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異常性癖の「噛み合わない事件」

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「ええ、そうです。私は男として生まれてきたのですが、幼少期の頃から、自分が本当は女ではないか? ということをずっと悩んできたんです。小さい頃から、そういう人が多いということは聴いたことがありました。両親も最初こそ、かなり戸惑っていて、本当に、世間体などということを口にしていたので、私は子供心に、苦しんだものです」
 という。
 さすがに、そこまで神妙にされると、桜井警部補も、気の毒に思えて、
「いくら捜査の上とはいえ、気の毒なことをした」
 と感じていた。
 しかし、最初から話すつもりでいた二人は、ここまで来て話を辞めるわけにはいかない。
「私はそんな気持ちを高校生まで持っていて。親からは、ある程度の年齢になれば、女として生きても構わないと言われるようになりました。しかし、学校や世間は実に冷たい。私が、少しでも、女の部分を出そうとするものなら、苛めの対象ですよ。ひどいものでした」
 という。
 さらに、
「子供の頃などは、自分と遊んじゃいけないと、親が子供に言い聞かせているくらいなので、親の風当たりもひどかった。自分に対しても、親に対してもですね。本当につらかったですよ」
 という。
 それを横で聞いていてさっきまで気丈だった恵子も涙を流している。どうやら、必死になって、最初は自分が、性格に反して、いかにも霧島を守っているかのように、気丈に振舞っているだけだったということであろう。
 二人のその様子が、今回の事件に何か関係しているというのか、ハッキリと、桜井警部補には分からなかったが、少なくとも、
「関係がないとは言えない」
 ということは分かった気がした。
「私は、二十歳前に、性転換手術を受けました。その時に、ちょうど、恵子と知り合ったんです」
 という。
「どうして、その時期にしたんですか? ご両親の言われた。ある時期というのはいつだったんでしょうね?」
 というので、
「両親が私に言った。ある時期というのは、私に好きな人ができた時ということでした」
 というのを聴いて、
「おや?」
 と、また桜井警部補は、先ほどと同じように考え込んでしまった。
 それを見て。今度は、霧島も恵子も、同じように顔を真っ赤にしていた。
 二人が同時に、しかも、今までにないくらいに顔を紅潮させているというのは、
「ただ事ではない」:
 と、最初から分かっていたかのように、桜井警部補は思ったのだ。
「ということは、二人の感覚としては、同性愛ということになるんですか?」
 と聞くと、
「ええ、そうです」
 と霧島が答えた。
 霧島が、本当は男で、男が女に変わったのであれば、霧島は、男を好きになってしかるべきだ。
 しかし、選んだ相手は恵子ではないか?
 ということは、霧島が女として恵子を好きになったのだとすれば、霧島の中にあるのは、
「性同一性障害」
 というものだけではなく、
「同性愛」
 というものが潜んでいたということになる。
 いや、他の考え方として、
「恵子の方も、実は霧島と同じ、性同一性障害であったとすれば、それぞれ、性別を転換したところで、愛し合う」
 ということになるのではないだろうか?
 これは、
「異常性癖の中に異常性癖が絡んでいる」
 ということであり、気持ち悪さとともに、
「どこか耽美的なイメージを感じさせる」
 と感じるのであった。
「うーん。難しいな」
 と、実際にどっちなのか、二人が答える前に、桜井警部補が、本音として、態度に示したのだ。
 それが、却って二人に勇気を与えたのか、
「ええ、そうです、刑事さんの疑問はもっともで、私が、同性愛を望んだのです。つまり、私が女になったことで、レズビアンの関係ですね」
 と、カミングアウトしたのだ。
 それを聴いて、
「ご両親はそれで納得したんですか?」
 と聞くので、
「納得したかどうか分かりませんが、どうやら、私が、性同一性障害を持っていると分かった時点で、ある程度のことは察知したかのようでした。だから、いまさら、レズビアンだったとしても、そんなに驚かないというのが本音だったんでしょうね」
 というのであった。
「なるほど」
 と、桜井警部補は、そう感じた。
 しかし、桜井警部補は、二人の話を聴いていて、
「それだけのことを、警察に知られたくないと思っていたのだとすれば、今になって目撃情報を持ってくるというのも分かる気がする」
 と感じた。
 これほどのカミングアウト、いくら警察に長くお世話になっているといっても、さすがにビックリさせられたといってもいいだろう。
 ただ、桜井警部補は、それでも、
「この時期になった」
 という理由がそれだけだったということが気になるのだった。
「この二人は、これだけのことを言うのに、わざわざ、カミングアウトまでして、しかも、いまさらになってまで警察に出頭する気になったのだろうか?」
 と考えたのだ。
 桜井警部補は、事件のことよりも、二人の話をいろいろ聞くことに終始した。
 ただ、この二人が、警察にとって、
「目からうろこが落ちた」
 といってもいいような情報をもたらしてくれたことには違いない。
 それが、二人にも分かっていたのかどうなのか分からないが、少なくとも、一度彼女は、どこからか家に帰ってきたということが証言として出てきたのだ。
 家の方ではそれを何も言わなかった。
 だから、警察とすれば、
「彼女が自分の部屋に帰ろうとした」
 と普通に感じたのだが、今の証言で、
「誰かに呼び出されたのかも知れない」
 という気持ちにも傾いたわけである。
 何もわざわざ一度実家に帰ってまで、そこから一時間も滞在せず、夜中に帰ろうとするというのは、正直、おかしな行動に思える。
「実に不自然だ」
 と、桜井警部補は感じた。
 だが、それだけが本当にい二人が言いたかったことなのだろうか?
 それを考えて二人を見つめていると、二人は、ますます怯えているかのようで、
「まるで、ヘビに睨まれたカエル」
 のように見えるのであった。
 どちらからともなく、
「何かを言いたい」
 というオーラを感じるが、どうしても煮え切らないかのようだ。
 それを思えば、
「こっちからきっかけを与えてやらないといけないな」
 ということを感じ、
「さあ、どうすればいいか?」
 と思っていると、恵子が意を決したのか口を開いたのだ。
「あの、刑事さん。実は、もう一つ申し上げたいことがありまして」
 という、
「いよいよか?」
 と桜井警部補は、そう思い、彼女の行動を、包み込むように見つめていた。
 すると彼女は、長そでのカーデガンを着ていたのだが、その左手部分をめくると、そこに、痛々しい包帯が施されていたのだ。
 しかし、彼女の腕に、違和感はなかったので、傷があったとしても、ほとんど治っているということであろうと思ったのだ。それが、これから彼女が言おうとしていることであるとすると、黙ってきくしかないとおもうのだった。

                 大団円

「それは一体」
 と、本当は何も言わないつもりだった桜井だったが、傷を見せてから黙してしまった恵子にしびれを切らしたといってもいいかも知れない。