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芸術と偏執の犯罪

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「ええ、昨日も、このキャンプ場に入る前に、少々大き目のペットボトル数本に水を汲んでからここに来ましたからね」
 というので、
「じゃあ、その時も同じ目的の人はたくさんいたんでしょうね?」
「ええ、それはそうでしょう。それに、たぶん、毎回同じ人だとは思いますよ。案外と同じ時間だったりして、顔見知りも多いはずだと思います」
「なるほど」
 といって、刑事は納得したが、死体の具体的な様子は、まずは鑑識に任せて、川の奥に行っているようだった。
「ここまでは、本当に狭い川で、水深も低そうだけど、だから普通に流れてきたものが、ここで広く浅くなったことで、流れ着いたものは、ここで止まってしまうということになるんだな」
 と感じたようだ。
「これなら、キャンプ場に向くわけだ。
 ということで、もう一度まわりを見渡すと、
「絵に描いたようなキャンプ場というのは、こういうところをいうんだろうな」
 と、刑事は感じていた。
「鑑識さん。何か分かりましたか?」
「死因は、胸を刺されたことによる、出血多量でのショック死にほぼ間違いないでしょうな。死亡推定時刻は、たぶんですが、昨夜の夜半ということでしょうね。日付が変わる前後1時間というところでしょうか? 上流から流れてきたわりには、存外にきれいな死体といえるかも知れません」
 ということを聴くと、
「じゃあ、この死体は、死体になってここを流れてきて、朝目を覚ましたキャンパーが見つけた時は、すでに夜半から、ここに流れ着いていたということになるのかな?」
 というので、
「ええ、そう考えるのが自然な気がします」
「じゃあ、あとは、司法解剖の結果待ちということですね」
「そうですね」
 ということであった。
 刑事は、次に、
「被害者の遺留品」
 を確認することにした。
 説明が遅れたが、その死体は女性で、年齢は、20代か、30代というところか、すでに顔色は完全に失っていたが、口紅の深紅の色が、まったく褪せていないことから、余計に悪い顔色が、見ているだけで、気持ち悪く感じさせるほどになっていた。
「この服装」
 ということで
「もし、この死体がここで発見されたわけでなければ、服装にまったくの違和感はなかったことであろう」
 というのは、その服装が、明らかな、
「OL風」
 といってもよかったからだ。
「女性用の紺のビジネススーツ。しかも、ズボンではなくスカートだ」
 ということであった。
「この格好。完全に通勤用の制服といってもいいんじゃないかな?」
 ということであるので、
「ここに来たのは、誰かと一緒にきたのか、誰かに呼び出されたのかによって、事情がかなり違ってくるんじゃないかな?」
 と、刑事は考えたのだ。
 近くには、遺留品はなかった。
「川を流れる間にどこかに行ったのか?」
 それとも、
「殺害現場に置かれているのか?」
 ということであり、殺害現場にあるとすれば、
「バックか小物入れのようなものがあり、その中に入っているのではないか?」
 と考えられた。
 とりあえず、まずは、
「殺害現場の特定というのが急がれる」
 ということになるであろう。
 彼女の来ていたビジネスっスーツは汚れてはいたが、
「少なくとも、暴行を受けたという感じではなさそうですね」
 と鑑識が言った。
 刑事も鑑識も、最初に考えたのが、
「女をどこからか拉致してきて、乱暴した挙句に、刺殺して、そのまま川に流したのではないか?」
 ちいうことであった。
 それであれば、
「制服を着ている」
 ということの辻褄は合うわけであり、そうなると、
「どうしてわざわざ川に流す必要がある?」
 ということになる。
 どうせなら、ここのように、森の中にある場所という、死体を隠すには格好の場所があるわけで、
「埋めてしまう」
 ということが一番犯人にとって、都合がいいといえるはずだ。
 捜索願は出されるだろうが、警察が、この場所にたどり着くということは、誰か目撃者でもなければありえない。
 それを考えると、
「死体遺棄事件どころか、殺人事件などということになるわけもなく、その他大勢の、失踪事件として、迷宮入りする」
 ということになるだろう。
 ということは、
「犯人にとって、死体を隠すという意図は一切なく、逆に死体が見つからなければ困る」
 ということを思うと、考えられる動機はないわけではない。
「保険金詐欺」
 あるいは、
「遺産相続問題」
 という、どちらにしても、
「金がらみによる犯罪」
 ということになるのではないだろうか?
「犯人にとって、死んだという確証がなければ、動機もないということで、やはり、身元の確定が、最優先だ」
 ということになるだろう。
 ソロキャンパーさんが、ちょうど、この辺りの地図を持っていたので、そこには上流の水くみ場というものが示されていることで、刑事も自分たちの地図に、そこを明記したのだった。
 第一発見者に、前日からの行動や、大体の事情だけは聴いておいた。
 その話による限り、
「彼らが、この事件に関与していることはないだろう」
 ということで、あくまでも、キャンパーさんは、
「第一発見者」
 ということで、しかも、実際の犯行現場がここではないということを考えれば、今のところ、聞ける事情は限られているということであろう。
 一応、住所、指名、連絡先くらいは聴いておいて、
「もし、何かございましたら、連絡を取るということで、今日のところは」
 として、第一発見者は、お役御免ということになった。
 しかし、いくら、第一発見現場とはいえ、事件に関係のある場所ということで、さすがに、
「このままキャンプを続けるということはできないだろうな」
 ということで、キャンプもお開きになるようだった。
「ちょっと気の毒だな」
 と刑事は感じたが、
「まあ、これも仕方のないことだ」
 と後ろ髪をひかれながら、とりあえず、最優先である、
「犯行現場の特定」
 を急ぐことにした。
 地図に示された場所は三か所、そこには、赤い×印があり、その中の一つは、その×印のまわりに、〇印が書かれていた。
「この場所が、彼の実際に水を汲んだ場所になっているんだな」
 ということで、そのまわりを見ると、
「ああ、なるほど、ここが一番駐車場から、川に入るまでに近そうだな」
 ということで、安易な気持ちでその場所までいったが、実際には、想像以上に、厄介なところのようだった。
 というのは、
「地図だけでは、想像もつかない」
 というほど、駐車場から川までは、結構きつい階段になっていた。
「地図には等高線があるものだが、こんなに短い距離で等高線なんて、あってないようなものだ」
 と感じた。
 しかも、その川の奥は、滝のようになっていて、急流であるということもあってか、結構な轟音と、川面に打ち付ける水の勢いが激しいからか、まるで、霧がかかったかのような場所は、想像以上に冷たい場所だった。
「真夏だったら。気持ちいい」
 といってもいいだろう。
 しかし、実際にそこまでくると、
「急な階段を昇ったことで掻いた汗が、今度は滝による湿気と湿気によるべたべたさによって、一気に冷やされることで、
作品名:芸術と偏執の犯罪 作家名:森本晃次