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という思いに至るわけで、うつ状態の最悪が最悪を生むという考えで、
「もうどうしようもない」
と考えた時に出た結論を、
「うつ状態の時にはできなかった」
ということで、逆に、
「今ならなんだってできる」
ということで、怖いものなしだと考えると、
「これ以上、恐ろしいことはない」
ということになってしまうのであった。
一度引き下がった、この
「八木沼という男を中心とした組織」
というのは、確かに、警察の生活安全課にマークされていた。
ここでは、ここ20年くらいの間に変わっていった社会情勢に対応するということで、
「防犯」
であったり、
「保安」
というものを中心とした部署が、この
「生活安全課」
である。
いつ頃からなのか分からないが、生活安全課というものの担っている業務の幅は結構広いといってもいいだろう。
中小規模の警察署では、
「刑事課」
と一緒になっているところもあるというが、生活安全課は、本当に幅が広いといっていいだろう。
特に、以前からあったものとしては、
「少年課」
などがそうで、これは昭和の時代などの、
「非行」
というものから、平成に入り、
「いじめ問題」
「引きこもり」
などというものが出てきて、最近では、昔から言われていた、
「子供による家庭内暴力」
というよりも、逆に、
「親による、児童虐待」
というものが大きな問題になってきて、こちらは、刑事課であったり、自治体との協力が不可欠であったりするのだろう。
また、ここ最近で多いのは、
「コンピュータや、ケイタイ電話の普及によって起こってきた、サイバー詐欺」
といわれるものである。
これは、
「コンピュータウイルス」
というものにより、パソコンから、個人情報を盗まれるということがあるのだ。
それが、
「他人のプライバシー」
であったり、
「自分の銀行口座のパスワード」
だったり、さらには、
「会社の情報」
ということもないわけではないだろう。
特に会社関係ともなると、
「知らなかった」
では済まされないということになり、それこそ、
「会社を懲戒解雇」
というだけでは済まない事態となってしまうということもある。
そんな中において、
「詐欺行為」
というのは、結構目を光らせているのだった。
特に、今の時代は、何かと、
「コンプライアンス違反」
であったり、
「男女平等」
という観点から、それを狙った詐欺というものも、発生する可能性が大きいということは水面下でも言われているようだった。
実際に、
「いまさら」
といわれるような、
「美人局」
というような犯罪も、
「今だからこそ」
ともいえるかも知れない。
特に今回、柏田が引っかかった、
「痴漢冤罪の捏造」
というのは、その典型的な例といってもいいだろう。
以前であれば、飲み屋なんかで、男を引っ掛けて、色目を使ってホテルに誘い込み、ホテルを出てから、静かなところにおびき出すことで、
「俺のオンナに何をする」
といって。脅迫するというのが、昔の手口だったが、今は、なかなか、その犯罪もうまくはいかない。
ホテルには、通路だけだろうが、防犯カメラもついていて、ちょっとでも、おかしな行動をとっていたりすれば、警察に通報されるということで、女がどの部屋に入ったのかということを調べるのも難しい。
というよりも、脅迫する場合に得られる金銭を考えると、それぞれにリスクとの兼ね合いから、
「割に合わない」
ということでもあるだろう。
それよりも、
「痴漢の冤罪」
というものは、
「女が、訴えれば、その時点で、痴漢は確定」
ということになるだろう。
何といっても、
「今までは痴漢事件というと、女が泣き寝入り」
といわれていた卑劣な事件だっただけに、女が声を挙げれば、まず間違いなく、
「女が正義」
ということになるだろう。
そうなると、男の方も、いくら自分がやっていないといって騒いでも、どうなるものではない。逆に、
「騒げば騒ぐほど、その影響は大きい」
ということになるだろう。
つまりは、
「これほど、リスクの少ない犯罪は少ない」
ということだ。
男の方も、一度お金を渡してしまえば、自分が認めたということになり、警察に訴えることもできないだろう。
ただ、それはあくまでも、
「過ぎたるは及ばざるがごとし」
ということで、やりすぎた場合は、何であっても、結果は一緒だということになるだろう。
だから、
「痴漢冤罪を企む人間がいる限り、八木沼老人のような組織は、出てくる」
ということになる。
それこそ、彼らは、
「必要悪だ」
ということになるのだろう。
大団円
「八木沼老人の組織」
というのが、警察に検挙されたのは、八木沼が柏田のところを訪れてから、三カ月が過ぎてのことだった。
それまでしばらくは、
「八木沼老人から連絡がなかった」
ということで、その存在すら消えかけていた。
というのも、肝心の、
「痴漢冤罪事件」
というものを仕掛けてきた二人から、連絡が途絶えてしまったからだった。
「どうしたんだろう?」
とは思ったが、
「このまま連絡もなく、やつらの追求を逃れられれば、万々歳だ」
と思っていた。
その時、柏田が考えたのが、
「やつらのターゲットが変わったのか?」
ということであった。
これは、学生時代に、
「苛め」
というものを受けていた柏田には、分かる気がするものだった。
「苛めというのは、相手が誰でもいいのであって、だから、ターゲットは簡単に変わってしまうのだ」
ということであった。
だから、
「やつらには逆らえない」
ということで、
「逆らってしまうと、やつらに、恨みを買うことになり、恨みを与えると、しつこく絡んでこられて、逃げられなくなる」
というのが一番怖かった。
とりあえず、
「はいはい」
といっていうことを聴いていれば、
「そのうち、俺意外のターゲットを見つけることで、俺は助かる」
という青写真を描いていた。
学生時代の苛めは、その作戦が功を奏してか、うまくいったのだ。
だからこそ、
「苛めのターゲットは相手は誰でもいいんだ」
と思うようになったのだった。
その思いは、確定しているといってもいい。
だから、今回の
「痴漢冤罪」
というのも、最初は、
「やり過ごすか?」
と思ったが、なまじお金を持てる立場になったことが、運の尽きだったのか、
「ああ、最初の信念を貫けばよかった」
と思ったのだ。
「なぜ、学生時代と違い、今はお金があるのか?」
ということは、この際関係のないことであるが、本来であれば、
「自分がお金を自由に使える立場だ」
ということは、知っている人は少ないはずだった。
もっとも、
「八木沼老人の組織」
というのがなんぼのものか?
ということは分からなかったが、
「痴漢冤罪を企んだ二人」
というのが、
「なぜ分かったのか?」
というのが不思議だったのだ。
そこで、柏田は、ある種のネットワークを使って、調べてみた。