小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

高い授業料

INDEX|14ページ/17ページ|

次のページ前のページ
 

 確かに、言われてみれば、二回連続で同じ言葉を発するというのは、それだけ動揺を隠しきれないという証拠だろう。
 しかし。
「そ、それは、お前さんの迫力に押されてのことさ」
 と、答えはしたが、それも、声が震えて、どもってしまえば、もう言い訳にしかならない。
 相手が、この時とばかりに、
「ニンマリ」
 と笑顔を見せた。
 その笑顔で、なんとなく救われたような気がしたのは、どういうことなのだろうか?
 そこで、老人は話を続けた。
「今の時代に、美人局なんてものがあるとはなかなか信じられない気がするが、あの二人は、それだけモグリだということさ。その天罰は当たったんだけどな」
 というではないか?
「天罰?」
 と、その言葉を聴いて、一瞬、
「助かった」
 と思った。
 なぜ、そう感じたのか分からないが、この爺さんがわざわざ自分の前に現れて、何かを教えようとしてくれていて、それが、
「脅迫者が天罰を受けた」
 というのであるから、
「悪党が、正義の鉄槌」
 そして、その悪党が何人を脅迫していたのか分からないが、その話が本当だとすれば、
「俺は解放された」
 と思ったのだ。
 しかし、その
「天罰の種類」
 というものが問題だ。
 その天罰というのが、
「警察に逮捕された:
 という場合を最初に想像したが、それ以上、何かがあるとなると、
「すでに、この世にいない」
 ということも考えられるわけだ。
 とりあえずは、柏田に、それ以外の、
「天罰」
 というものを思い浮かばなかったので、その真相を聴いてみることにした。
「天罰とはいったいどういうものなんですか?」
 と、震えてはいないが、今度は相手を探るような感覚で、訊ねたのだった。
「あの二人の悪党は、何者かに消された」
 というではないか?
「消されたって、殺されたということですか?」
「そう、その通りじゃ。だから、天罰だということなのだ」
 というので、
「じゃあ、あなたはわざわざこの僕に、そのことを、吉報として教えに来てくれたということになるんでしょうか?」
 と、またしても探るようにいうと、
「わしが、そんな善人に見えるかな?」
 といって、またしても、ニンマリとした。
 今度のニンマリとした表情は、前のニンマリとは明らかに違い、ゾッとした思いを抱かせた。
 話を聴くのに震えをきたしたさっきとは、まったく違う感覚で、この震えは、しびれに近いもので、なかなか抜けることはないと思えるくらいであった。
「消されたということは、それはいつのことだったんですか?」
 と聞くと、
「昨日のことじゃったな」
 というので、
「じゃあ、まだ、そのことは公にはなっていないということですか?」
 と柏田が聴いたのは、
「警察もまだ知らないということなのか?」
 という意味であったが、この老人は、質問の意味も分かっているようだった。
「ああ、そういうことじゃ「」
「この男は、俺の質問を最初から想定している」
 ということで、少なくとも、このように自分に関係の深いことで、パニックに陥った男が、いかに質問をしてくるかということくらい、手に取るように分かっているのではないだろうか?
 そんなことを考えてみると、次に気になったのが、
「一体犯人は誰なんだ?」
 ということを、聞くともなしに呟いた。
 思わず、口から出てきたといってもいい。
 しかし、それは、聞きたいことであることに違いないが、
「いきなり聞くには覚悟がいる」
 と考えたことであった。
 だから、声は補足消えゆくような感じで、
「目の前の男でなければ、聞き逃していることだろう」
 と感じたくらいだ。
 男は、それを知ってか知らずか、
「犯人が誰であるかというのは、今のお前さんには関係のないことさ」
 という。
 それを聴いて、またしても、柏田はビビッてしまった。どうしても、目の前の老人が口を開けば、その言葉の一言一言が、柏田の心臓をえぐってくるようで、本当であれば、その場から逃げ出したいくらいの衝動に駆られていたのであった。
 だから本当であれば、
「どういうことなんだい?」
 と先ほどのように、聞き返したいのはやまやまだったが、聞き返す勇気が、すでに失せていたといってもいいだろう。
 老人は、その様子を見ていて、
「ある程度は、自分の言葉の威力に満足しているか」
 のようで、完全に、二人の間の立場関係は、すっかり確立されているのであった。
 最初から、老人は焦っているわけではない。
 目の前の餌をゆっくり賞味しようという感覚で、完全に柏田は、
「俎板の鯉」
 ということであった。
「ところで、爺さんは、この俺に何をしてほしいと思っているんだ?」
 とさっきまでとは少し声のトーンも変わった。
「どうやら、開き直ったかな?」
 と、老人も思ったことだろう。
「少し早いんじゃないか?」
 と思ったようだが、
「相手が開き直る時期が必ずある」
 ということを分かって話をしているので、老人としても、そのことに、必要以上に意識をすることはなかった。
 それよりも、むしろ、
「早く開き直ってくれた方が話がしやすい」
 と思ったのも事実だった。
 本当であれば、もっとゆっくり、じわじわと、追い詰められた状態で開き直ってくれるのが、さらに効果的なのだろうが、あまり長いと、行き過ぎてしまうことになり、
「過ぎたるは及ばざるがごとし」
 といえるのではないか?
 と感じたのだった。
 老人にとって、このタイミングは、柏田ということ個の技量を知るという目的があったので、この場合の開き直りの早さは、目的に沿って考えるだけであり。
「遅かろうが、早かろうが、二人の間の力関係に、一切の影響を挟むものではない」
 といえるのだった。
 いわゆる、
「もう。時すでに遅し」
 つまりは、
「手遅れだ」
 といってもいい。
 では、
「何が手遅れなのか?」
 ということであれば、それは、
「この男が、相手の連中に、金を払った」
 という事実が残っていることからであった。
 それがなければ、この老人が、柏田を訪ねてくることもなかったといってもいい。
 それを、老人は柏田に話すことになるのだが、柏田とすれば、この時に一番知りたいことは、
「老人がなぜ、自分のところに来たのか?」
 ということであり、それが分かれば、
「今の自分が置かれている立場が、おのずと分かってくる」
 というものであった。
 それを老人は察したのか。
「あの二人は、もうすぐ、警察に見つかり、殺人事件として捜査されることになるだろうな」
 ということであった。
「じゃあ、誰かが通報するということになる?」
「そうじゃな。犯人は、わざと見つかりやすいところに、遺体を放置しているからな。犯人とすれば、殺人事件になることを隠蔽しようとは思っていないのさ。逆にこれを殺人事件ということにしたいのさ」
 ということであった。
「それが、この俺とどういう関係にあるということなんですか?」
作品名:高い授業料 作家名:森本晃次