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芸術と偏執の犯罪

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「身体がまるで鉛のように重たい」
 という錯覚に駆られるのを感じるのであった。
 なるほど、確かにここにやってくる人は、キャンパーが言っていたように、結構いるようだ。
 その証拠に、駐車場には10台以上の車が止まっていて、実際に水を汲んでいる姿を、車の台数から想像してみると、
「彼の言ったことも、まんざらでもないだろう」
 と感じたのだ。
 だが、実際に行ってみると、そこには数人しかいない・
「おや? あれだけの車は何だったんだろう?」
 と刑事は思った。
 疑問に駆られた刑事は、そこにいる人に聞いてみた。
「中茶上にはあれだけの車があったのに、他の人は?」
 というと、
「ああ、この場所には複数の水くみ場があるので、それぞれの場所にいるんじゃないかな?」
 と教えてくれた。
 地図上では、一つしか印はつけられないということであろうが、刑事とすれば、
「それだったらそうと、あのキャンパーも教えておいてくれればいいのにな」
 と感じたのだ。
 今のように、
「現地で聞けばすぐに分かる」
 と思ったからであろうか。
 それとも、警察が嫌いで、
「いじわるでもしてやろうと思ったのか?」
 とも感じたが、
「まさか、そんな子供のようなことをするわけもないだろう」
 と思ったのだが、それはあくまでも、警察側の考え方。
 庶民が警察に対して、どちらかといえば、あまりいい気持ちはないということは分かっている。
 何といっても、公務というのを鼻にかけていると思っていると感じているからであった。
「同じ公務員でも、役所仕事とは違うのにな」
 と思っていても、実際には、同じことを何度も聞いてみたりという、杓子定規なところは、確かに否めない。
 それを思えば、
「警察官というのは、因果な商売だ」
 と感じるのだった。
 警察官が、そこにいた人に聞いた道を歩いていくと、そこは、水くみ場としては、少し厄介なところで、バランスを崩すと、滝つぼに飲まれそうなところであった。
 だから、今では、立ち入り禁止の札が立っていて、矢印の標識が立っている。どうやら、別の場所に誘導するようだった。
 だが、刑事が気になったのは、その矢印ではなく、立ち入り禁止の柵ができているその先に、石でできた台のようなものがあり、そこに、黒いエナメル性の女性用のハンドバックが置かれていることに気づいたからだ。
 日が昇ってきて、明るく感じられる今だから分かるのであり、しかも、他の、
「常連さん」
 ということであれば、
「この先を降りていけばいい」
 と思うことで、視界は、まわりに及ぶことはないと考えると、誰も何も言わなかったというのも分かるというものだ。
 初めてきた場所で、しかも、刑事は証拠を探そうと躍起になっているのだから、すぐに見つけることはできたが、それまでに何人がやり過ごしたかとも思ったが、実際には、そんなにたくさんはいないだろうと感じたのだった。

                 放置自動車

 そのハンドバッグを見ていると、確かにこの場所にはまったくふさわしくないというものであり、しかも、
「忘れていくというようなものでもない」
 ということから、刑事とすれば、
「これが遺留品か? だとすると、ここが犯行現場なのかも知れないな」
 と思い、さっそく、柵を乗り越えて奥に入った。
 そこには、最初に感じたのと違わないハンドバッグが置かれていて、
「こんなところにあるのは、いかにも不自然だ」
 としか思えないものだった。
 確かに、違和感ありありであるが、それだけに、人によっては、
「路傍の石」
 という感覚になったかも知れない。
 もちろん、皆知っているだろうから、こちらに意識を示さないだろう。
 しかも、足元が濡れていて、まわりに意識を向けるよりも、転ばないようにするために、足元に注意を持っていくというのは、当たり前のことであった。
 刑事がそのハンドバッグに指紋がつかないように、手袋をしていたので、正直中を確認するのは、少し骨が折れた。
 何といっても、その場所は、
「滝が水を打ち付ける」
 という場所なので、湿気は完璧であり、身体を中心に、すべての場所に、へばりつくものを感じさせていたのだった。
 だから、どれだけの時間置かれていたのか分からないが、少なくとも、5,6時間くらいは放置されていただろうから。十分に、湿気を帯びていても無理もないことだった。
 中をみようとしても、それぞれにへばりついているようなので、容易には確認できるものではなかったのだった。
 それでも、普段から、こういう湿気を帯びていないところでのこういう状況には百戦錬磨だということで、何とかわずらわしさを感じながら、仲を一つ一つ確認してみた。
 そこには、定期入れがあり、そこには、定期券と、運転免許証があり、
「住所は、県庁所在地のベッドタウン」
 ということで、名前は、
「原田佐和子」
 という。
 定期入れには、名刺が入っていて、自分が配るつもりの分が数枚入っていた。
 これによると、職業は、
「県庁所在地に本社ビルを構えている、地元大手の商社で、総務課に所属している」
 ということが書かれていた。
 その名刺には、顔写真も載せられていて、
「営業でもないのに、珍しいな」
 と、刑事は思ったのだ。
「保険会社などなら分からなくもないが」
 と感じたようだが、実際に、内部がしっかりとした体制を誇っているような会社の名刺であれば、そこまで珍しいというわけではないようだった。
「バッグの中は、思ったよりも、いろいろ入っていて。まとまりがない」
 と、感じたが、よく考えてみると、
「どれもこれも、必要なもので、逆に、これくらい持っていないと、本当は不便なのではないか?」
 と感じさせられるほどであった。
「自分の先入観だけでは、分からない部分というのは、往々にしてあるものだな」
 と、刑事は独り言ちた。
 だが、さすがに。この場所で、これだけのものを一つ一つ引っ張り出すわけにはいかない。なくしてしまえば、元も子もないからであった。
 ハンドバックはとりあえず閉めておいて、近くに置いておくことで、そのあたりの捜査をしてみることにした。
「確かにここが犯行現場なんだろうな」
 と感じたのは、先ほどバッグが置かれていたところの下に、若干の血の痕がついていたからだった。
 他の場所からは、見た目は発見されなかった血の痕が、くっきりとまではいかないが、ハンドバッグがあった場所の下に見ることができる。
「滝の、霧のようになった水流で、血の痕が洗い流されたからだろうか?」
 と思った。
 それを考えれば辻褄があるということで、
「ハンドバッグの下になっていれば、水が覆いかぶさってくることもない」
 ということで、そこにある血は、最初から、
「ここが殺害現場だ」
 ということで確信の目で見るということになれば、容易に判断がつくということになるであろう。
 だから、刑事が見たその状況は、
「思った通りだ」
 と思わせ、本来であれば、
「疑問に感じてしかるべき」
 ということを、うっかり見逃してしまうところであった。
 というのは、
作品名:芸術と偏執の犯罪 作家名:森本晃次