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高い授業料

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「やつらは、あなたにも察しがついていると思うのだが、ゆすりたかりの常習犯でな。実は、警察の生活安全課でマークされていた連中なんだよ。だから、被害者が特定されると、おのずとやつらの部屋が家探しされて、すぐに、自分たちが脅迫していた人たちの、ターゲットのリストが見つかるというものさ。そうなると、捜査は、その中の人物が怪しいということになり、いずれ、お前さんのところにもたどり着くということさ」
 というではないか。
「ああ、そういうことか、じゃあ、俺なんか、そのリストの中に載っているということになるんでしょうね」
「それはそうでしょう。しかも、やつらが狙っているのは、確実に金がとれる人で、実際には、金持ちというのが、基本路線ということになる。やつらはチンピラに変わりはないが、そのチンピラであっても、やっていることは、幅広いので、それだけ、やり方が荒いともいえるが、逆に、それだけやっていれば、次第に脅迫にも慣れてきて、やり方も巧妙になるというものさ」
 と老人は言った。
「だけそ、そのわりには、今から思えば、手口はかなりおおざっぱな気がするですがね」
「それは、やり方が、まるで昭和の時代から変わっていないように思えるからさ。そんな使い古された手口をと思っているだろう? だけど、それはあくまでも、思い込みなのさ。古臭いものは、カビが生えていて、色褪せているものだというそんな固定観念が、却ってやつらを増長させるというものさ」
「なるほど」
 と、柏田は、
「一理ある」
 と感じた。
 確かに、
「目の前にあるものが一番分かりにくい」
 ということで、
「灯台下暗し」
 ということわざであったり、
「路傍の石」
 という発想も、そういうことなのだと感じると、この老人のいうことにも、一様に、説得力があることを感じさせるのであった。
「ということは、いずれは、警察も俺のところにやってくると?」
「そうだ。それがいつになるかというのは、やつらの、リストによるんだろうがな。それだけの人間をターゲットにしていて、今実際にどれだけを相手にしているか。そして、その中での優先順位。つまり、容疑者のランクというものがどういうものなのかということに掛かっているといってもいいだろう」
 それを聴いて、柏田は、
「そういうことか?」
 と感じた。
「それであんたは、俺に何をしようというんだい?」
 と聞くと、
「何ね。助けてやろうというのさ」
「どうやって?」
「俺には、こういう時のために、たくさんのネットワークを持っているので、それの提供と、いざとなれば、俺たちがあんたを匿ってやろうということさ」
 という。
「なんだそれは?」
 と聞くと、
「俺たちのネットワークにお前さんも入ってもらって、そこで、働いてもらうということさ。つまり、今抱えているネットワークの人材のほとんどの人間は、皆同じように、罪もないのに、警察に疑われたり、誰かに脅迫されて、困っている人たちばかりだったのさ。わしはそんな連中を警察の追求から救って、他にもまだ出てくる被害者の救済をしてやろうということで、この組織を作ったのさ」
 その話を聴いて、
「何か胡散臭いな」
 とは思った。
 とりあえず、
「嫌だといったら?」
 というと、相手から返ってきた返答は、想定内のことだった。
「そんなことが言える立場なのかな?」
 ということであった。
 確かにその通りである。
「あんたの今の立場は、相手の男女が殺されたことで、警察に疑われるだけではなく、痴漢騒ぎがあって、それを隠蔽しようと思い、脅迫者に一度は屈したが、何度も脅迫を受けるうちに、どうしようもなくなって、殺害に及んだ」
 というのが、一番説得力がある答えになるだろう。
「そうなってしまうと、社会的な立場を抹殺されたことになり、自分が、殺人犯であろうがなかろうが、すでに自分は終わってしまった」
 ということになるだろう。
 そもそも、
「金で解決しよう」
 と思ったのが間違いだったということであるが、相手が殺されてしまったことで、すべての歯車が狂ってしまうことになるのであった。
 しかも、警察には、
「金を渡した」
 という事実はすぐに分かるだろう。
 そうなると、殺人の動機としても、十分であり、
「容姿者として取り調べをうける」
 ということは免れないことになってしまう。
 ただ、同じような立場である。
「被害者」
 というのは、リストに載るくらいたくさんいるというのは、ある意味、少し安心できるところであった。
 しかも、
「自分は人殺しをしていない」
 というのが自分で分かっているだけに、いくら警察でも、
「俺が殺した」
 という決定的な証拠があるわけではないだろうから、簡単に逮捕などできないだろうというのが、救いであった。
 それを考えると、この老人に、いや、
「この老人の組織」
 というものに匿ってもらう必要もないかも知れない。
 そもそも、こんなことになったのは、相手の脅迫に屈し、そして、
「助かりたい」
 という一心から、
「金を渡してしまった」
 ということが間違いだったということからきているのである。
 これ以上、また金が絡むというのは、さらに、アリジゴクに自らが嵌ってしまうという状況に、自分で追い込むことになると思えば、すぐには、
「助けてくれ」
 というわけにはいかないのだった。

                 必要悪

 その老人は、名前を八木沼と名乗った。柏田は、いくら話をしていて、開き直りの状態になり、幾分か冷静に判断しながら話を聴くことができたことで、いきなり、老人に助けを求めるようなことはしなかった。
 老人も、
「別に焦ることではない」
 ということで引き下がっていったが、この二人の立場関係は、明らかに揺るぎのないものであることは分かり切っているのだ。
 だから、
「二人とも、焦る必要はまったくない」
 といってもいい。
 しかし、老人が帰った後において、柏田としては、一度開き直った気持ちになり、落ち着いたのではあったが、一人になると、またしても、不安がこみあげてきた。
 そもそも、彼が今まで、
「すぐに開き直ることができない」
 と思っていたのは、
「後になって、孤独が襲ってきた時、またしても、最悪の状態に逆戻りするのではあないだろうか?」
 ということを危惧したからであった。
 それは、自分でも分かっていることであって、今回も同じだったのだ。
 それが、
「自分の精神疾患からくるものではないか?」
 ということで、こういう場合に一番怖いのが、
「うつ状態になること」
 だと思っていたのだ。
 だが、実際に、双極性障害などが発症した場合、
「一番怖いのは、うつ状態が躁状態へと移行していく時ではないか?」
 と思って入り。
 ただ、
「その始まりは、あくまでも、うつ状態」
 ということで、最初が躁状態であった場合は、この限りではない。
「うつ状態と、躁状態とが混同することで、躁状態に陥った時の状態に、うつ状態の時の気持ちが絡むことで、恐ろしいことになるのだ」
 と考えるからであった。
 つまり、躁状態になれば、
「なんでもできる」
作品名:高い授業料 作家名:森本晃次