芸術と偏執の犯罪
「被害妄想の頂点」
といってもいいかも知れない。
もし、精神病に、段階であったり、進化というものがあれば、この、
「カプグラ症候群」
というのは、その段階の最高峰であり、進化系の最終段階というものだといえるのではないだろうか?
それを考えると、
「篠原ゆかりという女性は、何かまわりが自分を狙っているというような被害妄想というものが発展していき、それが、行き過ぎた仕事のやり方になっているのではないか?」
ともいえるだろう。
しかし、実際に被害に受けた人たちは、
「そんな理屈でだまされるものか」
と考えていたとすれば、それこそ、
「彼女の妄想が、伝染していく形になり、彼女の被害者は、さらに、今度は自分が加害者となり、まるでネズミ算方式で増えていくというものではないか?」
といえるだろう。
それは、それこそ、昔に流行った、
「不幸の手紙」
なる都市伝説のようなものだといえるのではないだろうか?
「この手紙の同じ文面を、5人に送らないと、あなたは不幸になります」
ということを言われると、
「送り付けた相手はまずは5人であり、その5人が5人に送るということになり、最初は5人が次には25人となり、さらには、125人ということになる」
ということで
「5の倍数」
というわけではなく、
「5の二乗分ごとに増えていくということになり、数回で10000人を超えるということになる」
ということである。
つまり、
「人間の弱い部分を攻撃すれば、疑心暗鬼や猜疑心から、思わぬ行動を起こすということで、自分が手を下さなくとも、人にやらせる」
ということで、
「人を洗脳する」
ということは、自分の手を下さずとも、自分が隠れ蓑となって、他の人に犯罪をやらせる。
それが、
「一番楽ではあるが、一番卑怯な方法」
といってもいいだろう。
だからこそ、
「人に犯罪をやらせる」
ということほど、卑劣な犯罪はないということである。
そういう意味で、
「脅迫」
などというのもそうであり、だからこそ、
「営利誘拐」
などというのは、罪が重かったりするのである。
まるで、ゆかりという女は、まわりからは、そんな極悪な人間という裁定の評価しかないようだった。
目撃者
そんな時、
「梶原探偵事務所」
というところに、一人の青年が相談に訪れていた。
彼の相談内容というのは、
「ある殺人事件を目撃したのだが、それを警察には訴えることはできない」
というものであった。
探偵もいきなりの話しでびっくりして、
「それは、一体どういうことですか? 普通は事件を目撃すれば、訴え出るのが普通だと思いますよ。」
と、ごく当たり前の一般論を梶原探偵がいうと、
「いろいろな理由があって、そうもいかないんです」
と言ったその男は名前を、
「川口治夫」
といった。
「何か複雑なお話のようですね?」
と、話が複雑で、それが、依頼人の事情にあるということを考えると、ますます興味が湧いてきた。
「探偵というと、浮気調査であったり、人探しというようなものばかりで、時間外労働のわりには、あまり金になるわけでもなく、思っていたような仕事ではない」
ということで、少しがっかりしていたところであった。
だが、
「この依頼は、少しどころか、かなり入り組んでいそうだ」
と思うと、
「俺って、こういう捜査をしたかったんだよな」
と思うのだった。
だが、その反面、
「あまり危ないのは困ったものだしな」
という気持ちもないではない。
とにかく話を聴くしかないのだった。
「ということは、警察に届けてはいけないということになるんですな?」
と聞くと、相手は、一瞬戸惑って、頭をこくりと下げたのだ。
「それは、内容がまずいということになるのか、それとも、自分が警察に通報することがまずいということでしょうか?」
という質問である。
つまり、自分が警察に通報すれば、犯人は、
「通報者が誰なのか?」
ということを容易に知ることができるということで、
「この人が命を狙われる」
ということになるからなのか、それとも、
「信じている人を裏切ることになる」
ということなのかということも考えられる。
それが、恋人であったり、家族などであれば、
「簡単に警察に通報できない」
というのも分かり切ったことだといってもいいだろう。
それを考えれば、
「私にとって、今度の事件がどういうものになるのか?」
ということを、考えているに違いない。
そこで、
「急いては事を仕損じる」
ということで、自分だけで判断を下せないということになると、一番信頼できるというのは、
「探偵」
ということになるだろう。
「お金さえ払えば、悪いようには決してしない」
ということであり、守秘義務ということであれば、
「警察よりも安心」
といってもいいだろう。
何しろお金がかかっているわけであり、警察のような、生半可なことはしないだろう」
と思っているのだった。
川口治夫は、見るからに、
「中性的なところがある」
といってもいいだろう。
なよなよしていて、
「実に頼りない」
という雰囲気が漂っていた。
そういう意味で、初見は、
「顔を覆いたくなるような、まるで苦虫を噛み潰したくなる男」
ということで、
「「依頼人でなければ、決して、知り合うことがない」
といってもいいくらいの、まるで、
「住んでいる世界どころか、次元が違う」
と思えるほどの男であった。
それでも、相手は依頼人、むげにはできないし、久しぶりに
「大金が入ってくる」
といっても過言ではないだろう。
確かに、
「大金でもなければ、ひょっとすれば、断ったかも知れない」
といってもいいくらいの人物で、そういう意味で。
「こいつは、最初から嫌な思いの事件だ」
とは思っていた。
しかし、金に目がくらんだというのは、これが、
「探偵」
という仕事である以上、仕方がないことであり、
「仕事の遂行」
ということであれば、却って、余計な感情が入ることもなくそれでいいということになるのではないかと考えたのだ。
まずは、
「相手が話しやすいところから話をさせないといけないだろうな」
ということで、下手をすれば、
「支離滅裂な話になるかも知れない」
ということで、
「とりあえず、メモを取りながら利かないといけない」
と思った。
本当であれば、
「ボイスレコーダー」
を持っていたのだが、ちょうど故障していたので、
「手帳にメモ」
という形での、原始的な方法となってしまったが、そのおかげか、聞いた話が、想像以上に、頭の中に入ってきた。
相変わらず、手書きというマニュアルなので、字は汚かったが、その分、頭には入ってくるからなのか、それなりに整理もできるということであった。
「ちなみに、事件というのは、どの事件のお話になるのかな?」
と梶原探偵が訊ねると、
「それはこれです」
ということで、彼は新聞を取り出した。
その新聞は、地元紙としては大手であり、地元の記事が一番よく載っている新聞だった。
その
、「裏の一面」