小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

表裏の性格による完全犯罪

INDEX|11ページ/18ページ|

次のページ前のページ
 

「自分であっても、いきなり言われて、簡単に自分の気持ちを暴露するようなことはなく、一度躊躇った後で、否定することになるだろう」
 と考えたのだ。
 そのわりに、酒井という男は、最初から躊躇なく否定した。それが却って怪しいと感じた榊田だったが、考えすぎであろうか。
「ところで君は、完全犯罪の定義というのは、どこにあると思う?」
 ということを言われた酒井は、今度は少し考えて、
「完璧なアリバイがあるなんてのは、一つの完全犯罪に近いものではないかな?」
 というので、坂上は、
「だけど、それでも、実際には、そのアリバイは崩されて、完全犯罪にならないんだよ」
 と言いながら、ニンマリとしていた。
 それを聴いた酒井は、また少し間をおいて、
「いや、それは、完全ではないアリバイだったからだよ」
 と答えた。
 これを聴いていた榊田は、
「この二人、それぞれに、当たり前のことを当たり前に答えているだけだが、酒井さんの方は、いったん黙ったところを見ると、
「ああ、この酒井という男は、自分が、当たり前の答えを返すことに、違和感があって、少しでも、他に回答がないか?」
 というのを探ったかのように思えたのだろうと感じたのだ。
 だが、坂上の方は、その、
「当たり前の答え」
 に対して、まるで鬼の首を取ったかのように、
「俺の答えに屈したな」
 とばかりに、まるで勝った気分になっていたのだ。
 酒井はそれを冷静に受け止めているようだが、ここで、酒井の方が、坂上という男をどういう目で見ているのか分からないが、
「この男であれば、俺が思いつくくらいのことは、なかなか思いつかないんだろうな」
 と感じた。
 ある意味で、そのおかげで、
「やつの話を他人事として聞ける」
 と思うと、気が楽になるのであった。
 そして、その時、
「二人の間の優劣は決した」
 とはたから見ている人には見えることであろう。
「アリバイなんて、完璧であればあるほど、信憑性がない」
 ということで、
「特に今の時代は、防犯カメラや、ドライブレコーダーなどがあって、アリバイトリックというのは成立しない」
 と言われているのだ。
 だから、完璧なアリバイがあるということであれば、
「その人は犯人ではない」
 ということにしかならない。
 それを、坂上は、論破したつもりだった。
 そして、論破しておいて、今度は坂上が、
「しかし」
 と言い出した。
「あくまでも、これは、実行犯ではないということでだけどね」
 というのであった。
 もちろん、酒井も、それくらいのことは分かっていた。
「共犯者がいれば別だ」
 ということである。
「確かに共犯者がいて、その人が実行犯であれば、犯行は可能だ」
 ということになる。
 実行犯というものは、
「犯行を代行してくれる」
 ということで、何も、動機のある真犯人に、
「鉄壁なアリバイ」
 というものがあっても関係ないのだ。
 つまり、
「実行犯でなければ、アリバイなど関係ない」
 ということになる。
 それは、殺害方法によっても違ってくる。
 例えば、毒殺などの場合であるが、
「必ずしも、犯人がそばにいなくても成立する」
 ということである。
 犯人の食べるものや、接種するものに、あらかじめ毒物を仕込んでおけば、被害者がいつ摂取するか分からないということで、完璧なアリバイを作ることはできる。
 しかし、逆に、この場合。
「いつ摂取するか分からない」
 ということで、被害者のそばにいる時に、接種するということも考えられるわけである。
 そうなると、こちらも、
「アリバイというものは関係ない」
 ということになるのであろう。
 また。
「鉄壁なアリバイ」
  ということで考えられることとすれば、
「死亡推定時刻をごまかす」
 ということがある。
 この場合は、例えば、
「死体を、冷やしたり、暖めたりすることで、数時間の誤差を生じさせるということができるだろう」
 ただ、その場合は、
「これだけを決定的なトリック」
 ということで使用するのではなく、
「他のトリックと併用して使う」
 ということにしないと、頭のいい人にかかれば、簡単に見破られるということになるのであった。
「この坂上という男は、ここまで話をしてきた中で、そこまで頭のいい人間ではなさそうだな」
 と酒井は感じていた。
 しかし、
「ということは、自分が何かを企んでいて、自分に犯罪計画を立てるだけの頭がないので、まるで、探偵小説談義をしているような形をとって、自分の犯罪計画のヒントを探ろうとしている」
 と考えるのが、一番ではないだろうか。
 もし、そうであれば、
「うかつなことはいえない」
 と思ったが、その根拠も感じられない。
 しかも、本当に何かを企んでいるということであれば、こんな飲み屋の、実際にまわりに皆聞いているという状態で、平気で話すというのは考えにくいというものだ。
 これが、逆に、
「本当に頭のいいやつだ」
 と感じたのであれば、
「木を隠すには森の中」
 などというように、わざと、まわりに聴かせて、
「まさか、本当に企んでいるなんて」
 ということで、
「ほとんど本当の中に、ウソを隠す」
 あるいは、
「ほとんどウソの中に、本当のことを隠す」
 というやり方になるだろう。
 しかし、このやり方は、
「やる人間によって左右される」
 といってもいいだろう。
「正直者で、人を騙すということができない人がやるのであれば、この計画は、間違いなく失敗する」
 といえると、酒井は感じていた。
 と、ここまで、あたかも
「酒井が感じていることである」
 という風に書いてきたが、これは、実際には、榊田が、
「酒井の気持ちになって考えたシナリオだった」
 実際に、
「酒井が何を考えているのか」
 そして、坂上が、
「酒井に対して、どうしてそこまで上から目線で話ができるのか?」
 ということを考えていたのだ。
 坂上は、このままいけば、
「結局は、当たり前のことに従事して話が終わるだろう」
 としか思えなかった。
 確かに、
「完璧なアリバイ」
 というものが存在すれば、
「それだけで完全犯罪だ」
 といえるだろう。
 世の中には、
「どうしても達成させたい」
 と思っているが、
「それができるくらいなら苦労はしない」
 と思っていることが多い。
「しかし、それが達成できたとして、本当に幸せなのだろうか?」
 というのが、
「この世で」
 いや、
「人間社会」
 というものの中に存在しているのだろうか?
 と考えるのであった。
 例えば、人間が欲しくてやまないものということで、昔からの書物や物語の中にあるものとして、
「不老不死」
 というものがある。
 特に、中国の、
「唐」
 という時代に書かれた、孫悟空で有名な、
「西遊記」
 という話がある。
 ここには、
「高貴な坊主の肉を食らうと、不老不死が得られる」
 という言い伝えがあるということから、
「天竺に向かう三蔵玄奘を、妖怪が狙う」
 という物語になっている。
 特に中国には、
「桃源郷」
 などというものもあり、不老不死などの幸せ内世界の存在を信じているということになるのだろう。