表裏の性格による完全犯罪
ということを、もし、榊田に聴いたとすれば、たぶん、やり方の骨組みとして、、まず。この二つを差し出すことになるだろう。
「これをいかに、完全犯罪として組み立てるというのか?」
ということが問題となるのだろうが、榊田には読めていた。
そして、
「坂上も同じことを考えているんだろうな?」
と思うと、思わず微笑みたくなったのを、隠そうとはしなかった。
それを見て、つかさは、
「おやっ?」
と思ったようだが、さすがに、榊田が何を考えているのかまでは見抜けないので放っておいた。
そもそも。榊田という男、頭はいいが、肝心なところで、つまりは、
「本番に弱い」
というところがあることから、
「なるべく、他人事のようにまわりを見よう」
と考えるようになり、そのおかげで、自分というものが分かってきた。
要するに、
「視野を広くして見る」
ということが、
「他人事として見る」
ということであり、そこに、活路を見出したといってもいいだろう。
だから、つかさは、実はこの三人の中で、一番興味を持つべきの相手が、
「榊田だ」
ということを、この時、無意識にではあったが、感じたことであった。
榊田が、感じた、
「完全犯罪の骨格」
それを、次の坂上の言葉が確信に変えてくれたのだった。
「この犯罪は、リスクが大きすぎて、小説やドラマなどではありえることであるが、実際の犯罪ではありえない」
と言ったことであった、
酒井は、その言葉の意味を分かったのかどうか、図り知るということができなかったが、榊田は、
「これで決定的だな」
と感じ。ほくそ笑んだ。
その時、目の前に鏡があるかのごとく同じ表情をしたと思ったのが、つかさだったのだ。
つかさの方も、自分がした表情を、榊田もしていると感じ、
「二人同時に同じ完全犯罪を思いついたのかも知れないわね」
と感じたのだろう。
完璧なアリバイ
その犯罪の話をした坂上が、今まで酒井しか見ていなかったはずなのに、最後の言葉を言った瞬間。
「まわりを見た」
のであった。
知らない人であれば、
「最後の切り札として口にしたことだったので、坂上は、誰かに聞かれてしまったのではないか?」
と不安に感じたのではないかと思うだろう。
実際に、酒井はそう感じたのだった。
「この坂上という男の技量から考えると、それくらいのことしか考えられない」
ということであった。
しかし、実際には、意識はまわり全体ということではなく、榊田と、つかさに対してだった。
もし。他に客がもう少しいれば、皆に対してだと思うだろうが、これだけ少ないと、逆に、
「二人に対してなのか?」
あるいは、
「全体に対してなのか?」
ということが分からないということになるだろう。
そういう意味で、坂上にとって、
「よかったのか悪かったのか、そのどっちなのか分からない」
ということになるだろう。
とにかく、この時の、
「完全犯罪」
というものへの話。榊田には、
「興味深い」
という意味で、
「楽しい話だ」
ということであった。
しかし、酒井としては、何か中途半端な気がして、消化不良であった。
酒井としては、どうしても、
「坂上という男が、お調子者で真面目」
ということを考えると、その悪い面ばかりが目立ってしまい、
「真面目な話を、面白くないように話をしている」
という思いから、
「俺に、どうして完全犯罪の話をしたのかな?」
という、まだ、何か彼の中に、自分に分からない、
「サプライズのような考えがあるのではないか?」
と考えてしまうのだった。
しかし、どう考えても、うまくは考えられない。
というのは、どうしても、
「長所と短所」
のような考え方が、それぞれに、
「悪い方にばかり頭が向いてしまう」
ということで、自分が、
「浅い方にしか向いていない」
ということが分かっていながら、
「自分の期待にそぐわぬ態度を取ったり、意見をいう坂上という男に、苛立ちこそあれ、それ以上に、何を弁護の余地があるというのか?」
と考えさせられてしまう。
そんなことを考えていると、
「せっかく、完全犯罪についてという面白い話であったのに、これだったら、聞かなかった方がいいわ」
と思えた。
ただ、一つ気になったのが、
「奴はなせ、最初に、薬の副作用などという話を持ってきたのだろう?」
ということであった、
完全犯罪という話の中のどこに、
「薬の副作用」
ということが紛れているというのか、だから、最初に、
「薬の話が絶対に、完全犯罪に結びついてくる」
と思っていたのに、まったく結びつかず、どこに行ってしまったのかという思いの中で、結局、
「もし、思い出さなければ、薬の副作用の話、完全に意識から消えていて、そのまま、時間の経過とともに、記憶からも消えることだろう」
と思うと、
「記憶から消すには、この方法が一番いいのではないか?」
ということに気づくと、ハッとした気分にさせられたのであった。
薬の副作用の話が、それから少しして、進展があった。
それが、あまりいい話ではなく、世間に衝撃を与える新発見が見つかったということで、大きな話題となったのだ。
しかも、その判明した事実を製造元である製薬会社が隠蔽しようとしたのだ。
さらにひどいのは。いや事態を最悪にして、世間の目を引き付けたのは、
「その事実を隠蔽しようとした製薬会社に、政府が手を貸した」
ということであった。
最初こそ、
「厚生労働省の独断」
と言われていたが、そもそも、そんなバカなことがあるわけはない。
かかわったのは、政府であり、政府ぐるみの隠蔽工作。要するに、
「国家ぐるみだった」
ということである。
これほどの欺瞞があるはずがない。
その報道は、こういう場合にはありがちな、
「内部リーク」
だったのだ。
ひそかに、誰か製薬会社の社員が、まずは会社をリークし、ある程度、社会が話題で沸騰してきたところに、政府の関与をぶちまけて、大センセーショナルな話題を世間にぶちまけるわけなので、
「世の中がひっくり返る」
といっても過言ではない。
「そこまでのことなのか?」
と思う人もいるかも知れないが、実際には、問題は、
「その内容」
なのである。
だからこそ、製薬会社は隠蔽し、さらに、政府まで関与するだけの大事件に発展したのである、
というのは、
「今回問題になっている滋養強壮薬。これによって、副作用が出た人は、その余命が分かる」
ということであった。
「余命半年」
「余命三カ月」
という感じである。
「副作用を引き起こした人の余命は、長くて半年、下手をすれば、一か月くらいだ」
ということであった。
確かに、この話を世間に公表するかどうかというのは、大きな問題であった。
「黙っている方が幸せ」
ということもあるだろうから、製薬会社内部では、
「絶対に、秘密」
ということにしていただろう。
当然政府とすれば、
「こんなことが世間に公表されれば、パニックになるだろうから、やめた方がいい」
というに決まっている。
作品名:表裏の性格による完全犯罪 作家名:森本晃次