異常性癖の「噛み合わない事件」
そもそも、最初の付き合いは、男よりも、女の方が積極的だった。
男も、彼女と付き合いたいとは思っていたが、そこまで真剣ではなかったし、むしろ、
「結婚なんて、まだまだ先でいい」
と思っていたほどだ。
しかし、彼女の方から、
「結婚を前提に付き合いたい」
と言われたり、
「あなたじゃないと嫌なの」
と言われたことで、男の方も、
「冥利に尽きる」
と思ったことと、
「よし、俺が何とかしよう」
と思ったことで、舞台に強引に上がらされて、結局、踊らされただけになってしまったのだ。
男は自分が主人公であると勝手に思い込んでいたが、しょせんは、
「よそ者」
その土地自体が、
「よそ者を受け付けない」
というところがあったのだが、最初は田舎町特有の、人懐っこさに完全に騙されて。
「都会の人だ」
ということで、うらやましく見られていたと思っていたのに、実際には、品定めをされていただけで、
「ああ、やられた」
と思っても、後の祭りだったのだ。
それが、
「田舎と都会の違い」
ということであり、だから、
「別れてから半年もしないうちに、誰かと婚約」
などということになるのだろう。
その婚約が、
「恋愛によるものなのか?」
それとも、
「見合いによってできた関係なのか?」
ということは分からない。
しかし、そのどちらもあり得ることであり、どちらであっても、男にとっては、その女による、
「裏切り行為だ」
といってもいいだろう。
それを考えると、
「親にしても、その田舎の連中にしても、板挟みに遭ってしまえば、結局は、どうすることもできない」
ということになるのだった。
だから、親を恨み、田舎の連中を恨み、その男は、生きていくことになった。
その時の女性の子供が、今回の被害者である、
「島崎みゆき」
の母親である、
「島崎里美」
だったのだ。
被害者である、娘のみゆきが、自分の母親にそんな過去があったということを知っていただろうか?
みゆきは、子供の頃から、
「少し他の子とは違っている」
と親から思われていた。
父親は、あまり、里美のことを好きではなかったようだ。お互いに、田舎育ちということで、結婚も親が知り合いということでの、
「お見合いだった」
ということであった。
里美も、それまでの経験から、ある程度、
「男性との恋愛には、もう疲れた」
と思っていて、
「結婚できるなら誰でもいい」
というくらいに思っていたのだった。
そもそも、相手に、結婚を煽るだけ煽っておいて、結局、
「梯子を外す」
などということをしておきながら、自分だけ、
「疲れた」
というのは、何とも虫が良すぎるといってもいいだろう。
「結婚なんて、何が嬉しいというのか、結婚することで、幸せになれたのか?」
と結婚してから、ずっと里美は考えるのであった。
確かに、
「結婚してからというのは、自由がなかった」
しかも、今まで言われてきたように、
「結婚すれば、子供を産んで、その子供を立派に育て、伴侶とは、一生添い遂げる」
というのが当たり前だと思ってきたことが、
「世の中、まったく変わってしまった」
ということになる。
というのも、
「成田離婚」
と言われる時代がくると、
「離婚なんて、別に痛くもかゆくもない」
といってもいいくらいになっていたのだ。
「初めて、結婚して夫婦として二人きりになったことで見えてきたこと」
というのがかなりあり、それが、
「すでに結婚してしまっているので、取り返しがつかない」
と普通であれば、思うのだろうが、その頃から、
「いやいや。いまだったら、いくらでもやり直しがきく」
ということで、逆に、
「どうして今までの夫婦は、こんな簡単なことに気づかなかったのか?」
と思うようになる。
「我慢して寄り添っているつもりでも、次第に自分たちを追い込んでいき、最終的に取り返しのつかないところまで追い込む」
という理屈が分かっていないということになる、
しかも、まわりが、
「離婚なんていうのは、お互いに我慢が足りなかっただけで。世間様に対して、どう申し開きをするか?」
ということになるだけであった。
それを考えると、
「離婚ありきで結婚すればいい」
という気持ちになる人も出てくるくらいであった。
となると、
「結婚適齢期だから、結婚しないといけない」
という考えもなくなってくるだろう。
そもそも、結婚適齢期に、
「結婚したい」
と思うのは、本当に、
「結婚への願望なのだろうか?」
と思えてくる。
あくまでも、男女の関係、いわゆる、
「アバンチュール」
を楽しみたいだけと考えるようになると、
「身体だけの関係でいい」
と考える人もいるだろう、
そうなると、今度は、
「独身の方がフットワークが軽くていい」
と思う人も出てくるわけだ。
そこで、
「出会い系」
などというものが出てきて、パソコンやケイタイなどを使って、簡単に知り合って、
「あとくされのない関係」
ということになる。
しかも、そこには、
「出会い系」
という知り合うためのソフトに、
「課金」
というものが絡んでくると、これが、
「悪徳業種」
ということになってくる。
「メールを見るだけで1円、相手に返事をするのに5円、」
という形で、
「これくらいなら大したことがない」
と相手に思わせておいて、実際に相手の顔が見えないのをいいことに、
「実は、その相手がサクラだった」
ということを知らずに、メールのやり取りを繰り返す。
相手のサクラも、
「相手にたくさん課金させることで、余計にバイト代が増える」
ということになると、いくらでも相手をその気にさせて、メールを送らせる。
「会いましょう」
などというメールが返ってくると、完全に有頂天になり、
「相手がサクラだ」
などということはまったく意識しないで、
「課金されている」
という意識もほとんどなくなり、どんどんお金を使うことになるのだ。
そのうちに、
「数日で、万単位の金が出ていき、気が付けば、貯金を使い果たしていた」
などということが当たり前の人が出てくる。
そうなれば、
「出会い系」
というのは、丸儲けということになるだろう。
さすがに、ここまで大ぴらになると、社会問題にもなってくる。。
頭のいい連中は、
「この辺りが潮時」
ということで、引き際を間違えずに、うまく逃げる道を知っていて、警察が捜査に乗り出すと、すでに、証拠も何もかも消えていたといってもいいかも知れない。
それこそ、
「サイバー詐欺商法」
というものの、走りのようなものだといってもいいだろう。
ただ、実際に、その時代には、テレクラなどが全盛だったこともあり、
「出会い系」
というのが、実際に社会問題になっていたというのも、事実であろう。
だから、そんな時代に、
「結婚なんて、どうせ離婚するんだったらしない方がいい」
と思うのも当たり前のことだった。
昔だったら、
「子供がほしい」
と思う人もいて、
「結婚はしなくてもいいから、子供だけほしい」
作品名:異常性癖の「噛み合わない事件」 作家名:森本晃次