小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

高い授業料

INDEX|9ページ/17ページ|

次のページ前のページ
 

 とばかりに、皆足早に通り過ぎていく。
 それを見ながら、
「まわりの視線がないだけに、ありがたい」
 という思いと、
「結局は皆他人事なんだ」
 と、自分が他人事のように思っているのを棚に上げて、そう感じたのだ。
 もっとも、立場が違うので、それも当たり前のことだといってもいいだろう。
 それを思えば、
「皆が皆、他人事なんだな」
 と、自分も他人事のように感じているということに、気づいていなかった。
 公園に連れていく二人は、途中は、まったく会話はなかった。
 そのくせ、向かっている道に迷いはない。しかも、それは警察署であったり、交番とはまったく違っていた。
 何しろ、
「駅前に交番があるにも関わらず」
 ということである。
 まさか、
「知らなかった」
 ということはないだろう。
 知らなかったとしても、
「警察に突き出してやる」
 とばかりだったので、場所を知らないのであれば、まわりに注意を引いて当たり前だが、もし、分からなかったのだとすれば、それは、
「路傍の石」
 という意識だったのかも知れない。
 そういえば、例えば、
「ラーメンを食べたい」
 と考えた時、必死にラーメン屋を探すが、見つからない。
 その時、
「普段であれば、簡単に見つかるのに、探すとなると、目につかないものだ」
 という人が往々にして多いが、柏田も同じ思いであった。
 だから、見つかると思っていても、目に入っているのに、そのままスルーするというのは、まるで、路傍の石の感覚だといえるのではないだろうか?
 それを思えば、
「警察という意識を持っているのに、見つからない」
 ということへの意識がないのも分かるというものだ。
 しかし、この二人は違うようだ。
 駅を出てから、まわりを一切、キョロキョロすることはなかった。
 だから、
「二人は警察の位置を知っていて、そこを目指して、一直線なのだろうな」
 と思っていた。
 確かに、一心不乱でまわりを見ることもなく、先に進んでいる。
 それを思えば、
「何かおかしい」
 と考えてもしかるべきであった。
 それでも、
「誰か、知っている刑事がいる警察署まで行こうということか?」
 と思ったが、そのわりに、警察署がある方向とは違っている。
 本来であれば、一番近くの交番に連行し、
「一刻も早く糾弾する」
 ということを考えるはずだ。
 何といっても、時間がもったいない」
 ということになるからだ。
 二人が、どこに行こうとしていたのかまでは分からないが、少なくとも、
「今日一日は、スケジュールがめちゃくちゃになったことだろう」
 それは、柏田にも言えることで、
「冤罪まで着せられて、こっちはたまったものじゃない」
 と、まだどこかで、自分の置かれた立場を理解できていないところがあるということなのだろう。
 そして、二人は交番でも、警察署でもなく、公園に連れていった。
 誰もいない公園だった。
「これだけ広いのに」
 と思ったが、それも、二人の計算だったのかも知れない。
「ひょっとすると、最初からここに来ることを考えていた?」
 と思ったが、それは、二人が一目散にここまで来たことの説明は、それしかないということからであった。
 さて、公園に着いた二人は、それまでと少し様子が変わってきた。
 それまでは、
「痴漢に遭った被害者」
 ということで、殊勝にしていたが、実際にここまで来て、まわりには誰もおらず、当事者である三人だけになると、
「様子が豹変した」
 と感じるようになった。
 表情は、男女ともに、顔を見合わせて、ニンマリと、気持ち悪い笑顔を見せたことで、
「気持ち悪い」
 という感情を抱かせた。
 明らかに、これまでの、
「被害者面」
 というわけではなく、
「被害者は被害者なのだが、その立場を利用している」
 というそんな感じだったのだ。
「お兄さん、これはまずいでしょう」
 と女が言った。
「あんた、どんなにたまってるのか知らないけど、いたいけな女の子の尻を触ったら」
 といって、いやらしい笑みを浮かべている。
 しかも、自分のことを、
「いたいけな少女」
 といって、あたかも、
「自分は被害者なんだ」:
 ということを、まるで他人事のように宣伝しているのだ。
 男の方は、それを聴きながらニヤニヤしている。
「分かるよね。このまま警察に行けば、あんた終わりなんだよ」
 といって、男がやんわりといってくる。
 ここで初めて、
「こいつらグルだ」
 ということに気が付いた。
 状況は違うが、
「相手を脅迫する」
 という意味で、いわゆる、
「美人局」
 というものと同じ種類ではないだろうか。
 それを考えれば、
「はめられた」
 と感じたのだ。
「やつらが俺をここに連れてくるために、あの時間、ちょうど後ろにいた俺が運悪くターゲットになったんだ」
 ということを感じた。
「もし、後ろに男がいなければ、女はそのまま男の前になるように、移動したことだろう」
 ということで、
「女の方から、わざわざ痴漢されようとして近づいてくるようなことはないだろう」
 と電車の人も考えるはずなので、女性の移動は、単純に、
「自分の動きやすい場所に移動した」
 ということになるのか、
「痴漢されないように移動した」
 のどちらかだと思うだろう。
 まさか、
「痴漢を捏造するために、移動したなどということは誰も思わないはずである」
 だから、移動した後に、男が後ろにいても、おかしくはないし、その男が、
「あたかも、痴漢でもしそうな面構え」
 ということであれば、完全に、やつらの思うつぼといってもいいだろう。
 やつらは、
「ゆすりたかり」
 という連中で、それに、
「偶然引っかかってしまった」
 ということで、実際には、
「そんなのんきなことを言っていられない」
 ということだ。
 やつらの正体がわかると、
「警察には連れていかれない」
 ということで安心であるが、
「逆に、もっと恐ろしいこということになるのではないか?」
 と考えてしまう。
 それは、
「ゆすりたかりに遭ってしまうと、一生ゆすられ続ける」
 ということになり、
「どうすればいいんだ?」
 という思いが、今度は、
「他人事ではない」
 ということになるのである。
 ただ、相手は、こちらの事情を今は知らない」
 ということで、どうすればいいのか?
 と考えてしまう。
 相手は完全に、
「金で解決しよう」
 といっているのだ。
 ただ、よくよく考えると、
「実際に証拠はないわけなので、ここで拒否することだってできるわけだ」
 つまりは、
「警察に、逆に脅迫された」
 ということで突き出すこともできないわけではない。
 ただ、その時の柏田は、
「金で解決できるのなら、それでいいか」
 という甘い考えであったのも、しょうがないことであろう。
 だから、その時は、相手が言うとおりに、
「その時の有り金を全部渡し、免許証や、会社の名刺を取られたりした」
 ということになったのだ。
 次回連絡があり、
「20万」
 と吹っかけられたので、その通りに用意して渡した。
 実際には、
「こんなもので済むわけはない」
 と思っていたので、
作品名:高い授業料 作家名:森本晃次