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表裏の性格による完全犯罪

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 それとも、
「動機がしっかりしたものなのか?」
 ということでの、両者からの同時捜査が行われることになった。
 どちらも可能性は十分にあった。
「この男を殺したいだけの動機を持っている人はいなくもない」
 ということが、捜査本部の調べで分かってきた。
 そもそも、世の中に埋もれていれば、
「この人を殺したい」
 というほどの恨みを持たれているという人は少なくはないであろう。
 恨みというのは、本人が意識するしないで、いつの間にか買ってしまっているということだってないわけではない。
 中には、
「いいと思ってしたことが、実は間違っていて、その人に多大な損害や、精神的な苦痛を与えることだってある」
 といえる。
 だから、本来であれば、
「余計なことをしなければいい」
 ということになるのだろうが、同僚や後輩から慕われ、
「相談事があるんですが」
 ということを言われると、ついついその気になって相談に乗ってあげると、それがあだになるということもえてしてあるだろう。
 本人は、
「相手のためにしたことだ」
 という正義感のようなものを持っているので、相手がどうなろうと、
「最終的には本人の判断だ」
 と思って、少なくとも、
「恨まれるというのは、お門違いだ」
 ということで、相手に怨恨などないと思うに違いない。
 確かに、逆恨みなのかも知れないが、本人は、
「それどころではない」
 という状況に追い込まれれば、少なくとも、自分が頼ったにもかかわらず、その恨みの矛先がその人に向いてしまう。
 実際に、追い詰められて、それでも冷静でいられるくらいであれば、人に相談を持ち掛けた時、
「少なくとも、自分で最初から判断しよう」
 と思うのではないだろうか?
 それを思えば、
「人の相談を受ける時は、その人の性格を自分でも分かっていないと、逆恨みを受けることになる」
 というくらいのことを考えないといけないのであろう。
 もっとも、
「逆恨みを受けるくらいなら、最初から、相談などに乗ってやるからそうなるんだ」
 ということを分かっているべきで、
「相手にいい顔をしよう」
 と思ったり、
「相手に恩を売ろう」
 などという下心があれば、それは、相手にも分かるというもので、特に追い詰められれば、
「下心のために、俺がこんな風になってしまった」
 と思えば、それは、ただの逆恨みではないといえるのではないだろうか?
 ただ、実際に、
「殺したいだけの恨み」
 ということで、
「半分は逆恨みだ」
 といってもいいような相手がいるにはいるのだが、その相手には、
「完璧なアリバイ」
 というものがあったのだった。

                 余命三カ月

 その判明した、
「完璧なアリバイ」
 というのは、ミステリーでいうところの、
「アリバイトリック」
 などというものが介在する余裕もないほどに完璧だった。
 というのは、その人間が海外にいて、日本に帰ってきたのは、殺害されてから、三日後のことだった。
 現地の目撃者も、パスポートも、宿泊施設もすべてに、その証拠が残っていた。そうなると、あと考えられるのは、
「その人が真犯人だったら」
 という前提の下で、
「実行犯が別にいる」
 ということである。
 つまり、実行犯が共犯で、その男が誰なのか?
 ということであった。
 しかし、被害者を、
「殺したいほど憎んでいる」
 という人は他には見当たらなかった。
 それこそ、まさか、
「殺し屋を雇う」
 ということも考えにくい。
 そもそも、被害者が恨んでいるのは、
「借金問題」
からということであった。
 金もないのに、殺し屋など雇えるわけがないということである。
 そうなると、実行犯を見つけないと、どうしようもないということで、捜査員の中には、
「これじゃあ、怨恨による殺人と、通り魔事件を一緒に扱うようなものじゃないか?」
 ということであった。
 もし、実行犯を探す場合、もちろん、動機のある人間のまわりにいる人間関係を徹底的に洗い、特に被害者と面識のある人を徹底的に調べたが、それらしい人物を特定することはできなかった。
 誰もが、
「帯に短し、たすきに長し」
 というような感じで、決定的な証拠が出てこなかった。
 それは、物証もそうであるし、状況証拠といえるものも何もないのだ。
「とにかく、実行犯のいない殺人事件など、ありえないのだ」
 ということであった。
 捜査を続けていた、O警察の清水刑事は、被害者の行きつけの店が、例のガールズバーであるということを聴きこんできたのが、事件発覚から一週間が経ってからだった。
 被害者の酒井は、あまり他人との交友関係はなかった。
 もっとも、新入社員の頃から、最初の数年は、会社でも会話が多かったりしたらしいが、今では、ほとんど会社で人と話すこともなくなったという。
 営業では、話をするのだが、逆に、まわりからは、
「酒井さんという人は、会社内で親しい人っていないんじゃないかしら?」
 といわれていた。
 もちろん、
「彼女のウワサというのも聞いたことがないわね」
 ということであったが、話を聴いているうちに、彼に、
「狂言癖がある」
 ということと、
「几帳面だ」
 という、両面があることが発覚した。
 そもそも、
「人には裏表があってしかるべき」
 と考える清水刑事には、それらの性格に違和感を感じることはなかったのだ。
 そこにたどり着いた清水刑事は、同然、同時に、他でも、被害者が他人と接触する場所はないかということを探ってみると、
「他にはない」
 というのが判明した。
 この店での印象は、先ほどの、
「几帳面で、狂言癖がある」
 ということとは別に、全員が認識していたのは、
「冷静沈着で、あまり口数が多くない」 
 ということであった、
 そして言われていることとすれば、
「何を考えているのか分からない」
 ということであった。
 確かに、彼は何を考えているのか分からないというそぶりはあった。つかさも、榊田にも分かっていることで、それだけに、
「どうしてあの時、坂上が、酒井に対して、あんな話をしたのだろうか?」
 ということが疑問だったのだ。
 あの時の雰囲気は、確かに異常だった。
 そもそも、
「場末のガールズバーの奥でする話ではないだろう」
 ということであった。
 ただの話題として話すのであれば、別にカウンターで皆が聴いている中で、すればいいだけではないか。
「誰にも邪魔されたくない」
 というのであれば、わざわざここですることもないし、カウンターでしていたとしても、
「誰がこんな話に構うというのか?」
 ということであった。
 とにかく、まわりで聞いていた人から見れば、
「中途半端」
 という雰囲気に見えたのだった。
 清水刑事は、これを他人事としてなるべく見ようと思った。
 というのは、自分が相手の身になって考えれば、このような、中途半端で、不可思議な空間に身をゆだねると思うと、錯誤の世界に連れ込まれる感覚になってしまうのではないか?
 と考えたからだ。
 今までの清水刑事の、刑事としての経験から、何やら、
「洗脳されてしまうのではないか?」