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洗脳による変則事件

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 だから、いつもに比べると、人は少なかったが、少なくとも毎日水を汲みに来ている人は、同じメンバーの到来に、安心して水をくんでいたのだった。
 そして、一人のお政が何気なく、普段は行かないところに入り込んでいくと、
「あれ?」
 と一声経立てたのだが、それを聴いた同行者である男性が、
「どうしたんだい?」
 とばかりに、笑顔で近づいていくと、そこには、普段見たことのない女性の表情が、顔色も悪く、まるで断末魔を見ているような感じで、男の顔も青くなっていたようだ。。
 彼女が、震える手で、指をさす。
「うわっ」
 という声を立てるのが早いか、二人はその場にしゃがみこんでしまい。お互いに抱き合っているのであった。
「なんだこれは」
 ということで、そのまま警察に、110番したということであった。
 もちろん、まわりに数組の、
「いつものメンバー」
 が集まってきて、
「これは大変だ」
 とばかりに警察に通報される。
 警察がやってくると、そこに倒れている人が、男の人で、うつ伏せになって、倒れているところに、その目は、カッと見開かれていて、遠くを見る目は、まさに、
「断末魔の表情」
 ということであった。
「この場所に、どうして、こんな朝早くから人がいるんだ?」
 と清水刑事は、発見者とは別の人に聴いた。
 清水刑事の出身は、地域も違うところで、しかも、このO警察署に赴任してきたのは、ここ数か月の間だったので、ここが、乙女山と呼ばれているということは知っていたが、その言葉の由来であったり、この山の今の利用価値までは知らなかったのだ。
「ほう、名水が出るわけですな?」 
 と聞くと、
「なるほど、この辺りが天領だということは聴いたことがあったが、この水が、ここを、乙女山に仕上げたといってもいいんでしょうな」
 というと、質問に答えた、水を汲みに来た人は、黙って頷いたのだ。
 死亡推定時刻は、今日のことではなく、数日が経っているということであった。
「皆さん、毎日ここにきているのに、誰も気づかなかったんですか?」
 と聞くと、
「ええ、普段はこの辺りは、雑草で埋まっていますから、立ち入ることはないんです。差靴の大雨のせいで、こちらを歩いたら、死体が出てきたというわけです」
 と、素直に答えた。
 清水刑事と、あとから駆け付けてきた桜井警部補は、当たりを見渡しながら、まずは、「被害者の身元を」
 ということで、ポケットなどを探った。
 ただ、この男が来ているのは、背広であった。普通であれば、こんなところに立ち入る服装ではないということから、
「不自然ですよね」
 と清水刑事がいうと、
「そうだな、背広で立ち入るようなところではないな、一番考えられるのは、誰かに呼び出されたということが一番だが、こんな人通りのいない場所で、しかも、夜になると、誰も入り込まないというではないか、まるで、この男、ここで殺されるために来たみたいじゃないか」
 と言った。
「ええ、そうですよね。もし何かの話をするのであれば、何もこんなところでなくとも、車の中で話をするということもできるわけなので、最初から、殺害の意志があったと考えるのが普通でしょうね」
 と清水刑事は言った。
「となると、このナイフは、あらかじめ犯人が用意しておいたものだといってもいいだろうな」
 と、桜井警部補は言った。
 二人の刑事は、背広のポケットを見ると、財布も、パスケースもあった。
 そこには、神崎隆三と書かれていた。
 断末魔で、その表情からは、普段の顔を想像することは難しそうであったが、年齢的には、まだ、40代には達していないように見えた。
 しかし、その名刺入れに入っていた名刺の肩書は、
「神崎商事 専務取締役」
 と書かれていた。
「この年で、専務?」
 ということで、桜井警部補は、
「ベンチャー企業の中には、大学時代の友達数人が立ち上げる小さな会社もあるというからな」
 と思ったが、
「そのわりには、この男、そこまで若いわけではなさそうだね」
 ということで、さらにパスケースを探っていると、運転免許証が出てきて、年齢をみると、42歳となっていた。
「なるほど、見た目年齢に間違いはなさそうだな」
 ということであった。
「とりあえず、まずは、この男の捜索願の確認と、会社に連絡をしてやろう」
 と桜井警部補は言った。
 捜索願というのは、
「この男が、死後数日が経っている」
 ということで、
「会社の取締役をしているようなお堅い人だったら、会社の誰か。あるいは、華族の誰かが、捜索願を出すくらいは当たり前のことだろう」
 ということであった。
 もちろん、司法解剖の結果を見ないと何とも言えないが、
「死亡してから、発見までに数日がかかったということ」
 そして、
「どこかに死体を隠すという考えがなかったかのように、死体隠滅の意志がなかったように見える」
 ということからも、
「不思議なところが多い」
 といってもいいのではないだろうか?
 山の中に死体を隠すのであれば、埋めるくらいしてもいいだろう。
 ということは、犯人としては、
「殺されたということを分かったとしてもかまわない」
 ということであり、しかも、
「それは、少ししてから発見されなければ困る何かがあった」
 ということであろうか?
 目撃者捜しといっても、街の真ん中であったり、路地などで殺害されたわけではないので、
「付近の聞き込み」
 ということができるわけもない。
 捜査とすれば、
「被害者の身元から分かること」
 と、そして、
「そこから見えてくるであろう動機」
 というものから、地道に探っていくしかないということだった。
 その日の昼前には、捜査本部が、
「O警察署内部」
 に出来上がった。
 そして、名刺に書かれていた、
「神崎商事」
 という会社に連絡して、会社に赴いてみると、
「どうしてどうして、ベンチャー企業などというのは、まったくの誤解であり、まるで一部上場企業といっても差し支えのないほどの会社だった」
 何といっても、会社は、
「自社ビル」
 ということで、全国規模ではないものの、地域ナンバーワン企業であることは、このあたりのオフィス街では、当たり前のことだったということだ。
 その中で、若干42歳の神崎が、
「どうして、大企業の専務になどなれたというのか?」
 というと、いわゆる、
「逆玉」
 といってもいいだろう。
 ただ、仕事に関しては間違いないやりてだということで、それを見越した会長が、
「娘の婿に」
 ということで、結婚を申し出たところ、神崎も快諾したということだった。
 だから、まわりの嫉妬心を煽ったのは当たり前で、
「あいつ、うまくやりやがったな」
 ということで、敵が多かったのも事実であろう。
 ただ、すでに、会社では、
「次期社長候補」
 ということで、今の社長が、すでに、年齢も55歳を過ぎているということで、
「ここ数年で、新社長の問題が浮上してくることになるだろう」
 と、会社ではもっぱらのウワサだった。
 そこで、この神崎専務は、
「ワル知恵には長けている」
 と言われているだけに、抜かりはなかった。
作品名:洗脳による変則事件 作家名:森本晃次