表裏の性格による完全犯罪
と聞くと、皆、キョトンとして、今度は驚いたような顔をして、
「お前、それ本気で言っているのか?」
というではないか。
「本気もなにも、その通りさ。俺にはその心境が分からないんだ」
というのを聴いて、ますます皆キョトンとなった。
中には、
「お前は頭がいいからって、俺たちをバカにしてるのか?」
という輩も出てくる始末で、本当に分かっていない榊田の気持ちが、本当に分かっていないのだった。
だが、このままではらちが明かない。
「いやいや、確かに宿題をする頭もないのは事実だが、それ以上に、宿題に向かおうという気にならないのさ。遊び心が先に来るというのか、それとも、皆一緒だと思うと、つい気が大きくなるというのか、自分だけではないということを思うと、気が大きくなるというのは、ウソではないようだな」
というのだった。
この気持ちが榊田には分からなかった。
しかし、これが大学生になると少し分かってきた。
「なるほど、確かに集団意識を持つようになると、遊びに目が行ったりするものだ。特にまわりから期待などされると、特にそう感じるものだ」
と思うのだった。
だから、大学時代には、よく麻雀に勤しんだものだ。
ただでさえ、大学時代というのは、
「何かやりたいことでもなければ、これ以上暇なものはない」
と思っていた。
期末のテストにしても、今までの学習方法でやっていれば、ちょっとした勉強で単位を取得するなど簡単であった。
しかも、大学というところは、単位を取るということでは、
「なんでもあり」
ということであった。
中には、教授の出した専門書の印紙を、答案用紙に張り付けておくだけで、
「白紙で出しても、単位がもらえる」
などという先生もいたりする。
さらには、
「毎年同じ問題しか出ずに、その問題と解答が、出回っている」
ということで、
「単位取得はフリーパス」
と言われるものもあるくらいであった。
大学というところは、
「持つべきものは、いい席、いい友」
などと言われたものである。
そんな大学時代は、友達の誘いということもあり、
「麻雀、将棋」
などを結構楽しんだものだ。
さすがに、
「パチンコ、パチスロ」
であったり、
「競馬、競輪」
などといった、公営ギャンブルには手を出さなかっただけでも、いいといえるのではないだろうか。
「麻雀、将棋は頭の体操になる」
ということであり、実際に、麻雀ともなると、4人制というのが一般的なので、一人自分の仲間がメンツにいれば、
「自分だけでなく有人に負けさせないようなやり方だってできるというものだ」
ということで、友達とすれば、ありがたいことであるし、榊田としても、
「暇つぶし」
というものに、自分の頭の体操ができるということで、お互いに、願ったり叶ったりだったということだ。
さすがに、学校を卒業してから、かなり経っているので、
「頭の体操」
などということをすることもなかった。
仕事はそれなりにこなしていたが、
「頭がいい」
と言われたその頭脳を生かすようなことは、なかなかなかったのである。
学校を卒業してから、会社に入ってからは、
「将棋」
であったり、
「麻雀」
という遊戯をすることはなかった。
だが、あれは、ちょうど、会社の仲間から、
「すまん、メンツが足りないんだ」
と言われ、その同僚が自分と、そして、その麻雀仲間が連れてきたのが、坂上だったということである。
もちろん、この店以外での面識もその一度きりだったが、相手も、榊田を知らないふりをしていることから、わざわざこっちから話しかけるということも無駄であると思った榊田は、坂上に対して、何も言おうとはしなかった。
ただ、覚えていることとしては、
「坂上というのは、なかなかの腕で、麻雀などは、何手も先を読むことができるというつわものだ」
と感じたのだ。
だから、その時、榊田が、思ったよりも早く、
「麻雀の勘を取り戻せた」
というのは、
「坂上という男がいてくれたからだ」
といってもいいだろう。
それなりに、実力者がいると、
「こっちもその気になって、冠を取りもどっせるというものだ」
というのは、
「小学生の頃、皆がいっていた。宿題は、ギリギリにならないとできないという性分なんだ」
という話を思い出した。
そして、それが、
「今の俺なのだ」
と、坂上を前にして感じたことだったのだ。
そんなことを考えていると、
「坂上の話は、どこにでもある話のように聞こえていたが、その裏には何かがある」
と思うようになってきた。
そうでもないと、さすがの榊田であっても、
「こんなくだらないと思われるような、確信犯とも思えるような話を、ずっと聞いているわけはないだろう」
ということであった。
だから、最初こそ、
「酒井に注目していたが、途中で、もう一人が以前、麻雀で一緒になった相手だと気が付いたことで、がぜん、話に乗り気になったというわけである」
実際に、この話が、
「完全犯罪」
という話だと聞いた時、
「坂上が、何を言い出すというのか?」
ということに興味があった。
実は、榊田にも、一つ考えていることがあったが、最初に坂上が言った、
「完璧なアリバイ」
という、
「当たり前の発想」
というものを口にした時、
「ああ、同じことを考えてやがる」
と感じたのだった。
「だったら、次に言い出すことは?」
ということも考えるのであって、そのセリフというのが、しばらく経ってから、まるで、待っていたかのようなタイミングで切り出したことだった。
しかし、これも、相手から見れば、
「何をいまさら」
ということであり、考えがわからなければ、
「当たり前のことでしかないじゃないか」
ということで、それこそ、
「これ以上話をするのが、茶番だ」
ということになると、相手は感じるだろうと思ったのだ。
果たして、相手がいう言葉として、
「それは、実行犯に、動機がないことさ」
ということを、坂上は、勝ち誇った様子で語った。
さすがにそこまで聴いた酒井という男は、
「ああ、積んだな」
という感覚で、呆れたというよりも、
「やっと言ったか」
とでもいうようにして、呆れることもなく、黙りこくってしまった。
しかし、酒井は、その言葉が出るのを分かっていた。分かっていて、待っていたといってもいい。
彼がどういう腹積もりなのか分からないが、これで、切れるということが確定したことで、酒井は安心したようだった。
もう、酒井からは質問することもない。坂上は、潮時だとでも思ったのか、
「これが、完全犯罪における、骨組みというものよ」
と言った時、酒井はビクッとなった。
それは、自分が予期した言葉ではなかったことで、
「あれ?」
と思ったのかも知れない。
そういう意味で、酒井は、坂上という男に、それなりに興味を持ったようだが、それ以上のことはなかった。
少なくとも、今回のこの話に対して、
「これ以上、何もいうことはない」
と思ったからだ。
そもそも、
「完全犯罪とは?」
作品名:表裏の性格による完全犯罪 作家名:森本晃次