表裏の性格による完全犯罪
と感じることは、往々にしてあり、それを意識しすぎるのもマズい」
と考えるのであった。
清水刑事は、その時一緒に話していたという坂上という男と話をしないといけないと思った。
店からは、
「定期的に来ている」
ということであり、来る時間も、
「いつも開店すぐくらいで来ていますよ」
ということだったので、待っていると、案外その通りだったことで、
「彼は、今回の事件とは関係がないのかな?」
と思ったが、とりあえず話を聴いてみることにしたのだ。
場所は、この店の、しかも、二人が話したその場所、坂上としては、
「忘れていることがあっても、同じ場所にいれば、思い出すだろう」
という清水刑事の考えだったのだ。
さらに、その日は、つかさもいれば、榊田もいる。他の女の子も、あまり変わりのないシフトだったことから、まわりの目を考えると、坂上も、
「ウソはつけない」
ということになり、その時の真相は分かるというものだと考えたのであった。
話を聴いてみると、
「薬の副作用」
の件が最初だった。
というのも、今まで分かったことから比べれば、当時分かっていたことというと、
「微々たる内容」
ということであった。
もちろん、あれだけ世間を騒がせた、
「政府、薬品会社の隠蔽工作」
というものも明らかにはされていなかった時期で、
「ただの話題性での入りだった」
ということでしかなかったのだ。
しかし、それ以降の、
「完全犯罪」
というものに対しての話には、興味があった。
刑事などをやっていると、事件が発生してすぐは、
「何か、小説のような事件かも知れないな」
と、若い頃は、実に不謹慎であるが、最初のテンションはそこにあったりした。
逆に、
「どこにでもあるような話は面白くない」
とまで思っていたのだ。
仮にも殺人事件というと、被害者がどんな人間であれ、殺されているということは、
「犯人を憎む」
という体制でなければ、事件に当たるということはできないと思っていたのである。
実際に、
「殺人事件」
というものを、ずっと追いかけていくと、
「犯罪は、動機なくしてありえない」
ということが分かってくる。
中には、
「衝動的な犯罪」
であったり、
「猟奇殺人」
「異常性癖」
「耽美主義」
というようなものもあるだろう。
だが、
「動機というのがまったくなかった」
というわけではない。
たまたま、
「相手は誰でもよかった」
ということであり、犯人が自分の中で抑えきれない気持ちを爆発させるということであれば、それはそれで、
「立派な動機だ」
といってもいいだろう。
「ただ、もし、今回の事件に、実行犯がいれば、その人は、どういう立場だったのだろう?」
と、清水刑事は考えていた。
そんな中で、この店で被害者が、今捜査線上に浮かんできたことを、数か月前に、
「この店で、他の人と話していた」
というのは、
「ただの偶然で片付けていいものだろうか?」
ということになるのである。
確かに、これをただの偶然ということで片付けてしまうこともできるが、それは、その時に一緒にいた坂上という男から話を聞かなければいけない。
坂上がいうには、
「あの時の話は、自分がミステリーを読んで、感じたことを誰かに聞いてもらいたかったというだけのことです」
という、当たり前の返事が返ってきた。
もっとも、
「他に返事のしようがないだろう」
としか思えない状況で、坂上は話をしているということになるのであろう。
「それから、被害者とはお会いしましたか?」
と聞かれた坂上は、
「ええ、このお店では何度か会ってますよ」
といった。
「じゃあ、あの時のような、犯罪に関してのお話はそれ以降しましたか?」
と聞かれた坂上は、少しだけ考えて、
「ええ」
と答えた。
「どのような?」
「そうですね。世間話的に、薬の副作用の問題が、隠ぺい問題に変わった時、あの人が、自分から言い出したんです」
これは、さすがに清水刑事には以外な話だった。
「どんなことを?」
「いえね。俺の寿命もって言い出したんですよ。その時はまだ、寿命が分かるなどということは報道されていませんでしたからね。その時は軽く受け流して、ひょっとすると自分の危機違いだったのではないかと思ってですね」
と、坂上は言った。
「それからお会いしましたか?」
と清水刑事が訊ねると、
「いいえ、それが最後の時でしたね。でも、逆に謎の言葉を残し、それがまるで予言のようになってしまったのだから、実に不思議なことですよ」
というのだった。
清水刑事は、その話をなんとも、消化不良な気分になって何とか、自分なりに消化しようとしたが、難しかった。
そして捜査本部に戻ると、もう一つ、衝撃的な捜査報告が行われた。
それは、他のチームの捜査であったが、どうやら、被害者は、どこかが悪かったようで、病院に通っていたということであった。
それは、慢性化した病気だったようで、ここ一年くらいのことだったという。
なぜか、死体の中にあった持ち物からは、その診察券が出てこなかったのだが、診察券は、彼の部屋の引き出しから、健康保険証と一緒に発見されたということであった。
この発見が遅れたのは、そういうことで、所持品になかったのが原因だったということである、
とにかく、被害者は、
「病院に通っていた」
ということが分かった。
そして、彼の司法解剖で、実は、
「何か変だ」
ということで、その原因がハッキリしないというおかしな状況になったことで、
「被害者が通院していたのではないか?」
ということになり、病院を探したのであったが、その病院を発見し、これまでの、医療的なところで、
「司法解剖でも、不可思議で分からないことが出てきた」
ということを話すと、医者は、焦りの表情を必死に押さえようとしていたが、それもすぐに限界となり、
「事実を話してくれた」
ということであった。
「あの、酒井さんという患者さんは、例の薬の副作用で、余命三カ月という診断が出たんです。はい、もちろん、宣告はしています」
というのだった。
大団円
「余命三カ月」
という事実、これは、患者と医者の間だけの極秘だった。
医者の方も、
「これは墓場まで持っていこう」
と考えたことであり、正直、
「俺にとっては、大事件だけど、どうせ皆いずれは死ぬんだ」
と割り切っていたという。
医者はそれを見て。
「恐ろしくなった」
という。
今までは宣告されて、取り乱し、皆同じような反応をすることから、そういう患者をいかになだめるかということには慣れていたつもりですが、さすがに、まさかというような行動を取られると、今度は、焦りというよりも、恐怖を感じるくらいになって、医者としてどうしていいのかって思い知らされました」
ということであった。
そして、
「そうですか。彼は殺害されたんですね? しかも、私が寿命を宣告した時に」
という。
清水刑事が医者に、店での話をすると、
作品名:表裏の性格による完全犯罪 作家名:森本晃次