表裏の性格による完全犯罪
の話が続いていた。
最初は、例の、
「世界的なパンデミック」
の時の、ワクチンからの副作用の話になり、その時に、
「副反応」
といっていたということの話から、
「ワクチンで怖いのは、アナフィラキシーショックだ」
という話になった。
これが、
「いわゆる毒性の正体のようなものだ」
ということになり、話が続くのだった。
「スズメバチに二度刺されると、死んでしまう」
という話を知っていますか?
と言われた酒井は、
「聞いたことはありますね」
といって、相槌を打った。
話を知っているのかどうか分からないが、知っていたとしても、
「この酒井という男は、とりあえず、話は聞いてみる性格ではないか?」
と思ったのだ。
「ハチというのは、毒を持っていて、一度目に刺された時に、その毒が身体に入った時、人間は、その毒から身を守るために、抗体というものを作るんですよ。だから、抗体というのは、本来であれば、自分で自分を守るためという習性のようなものなんですよね。だけど、ハチの毒の場合など、もし、もう一度刺されて、そのハチの毒が身体に入った場合、その抗体がハチの毒と戦うことで、身体の中から、ハチの毒を退治しようとするんだけど、その抗体が、毒と戦っている間に、身体にショック状態を引き起こす。それが、命を危険に晒し、ショック症状に陥ると、血清を打たないと死んでしまうという状況になるんですよね。要するに、ハチに刺されて二度目に死んでしまうというのは、ハチの毒性で死んでしまうわけではなく、身体にできた抗体が、ハチの毒によって、ショック状態を引き起こし、それが死因となって、死に至るということになるわけですよ」
と説明をしていた。
彼の説明は分かりやすかった。身振り手振りの説明も、説得力があり、
「何とか、相手を説得しよう」
という意志が感じられるのだが、だからと言って、
「無理強いをしている」
というわけでもない。
それだけに、榊田も、
「横で聞いているだけなのに、引き込まれるような感じは、話術の巧みさを感じさせる」
と思うのだった。
よくいえば、
「話術の巧みさ」
悪くいえば、
「マインドコントロールに長けているのではないか?」
と思えるくらいである。
「マインドコントロール」
というのは言い過ぎかも知れないが、それも、考え方次第であり、警戒心の強い人には、それくらいの、
「防御心」
というものがあるのか、それこそ、
「毒に対する抗体」
のようなものなのかも知れない。
「同じようなアナフィラキシーショックでは、スズランの毒である、コンパラトキシンを使う話も時々ありますよね。あの毒はかなりのもので、生けておいた水であっても、致死量の毒があるのではないかとさえ言われるくらいですからね。あとは、夾竹桃も、その葉を燃やしただけでも、空気中に致死量の毒が回るということで、まるで、肺に入る青酸カリとでもいえばいいのかということですよね」
というのだった。
さすがに、聞いている方も、次第に、
「何か本当に自分が、殺人計画を立てているようで、下手をすれば、殺人計画の片棒を担がされているか」
というように感じさせられるのであった。
「ところで、最近ニュースで騒がれているものとして、何やら、どこかの薬品会社が造った滋養強壮の錠剤を服用した人が、体調不良を引き起こして、入院しているというじゃないですか?」
という。
これは、最近ニュースを騒がすようになり、
「販売会社とメーカーである製薬会社が、その自主回収を始め、販売停止を決定した」
という話であり、
「その原因と、これからの対応については、まだこれから」
という状態で、
「まだまだこれからしばらくは、毎日の新聞の一面を賑わせることになるだろう」
ということであった。
といっても、今はほとんどの人が紙の新聞を購入する人も少なくなってきたので、ネットニュースであったり、テレビのワイドショーが多いということになるだろうが、テレビというのも、ほとんど見る人も少なくなった。
見たとしても、バラエティーばかりで、ワイドショーといっても、コメンテイターの半分は芸人で、
「テレビの質も落ちたものだ」
と言われる、情けない時代になったというもので、
「まあ、元々、マスゴミと呼ばれるほど、程度は知れていた」
といってもいいだろう。
特に、例の、
「世界的なパンデミック」
と呼ばれた
「有事の時」
であっても、マスゴミは、あくまでも、
「売れればいい」
という考えからか、何かあったら、政府のせいにするような内容の記事を書いて、国民を煽っていた、
もっとも、その記事にウソはなく、確かに、
「政府が悪い」
ということはぬぐえない事実ではあったが、その煽り方が、露骨だったのだ。
それを思えば、
「パンデミックをパニックに追い込んだ罪ある連中というのは、第三位とすれば、煽られた一部の国民が、騒ぎ立てたということ。第二位が、実際の行政として対策を打った政府。何といっても、第三者委員会のいうことを聴きながら対処すると言いながら、実際には都合の悪いことは、第三者委員会が何といおうと、自分たちの判断で押し通すのだ、団参者委員会などいらないといってもよかった。そして、第一位という一番の悪は、国民を扇動した、マスゴミではないだろうか?」
ということであった。
確かに、一時期のパニックが収まり、世間では、
「世界的なパンデミック」
というのは、
「過去の歴史」
といわれるようになってから、冷静に考えれば、このような順位になったとしても、それこそ、妥当な線だといってもいいだろう。
長所と短所
このような有事において、国民は、どうしても、
「平和ボケ」
というものがある。
それをいかに冷静に判断するかということが問題となるのだが、本来であれば、それを正しい方向に導くべきが、政府の行政としての手腕であり、さらに、それを正しく国民に宣伝するのが、マスゴミの役目ではないだろうか。
それなのに、実際に行政として対応している政府が、ポンコツで、しかも、
「自分たちの保身しか考えていない」
ということになれば、マスゴミも、
「国民に何を報道していいのか分からない」
というのも、無理もないことであろう。
しかし、だからと言って、根も葉もないことであったり、事実かどうか分からないことを、いかにも事実のように、しかも、面白おかしく扇動するようなことをしてしまうと、
「パニックがさらなるパニックを生む」
ということになり、混乱が収まるどころか、それぞれの考えが勝手に暴走してしまい、結果、国民の混乱が収まらないということになる。
しかも政府がそれを、
「どうせ、何が正しいのか分からないのだから」
という感覚で伝えてしまうと、社会はどこに向かえばいいのかということになり、しかも、マスゴミ各社でも、その考えは違ったりしている。
「事実を報道する」
ということで、少なくとも、判断材料としての正しいことを報道するのがマスコミであるはずなのに、それを、
「いくら、事実がハッキリしない」
作品名:表裏の性格による完全犯罪 作家名:森本晃次