも多かったんでしょうね?」
「ええ、それなりにいましたよ。しかも、初めてのお客さんで、フリーの方には、彼女を推薦したりするので、彼女の出勤の時は、結構忙しかったはずです」
という話になったのだ。
他の女の子にも話を聞いてみようかと思ったが、こういうお店では、女の子同士が顔を合わせることはまれだという。もし待機時間があっても、その日に割り当てられたお部屋から出ることもあまりないだろうから、偶然すれ違っても、頭を下げる程度ではないかということであった。
「皆さん、それぞれに忙しいですからね」
ということであった。
「じゃあ、彼女と特別仲が良かった方というのはいなかったんですかね?」
「そうですね、聞いたことがありませんね」
ということであった。
店長さんから話は聴けたが、それにしても、まさか彼女が、
「真面目で実直な性格だ」
ということを聴かされるとは思ってもいなかった。
部屋の様子を見れば、
「派手好きで、大雑把で、ずぼらな性格ではないか?」
と思っていたイメージが、まったく消えてしまった。
だが、人というのは分からないもので、
「二重人格」
という性格だという人もかなりいるだろう。
ただ、お店に行ったことで、元々分かりずらかった彼女の性格がさらに分からなくなったといってもいいだろう。
そうなると、問題はやはり、
「自殺の動機」
である。
今のところ、遺書にはそれらしきことは書いていない。それこそ、
「衝動的な自殺ではないか?」
と思われても仕方がないが、そのわりに、睡眠薬の量もしっかり分かっていたようで、
「計画的な自殺」
ということであれば、何らおかしなところはないと思えるのだ。
とりあえず、近所に聞き込みをすることにした。
「お隣の中村さんですが、お付き合いはありましたか?」
とマンションの隣に住む人に訊ねてきた。
お隣さんは、男性で、年齢的には、30代前半くらいだろうか?
警察の聞き込みに対して、あまりいい気分がしないのか、警察手帳を示した時、明らかに面倒くさそうな顔になった。
しかし、刑事の聞き込みなんてものは、いつもこんなもので、この時にはいつも、
「もう少し市民が協力してくれればいいのにな」
と感じるのだ。
それだけ、世間の冷たさというものを感じさせられるというもので、事件があって、付近の聞き込みにいけば、まず間違いなく、警察手帳を見て、胡散臭そうな顔をされるのだった。
「ああ、お隣さん、自殺をなさったそうですね?」
と吐き捨てるようにいう。
「ええ、そうなんですよ、中村さんについて、何か気になることとかなかったですか?」
と清水刑事が聞くと、
「いいえ、ほとんど近所づきあいのようなことはありませんでしたからね」
と相手はいう。
「お出かけになる姿とか見たことありますか?」
「うーん、そんなにはないですが、たまに夕方出かけられることもありましたね。朝出かける時もあったので、シフト制の仕事なのかとは思っていましたが」
と隣人はいうが、ソープのようなところは、基本的に、朝の6時から午前0時までが、
「営業ができる時間」
ということが風営法で決まっていて、それを元に、各都道府県において、
「その範囲内で、独自に決めることができる」
つまり、
「都道府県の条例」
というものを元に、あとはまたその範囲内での営業ということになる。
特に、ソープランドのようなところは、その値段でランク付けがされている。
昭和の頃くらいまでは、
「ボーナスが出ないと来れない」
というほどの値段で、いわゆる高級店ばかりだった時代があったが、次第に、値段によってランクが分かれるような体制になり、
「大衆店」
であったり、
「格安店」
などと言われるお店が出てきたのだ。
「高級店」
というのは、お客さんも、高いお金を払うのだから、
「プロの技」
というものを味わいにくる。
だが、大衆店というのは、
「気に入った女の子と時々会える」
あるいは、
「癒しをもらって、明日からの生活の活力にしたい」
ということで、高級店のように、
「ボーナスが入らないと、なかなか来ることができない」
というようなこともなく、
「数か月に一度」
人によっては、
「月に一度くらいのペース」
ということで来る客もいるという。
「プロの技」
というものを味わいに来るというよりも、
「女の子との疑似恋愛を決まった時間買いに来る」
というイメージで、やはり、
「癒しをもらいにくる」
という感覚から、お店側も、なるべく客に、店を出た時、罪悪感のようなものが起こらないようにさせるということに気を配っているところもあるだろう。
ただ、あまり客にその期にさせてしまうと、トラブルの元になるので、あくまでも、
「お金で癒しの時間を買う」
という感覚にさせながら、客に、
「リピーターになってもらう」
ということを考えないといけないことは分かっているのだ。
そして、もう一つが、
「格安店」
と言われるもので、ショートコースというものが主流の店だったりする。
特に、歓楽街というところには、
「無料案内所」
などというところがあり、例えば、飲み会の後など、
「遊んで帰ろう」
ということで、飲み屋を出てから、どこに行こうか決めかねている時など、
「終電に間に合うようなショートコースで」
と考える人にはちょうどいい。
中には、
「旅行者などが、繁華街で朝まで飲んでいて、ホテルに帰って寝る前に、ちょっとだけ」
ということで、こちらもショートコースを望む客のために、早朝サービスをしている店が多い。
つまり、
「朝6時からの営業という早朝サービスというのは、基本的には、格安店くらいではないだろうか?」
と言われている。
特に、高級店では、まず早朝サービスは聴いたことがない。
女の子の質の問題と、客自体、
作品名:自殺というパンデミック 作家名:森本晃次