小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

芸術と偏執の犯罪

INDEX|17ページ/19ページ|

次のページ前のページ
 

 車のトランクから死体が発見されるという事件が起こってから、半月が過ぎたくらいのことであった。
 警察の方でも、少し進展があったようだ。
 もっとも、この情報は、梶原探偵の助手の方でも掴んでいる情報であり、
「ただ、この事実が、事件の核心を掴んでいる」
 という確証がないことから、
「一つの情報の一つ」
 という認識は、警察側でも、探偵の助手側でも、認識としては同じであった。
 河原で死体となって発見された被害者である原田佐和子であるが、
「彼女には、以前付き合っている男性がいて、その男性とは、すぐに別れた」
 ということであった。
 これだけなら、別に怪しいということではないのだろうが、
「すぐに別れたわりには、付き合い始めは、大恋愛だったというのが、他の人から聞いた話の共通点だった」
 ということであった。
「まるで、原田佐和子が、その男を好きになってすぐに、完全に嵌ってしまった」
 という話は、誰から聞いてもそうとしか言わない。
 しかも、それが、狂気的に見えるほどで、まわりが見ていると、
「確かに、美男子であるということは認めるけど、そんなにのめりこむような男には見えない。むしろ、のめりこむと危ないと思わせるところがあり、私だったら、こんな男、最初からまっぴらごめんだわ」
 と、まるで、
「思い出しただけでも、背筋が凍るくらいだわ」
 と、完全に毛嫌いしているようだった。
 そういう、
「人の見る目によって、まったく正反対に見られる異性」
 というのは、今に始まったことではなく、そういう人は少なく無いだろう。
 それを思うと、警察も探偵側も、
「どういう男なんだろう?」
 と思うのだった。
 警察は、実際にその男に会って話をしていたが、探偵側は、話まではしていない。
「まず、まわりの話をしっかり聞いたうえで、話ならその方がいい」
 と思ったのだ。
「警察の訪問を受けたあとで、今度は探偵事務所から?」
 ということになると、警戒されるのは当たり前のことだ。
 特に、
「殺人事件の捜査」
 ということを警察は最初にいうだろうから、もし、この男に、事件と何らかの関係があったりすれば、完全に殻に閉じこもるだろう。
 だから、探偵側とすれば、
「警察に藪をつつかせておいて、こちらは、客観的に相手の動きを探るという方が、都合がいい」
 と思っていて、
「せっかくだから、警察を利用させてもらおう」
 と考えたのであった。
 実際に、警察にはこの助手の面は割れていなかった。だから、まさか警察も、
「自分たちが見張られている」
 ということを考えるわけもない。
「策を弄する人は、自分がやられるということに対しては、意外と気づかないものだ」
 と言われるが、まさにその通りであった。
 実際に、警察が、
「形式通りの聞き込み」
 という形で、
「被害者の元カレ」
 に接するということで、警察としては、相変わらずの、
「通り一遍の捜査」
 ということでしかないように見えたのだ。
 もちろん、その時、
「捜査員が何をどのように感じたのか?」
 つまりは、
「被害者の元カレを、どういう男だと思ったのか?」
 ということは分かっていないようだ。
 探偵の助手は、警察が喫茶店で事情を聴いているところを、一つ飛ばしたテーブルという、
「適度な距離」
 で聞くことができた。
「喫茶店での事情聴取」
 ということになったのは、そもそも、警察がこの場所を指定したわけではなく、事情を聴かれる男の方が、
「この場所ではちょっと」
 ということで、喫茶店に呼び出したのだった。
「この男、まわりに聴かれたくないという思いがあったのか?」
 と思ったが、
「警察が事情を聴きに来た」
 ということ自体をNGだと考えているとすれば、それも確かに無理もないことであろう。
「聞かれたくない」
 ということがあるとすれば、
「昔付き合っていた女が殺されたということで、自分が警察から容疑者に去れてしまっている」
 ということを危惧してだというのが一番考えられることであろう。
 しかも、被害者のまわりからの意見では、
「被害者が過去に付き合った男性遍歴」
 ということで出てくる名前は、彼しかなかったのだ。
 つまりは、
「後にも先にも、その男だけとしか付き合ったことのない女」
 ということで、
「一途な女だった」
 ということになるのだろうか?
 しかし、そのわりには、
「すぐに別れてしまった」
 ということで、当然、まわりからは、
「何があったんだろう?」
 といろいろウワサもあっただろうが、
「その真相は、闇の中だった」
 ということである。
 実際に、その彼女も殺されたのだから、
「秘密は墓場まで持っていこう」
 と彼女が考えていたとすれば、図らずも、
「秘密は墓場まで持っていくことになった」
 ということであった。
 だが、これが殺人事件ということである以上、その墓をあばいてでも、その秘密というものを引きずり出すしかないということになるのであった。
 警察が事情を聴いたその男は、桑原譲二という男で、年齢は30歳。
「工芸作家」
 のようなことをしているということであった。
 まだまだ修行中ということで、プロということではないが、年齢的にも、
「まだまだこれから」
 ということで、彼の作品に関しては、一定の評価を、陶芸業界でも、
「期待の若手」
 という目で見られていたようだ。
 彼には、どこか、
「耽美主義的」
 なところがあるということであった。
「何にも優先し、美というものを追求する」
 ということで、聞こえはいいが、どうにも変質的な臭いがあり、同じ音を踏んだ言葉として、
「偏執的」
 という言葉もあてはまるといってもいいだろう。
 彼は名前を
「譲二」
 というだけあって、見た目は、
「男らしくて、頼もしい男を求めたいと思っている女には、きっと好かれるんだろうな」
 と思えるところがあった。
 しかも、
「職業が陶芸作家で、繊細なところがあり、作品の傾向は、耽美主義」
 ということになると、女性に好かれるとすれば、
「そのギャップからではないか?」
 と言われるのであった。
 そんな桑原は、刑事から、原田佐和子のことを聴かれて、最初は、しおらしくしていたが、慣れてきたのか、口数も増えてきた。
 そこで、彼はいうには、
「自分は、耽美主義の工芸作家」
 ということを強調し始め、警察の質問からその回答が逸脱しているように感じられた。
 軽擦の方としても、
「実際に聴きたかったことを聴き出すことができなかった」
 という感じで、
「これではらちが明かない」
 とでも思ったのか、必要以上に聴くという感覚ではないようだった。
 それを見ると、警察も、
「これ以上は時間の無駄」
 とでも思ったのか、質問を打ち切り、失意の元、すごすごと引き上げていくという光景が感じられた。
「警察としては、この男は、容疑者の一人として残すかも知れないが、重要容疑者とまで考えることはないだろうな」
 と思ったのだ。
 しかし、探偵の助手は、
「犯人かどうか分からないが、無視はできない」
 と感じていた。
作品名:芸術と偏執の犯罪 作家名:森本晃次