高い授業料
「これはあくまでも最初」
ということだった。
あまり多い額であれば、年齢からしても、難しいのは分かっている。相手としても、
「警察に駆け込まれる」
というのが、怖かったに違いない。
だから、定期的に、これくらいの額ということを考えたのだろう。
ただ、
「一度に一気に出させるのと、少しの金を何度かに分けるのとでは、脅迫者側からすればどっちが有利なのだろう?」
と考えてみた。
「急いては事を仕損じる」
という言葉もあるではないか。
それを信条にしていれば、
「定期的に」
ということになるだろう。
ただ、問題は、これが発覚し、警察に捕まった場合、起訴され、裁判になった時、
「何度も脅迫した」
ということで、
「不利になるのではないか?」
と考えるだけの頭があるかどうかということであろう。
今のところは、
「裁判などという、捕まった後のことを考える気持ちはない」
といえる。
この計画は、
「警察に捕まらない」
ということを前提に考えているのであって、却って、そういうマイナスな、ネガティブな考え方というものをしてしまえば、今度は、消極的になることで、
「成功するものも、失敗する」
ということになるのではないだろうか?
それを考えると、
「この計画を立てる時には、二種類あると、その骨格を考えるのかもしれない」
と思うのだった。
「あの二人はどっちなのだろう?」
年齢的には、まだまだやっていることはチンピラで、
「犯罪計画」
として冷静に考えると、
「これほど甘いものはない」
とも考えられる。
自分が当事者になってしまったことで、どうしても、自分を守るということも考えないといけないということで、発想が鈍ってしまうだろう。
しかし、冷静に考えた時の柏田は、結構いいアイデアが浮かんでくるというものだ。今回もそういうことになると、自分で予感していた。
柏田は、実は、
「お金に困っているわけではない。今のお金を少し吐き出すという気持ちになれば、少々の、金で解決できることに関しては、何とかなる」
といってもいいだろう。
しかし、問題は、
「その二つを、いかに天秤に架けるか?」
ということだ。
確かに、
「美人局」
のような連中を相手にするのは、まったく時間の無駄といってもいい。
だから、金で解決できるのであれば、それが手っ取り早いといってもいいだろう。
だが、ここで金で解決するこにすれば、今は安い状態でのゆすりであるが、次第に増長してくるに違いない。
しかも、精神的に、何度も呼び出されると、疲労困憊してくるというのも、間違いないだろう。
さらに、
「プライドが許さない」
という気持ちもある。
あんな美人局のような子供だましの手に引っかかって、確かに、
「運が悪かった」
といってしまえば、それまでだが、そう考えると、
「俺が悪いというだけのことなのだろうか?」
と思えてならない。
「金で何とかなる」
という人間の割には、
「何か悪い」
ということがあると、
「その理由は俺にあるんだ」
と思い込んでしまう。
これは、子供の頃からの、卑屈な性格にあるのだろう。
ご落胤
今は、
「ある程度のお金は自由になる」
という立場ではあるが、昔は、そうもいかなかった。
柏田というのは、
「いわゆる。妾の子」
だったのだ。
つまり、
「父親は金持ちで、よくある、料亭の女を妾にして、そこで子供を産ませた」
といういわゆる、
「ご落胤」
といってもいいだろう。
しかし、今の日本国では、そんな
「ご落胤」
などという言葉も、
「なんだそれ?」
といわれて終わりというものだ。
そもそもは、
「天皇や将軍などの高貴な人が、正室、側室以外に産ませた、正当な後継ぎとして数えられない子供」
ということになる。
言い方を変えれば、いわゆる、
「隠し子」
ということになるのだ。
今の時代でも、そういうのは実際に残っていて、
「遺産相続の時、自分に有利になるように、探偵を雇って、ご落胤を探してくる」
ということや、逆に、
「お金を渡して、絶対に、遺産相続人として名乗り出ない」
ということで、
「相続放棄の書面を書かせる」
などということは、ミステリーなどでよく聞く話であった。
柏田も、そのご落胤の一人だということなのだが、これはあくまでも、その時の段階では、
「母親と、柏田の間でだけの秘密」
ということであった。
だから、父親の家族も、
「まさか隠し子がいたなんて知る由もない」
ということであろう。
実際に、今は、まだ父親は生きていて、父親からは認知はされていない。
それは、
「隠し子だから」
というわけではなく、
「息子だと分かると、遺産増続争いに巻き込まれかねない」
ということから、母親としても、父親としても、二人は同じ意見で、
「遺産などいらないので、平和に暮らしたい」
と思っていたのだ。
もちろん、まだ子供だった柏田に、
「お金の価値」
など分かるはずもなく、
「平和が一番」
と思っていたのだ。
実際に、父親の話を聴いたのは、中学生になった時、父親は、運転手だけには、その秘密を明かしていて、その人が、
「絶対に口外しない」
ということも分かっていたので、全幅の信頼を置いていたということであった。
実際に父親の遺産がいくらあるのか分からないが、父親は、
「息子が困らない程度」
ということで、決して、
「お金に困る」
ということはなかった。
父親は優しい人だったのだが、それは、
「自分たち親子に対してだけ優しいのか、他の人誰にでも優しいのか?」
ということは分からなかった。
ただ、父親が、二人の前で、自分の家庭、つまりは、
「遺産相続の権利を持った人たち」
のことを話すことはなかった。
「二人を別格だ」
と思っているのか、それとも、
「ドラマにあるような、金持ちの家独特の、ドロドロした人間関係」
というものを、
「自分たち家族と一緒にいる時に持ち込みたくない」
という思いからなのか、
それを考えると、どうしても、
「父親をひいき目に見たくなる」
と思うのであった。
もちろん、小学生までは、
「父親がいない」
ということで、負い目を感じたことは何度もあった。
まだ小学生くらいで、父親のことを聴いても、母親は、
「死んだのよ」
としか教えてくれない。
しかし、小学生の高学年くらいになると、
「おかしい」
というのを感じるようになった。
というのも、考えてみれば、
「家には、仏壇がなかった」
ということ、神棚はあるのにである。
しかも、
「一度も父親の墓参りに連れて行ってくれたことはなかった」
これも、
「母親の先祖の墓」
というところに行くことはあるのにである。
小学生の高学年くらいになると、
「父親が、母親の先祖の墓に入るわけはない」
ということくらい、当たり前のように分かるというものだ。
柏田は、そのことで、
「母親を糾弾するようなことはしない」
ということであった。