表裏の性格による完全犯罪
「男子と同じ表記にしよう」
ということであろうが、
「なぜ一緒にしないといけないのか?」
という理屈が理解できないのであった。
確かに、
「男女差別」
というものには問題がないわけではないが、そこまでこだわる必要があるかということで、このように、煽れば煽るほど、女性の権利ということを強くいうようになると、平等どころか、男性が肩身の狭い思いをしなければならなくなったり、逆に、それを利用した犯罪というものを起こってくる可能性もあるということである。
それが、嵩じてしまうと、
「痴漢などの犯罪への。冤罪事件に発展する」
ということになる。
女性の立場が強くなることで、今まで泣き寝入りしていた女性が立ち上がるというのは悪いことではないが、そのために、関係のない男性が、女性の勘違いから、
「この人痴漢です」
などといって、電車の中で叫ばれてしまうと、
「叫んだ女性は、まるで正義のヒロイン扱いされ、英雄のごとくになることで、犯人に祭り上げられた人は、冤罪であっても、完全に、推定有罪ということになる」
ということである。
ここまでくると、
「過ぎたるは及ばざるがごとし」
ということになるのではないか?
と、つかさは危惧しているのであった。
この問題は、
「男性だから」
「女性だから」
ということではなく、
「正しく事態を判断しなければいけないのに、そこに社会情勢であったり、一般的な常識などというものが介入してくると、判断を見誤る」
ということになる。
「例外や、突発的な事故というのは認められない」
という、雁字搦めの考え方に凝り固まった世界となり、中には、
「そんな世界にしてしまおう」
という一種の、
「暗躍する組織」
なるものが現れて、
「彼らに洗脳される形で、世界が変わっていく」
ということになるかも知れない。
もちろん、
「考えすぎ」
ということであろうが、一つの方向に、あまりにも疑いがなく進んでいくと、見誤ることが多くなり、
「洗脳」
ということになり、それこそ、
「大日本帝国」
における、
「治安維持法の時代」
ということになるのかも知れない。
完全犯罪
つかさが、そんな、
「長所と短所」
というものを考えている時、坂上と酒井の話は進んでいるようだった。
それまでしていた、
「副作用の話」
というのが、どうも、
「陰謀論」
というものに変わっていて、それが、今度は、
「社会正義」
という話になってきたようだ。
「社会正義というものを、ひけらかすことはあまり好きではないのだが」
という言い方で、敢えて切り込んでくるという形を、坂上は取ってきた。
しかし、実際に、そういう社会正義をひけらかすという人間を、極端に毛嫌いしている酒井という人間は、この話に興味を持っていた。
この三人の中で一番、
「正義感を持っているという人が誰なのか?」
ということを聴かれたとすれば、つかさとすれば、
「酒井さんじゃないかしら」
と答えるだろう。
坂上は確かに、
「真面目」
ではあるが、彼の真面目さというのは、正義感とは違う。
「正義感」
であったとしても、それは、
「勧善懲悪」
とは違ったもので、むしろ、
「勧善懲悪とは正反対の感覚ではないか」
と思えるのであった。
榊田のように、
「頭はいいが、肝心なところでミスをする」
というのは、勧善懲悪とは無縁な考え方であり、むしろ、
「肝心なところでミスをするということは、本当に頭がいいというわけではない。もっといえば、誰か他に協力者がいれば、ミスをすることもなく、頭の良さがいかせる」
ということになるだろう。
しかし、榊田のような男は、なまじプライドというものを持っているのだ。だから、
「協力者など求めずに、なんでも自分でできるようにならないといけない」
ということで、
「完璧主義よりも、すべてを自分で作り出す」
という考えをまっとうしようと考えているのだ。
要するに、
「俺はクリエイターであり、全体を見るということではなく、自分の範囲を完璧にさえできればいい」
と思っている。
そうは思っていて、自分の範疇だけにこだわってみても、結果として、
「肝心なところでミスをする」
ということに変わりはないということであった。
そういう意味で、つかさは、
「もし私が、この三人の中で、性格的に好きな人は誰かと言われると、榊田さんかも知れないな」
と感じた。
ただ、これは、自分が勝手に思い込んでいるというだけで、
「自分と相性が合う」
ということであったり、
「実際に求めている相手なのかどうか分からない」
ということで、実に曖昧なものだった。
つかさには、今彼氏はいない。
今までに付き合ったという男性がいないわけではなかったが、次第に、
「彼氏がいなくてもいいか」
と考えるようになった。
ただ、
「どうしても、孤独に苛まれ、無性に寂しい」
と思う瞬間が、定期的に襲ってくるということで、
「これも、私の性格なのか?」
と考えるようになったのだ。
たまに、男性を観察するのは、その傾向が強まった時で、
「そろそろ寂しいという気持ちが近づいてきたからなのかも知れないわね」
と感じるのであった。
そんなつかさは、
「この中で、一番正義感というものに近いというと、やはり、酒井さんなのかも知れない」
と感じたが、そこで一つの矛盾が出てきた。
それは、
「彼に狂言癖がある」
ということからである。
だが、その狂言癖というのも、
「オオカミ男」
というものへの解釈と一緒に考えれば。
「狂言というものが、本当に悪いものだといえるのだろうか?」
というのは、
「エイプリルフールということで、ウソをついてもいいという日があるではないか?」
ということであったが、それは、
「人に迷惑をかけるウソであってはいけない。せめてジョークの範囲内でのことである」
ということであれば、逆にこの日は、
「ウソをつくということで、その罪について考える日だ」
ということを認識していることで敢えて、
「エイプリルフールのような日を作った」
ということであれば、
「これも一つの逆説だ」
ということになるであろう。
「ところで、君は完全犯罪というものを考えたことがあるかい?」
と、坂上が言い出した。
「いいや」
と、酒井は言い返したが、実際には、
「ミステリーが好きな人であれば、完全犯罪というものに興味がないという人はいないだろう。実際に、調べてみたりするということまではないだろうが、人によっては、小説を読みながら、そのトリックの断片くらいは考えてみるということもあるだろう」
と、話を聴いていた榊田は思ったのだ。
だから、
「酒井が、口では否定しても、その表情を、いやいや考えたことくらいあるだろう」
と思って見ていれば、実際にそれくらいのことは考えていてもよさそうに思えてくるのであった。
それは、榊田にしても同じことで、
作品名:表裏の性格による完全犯罪 作家名:森本晃次