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芸術と偏執の犯罪

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「いえいえ、そんなことはありません。まあ、一晩くらいであれば、近くに駐車場がないということを考慮し、駐車違反というわけでもないので、よほど、他の車や人の通行の邪魔にならない限りは、容認してきたんですが、さすがに、三日が経過していれば、検挙しないわけにはいかないということで、通用した次第です」
 と、長谷川巡査は言った。
 長谷川巡査も、スモークがフロントガラスに貼られているのを見て。
「これはおかしい」
 とは感じていた。
 ただ、普通にはがしてしまえばいいわけで、それだけのストックくらいは持っていたのかも知れない。
「実際に、フロントガラス用のスモークなど、販売されているのだろうか?」
 ということが疑問であったが、敢えて考えようとはしなかった。
 あくまでも、
「需要が少ない」
 ということで、
「客がオーダーすれば、特注で作ってくれるのかも知れない」
 と感じたのだ。
 それも、普通に考えれば、
「ありではないか?」
 と思い、あまり考えないようにしたのだ。
 刑事であれば、
「だんだんと疑問が出てきた中で、一つ一つ潰していくのが仕事であろう」
 ということであるが、警官であれば、
「そこまで考えることはなく、逆に、刑事の判断の邪魔にならないように、それでいて、補助的な立場になればそれでいい」
 ということになるだろう。
 長谷川巡査は、
「それが自分の立場であり、そのように立ち回ればいいんだ」
 と考えていたのであった。
 ただ、ここで鑑識を呼ぶということには、重大な意味があると、長谷川巡査は感じた。
「何も疑問点があったとしても、それは、レッカー移動させて、警察に持ち帰ってすればいいことではないか?」
 と思ったからだ。
 それをわざわざ移動させずにここでやるということは、
「何か、ここではないといけない」
 という理由なのか、それとも、
「移動させてはいけない」
 と考えたからなのだろうが。
 長谷川巡査はそれを訊ねると、
「どっちもだといっていいだろうね」
 と答え、そして、山下刑事はおもむろに右手の人差し指を足元に向かって刺したのであった。
 その先に見えるのは、何か黒いものが、まるで、ウイルスの方に、水滴が床で弾んでいるかのような黒い痕が、そのアスファルトのところに落ちているのが見えたことだった。
「なんだこれは?」
 と、長谷川巡査も不審には思ったが、次の瞬間、
「これってまさか……、血痕?」
 と呟いて、つぶやいた自分がまるで他人事のように感じるという、一種異様な感覚に陥っていた。
 山下刑事は、おもむろに頷いたのだが、その目線は、今までの落ち着いた視線というよりも、その血痕と思しき痕を凝視していて、視線をしばらく離すことがないように思われた。
 実際に長く感じられたが、それは、この異常な雰囲気の中で、尋常ではない時間経過というものを、長谷川巡査が感じていたからではないだろうか。
 それを感じている長谷川巡査は、急に足がしびれたかのようになり、身体が一気に重たくなるのを感じていたのだった。
「これでは、山下巡査が、鑑識をここで呼ぶと言い出したのは、十分に納得できる。山下刑事というのは、なかなかの切れ者なんだろうな」
 と思ったのだ。
 最初は、
「人懐っこそうだけど、実際に事件性を帯びてくるということを感じると、その表情は一編する。しかも、それは、まわりを不安にさせるものではなく、逆に自分に引き込むくらいの迫力に圧倒されることで、まわりは逆に、少なくとも不安というものを感じさせられるということはない」
 と思うようになってきた。
 それが、
「山下刑事という人間だ」
 と思うと、
「前に当たったあいつに比べて、全然違う」
 と思うのだった。
 そんなことを考えていると、鑑識がやってきた。
「数名の県警の腕章をつけ、肩から、魚釣りに使うクーラーボックスくらいの大きさで、ジュラルミンケースを抱えている連中で、いわゆる刑事ドラマでおなじみの恰好といってもいいだろう」
 鑑識が出てきたことで、それから少し遅れてではあったが、刑事が二人やってきた。
 長谷川巡査には、その二人に見覚えがあった。
「桜井警部補と、清水刑事ではないか?」
 と思ったのだ。
 桜井警部補は、長谷川巡査に一瞥もくれなかったが、それは以前、事件現場で出会った時も同じことであり、
「桜井警部補は、いつもこんな感じだ」
 ということが分かっていて、
「だけど、本当は気遣いのできる、理想の上司だ」
 ということは周知のことであった。
 その分、相棒である清水刑事は、本当に人懐っこく、
「やあ、ご苦労様」
 といって、肩をポンと叩いてくれる。
 これまでに数回一緒になったことがあったが、最初からそうだったので、長谷川巡査が、拍子抜けしたほどだった。
「山下君、これはどういうことなんだい?」
 と桜井警部補に聴かれた山下刑事は、
「はい、ご覧の通りの不審な駐車車両なんですが、不思議なことがいくつかありましたので、気になって捜査をしてみたいと思ったんです。わざわざ出張ってもらって申し訳ないと思いますが、お立合いのほど、よろしくお願いします」
 と、若干緊張した面持ちで、桜井警部補にお願いしているのであった。
 桜井警部補は、相変わらずのポーカーフェイスで、
「まだ、事件性があるとはいえない」
 というこの段階で、
「最初から感情を表に出すことをしない桜井警部補らしい」
 というべきであろう。
「山下君は、これを事件性があると感じたんだね?」
 と聞かれたので、軽くうなずいた山下刑事であった。
 鑑識が、車をこじ開けるようにして中を開けた。
 この車は、高級車には違いないが、
「時代遅れ」
 といってもいいほどの車で、鍵がなくとも、こじ開けることが普通にできる車だった。
「何かを隠す」
 ということであれば、
「もっと確実な車を使うんじゃないかな?」
 と山下刑事は思った。
 そもそも、こんなところに車を放置しておくような中途半端なこと自体からして、実に不自然なことだといえるのではないだろうか?
 そして、山下刑事が、肝心な足元の血痕らしきものを指さした。
 それを見て、桜井警部補は立ち上がり、自分でも、
「なるほど、鑑識や刑事課を動かそうと思った気持ちになったのは、これが原因ということになるだろうな」
 ということであった。
 まずは、車のキーの部分を壊し、何とか中を開けたが、運転席も助手席も、さらには、後部座席にも、不審なものは見つからなかった。
 血糊のように見えるその痕が付着しているのは、運転席からであった。ハッキリと見えるのは一つだけであったが、中止てみれば、あと三つくらい見つかったのだ。
 そして。色は完全に真っ黒になっていて、
「時間がだいぶ経っている」
 ということは一目瞭然だった。
「運転手がけがをしたんですかね?」
 ということで、あったが、桜井警部補が、
「これが血痕だとすれば、血液型まで分かりますか?」
 ということだったので、
「そうですね、分からなくもないでしょうが、精密には分かりかねるでしょうね」
 ということであった。
 そして、鑑識が今度は車のトランクを開けてみると。
「うーむ」
作品名:芸術と偏執の犯罪 作家名:森本晃次