異常性癖の「噛み合わない事件」
ということにしてしまうと、それを利用した増長させる考えが生まれてくるのかも知れないのではないだろうか。
みゆきは、里美の話を、どんな気持ちで聴いたというのだろう? みゆきと里美は、
「育った時代が違う」
というだけで片付けられないと、思っていた。
しかし、里美は別の考えを持っていた。
自分が、好きになった川崎という男は、自分の父親が、
「自分の好きになった女を嫌うわけはない、俺たちは親子だからな」
と最初は言っていた。
それは、
「親父が大人になった俺に対して言っていた言葉だったんだ。好きになった女がいれば、いつでも連れてこい、俺が見てやるとばかりに言っていたからな」
という言葉だったらしい。
だから、川崎は、
「会うということを、まさか拒否されるなどとは、思っていなかった」
というのだ。
「会ってから、その先は分からないが」
とは言っていた。
だから、実際に川崎が父親に、
「好きな女ができた」
といって、家に帰ろうとした時、里美も川崎も、二人とも、
「そんなバカな」
と感じたという。
川崎は、まさか、
「あんな親父だったとは?」
と思ったというが、里美は、違っていた。
「あの人が言っていたのって、ウソじゃなかったのかしら?」
と考えたという。
確か、
「あの人が言っていることが正しいということであれば、こんなことにはならなかったはずだ。彼の父親への見方が甘かったのか、それとも、父親から信じてもらえないほどの男になってしまったのか?」
と、里美は考えれば考えるほど、川崎という男の情けなさばかりしか頭に浮かんでこずに、
「結局は、あの人を信じてもいいのだろうか?」
と考えるようになったというのだ。
その時点で、二人の考え方は、平行線になってしまった。お互いに、その先が見えるわけではなかったので、平行線になったことを分かっていない。
里美の方は、自分の精神状態が不安定になるので、
「別れよう」
という考えにすぐになってしまい、川崎はそれを見て、
「里美を落ち着けなければいけない」
と考えるにいたったのだ。
そのうちに、川崎は、
「里美は、精神疾患ではあいか?」
と考えるようにもなった。
だから、
「俺がいないとダメなんだ」
と感じるようになり、
「自分が正義で、彼女をサポートする役なんだ」
ということから、
「あくまでも、自分が、彼女よりも上であり、彼女は俺のいうことを聴いていればいいんだ」
という、いかにも、
「男尊女卑」
に近い考えになったといってもいいだろう。
それを考えると、里美には、川崎が次第にそんな思いを抱いているように感じるようになり、それが、
「男として私が一番嫌いなタイプである」
ということに気が付くのであった。
しかし、里美の中には、
「彼をそんな男にしてしまったのは私かも知れない」
ということで、まるで、
「ダメンず男製造機」
とでも言わんばかりだと思うようになっていた。
だから、
「あの人を見捨てるわけにはいかない」
と考えるようになった。
里美の考えも分からなくもないが、これでは、結局、せっかくうまい方向にいこうとしているのもを、元に戻してしまう」
ということになるであろう。
そうなると、
「里美も川崎も、相手のことを思っているつもりで、結局、相手が一番嫌がることをしている」
ということになり、それを、
「交わることのない平行線」
というのだろう。
そういう意味で、
「この泥沼の状況を、どっちが先に断ち切るか?」
ということが問題だった。
結果として、里美が打ち切ることができたのだが、里美は、その時、
「もうどうなってもいい」
というくらいの気持ちになったのかも知れない。
親が勧めるお見合いに、逆らうこともなく。気力のないところで、あれよあれよという間に見合いをし、スピード結婚ということになったのだ。
それは、
「里美の望んだこと」
といってもいいだろう。
当時はまだ。
「結婚適齢期」
というものが存在していて、
「ここで結婚しないと、高齢出産になる」
と思っていたのだ。
基本的に、
「適齢期で結婚し、高齢出産にならないように。子供を産む」
ということに戻ってきたということであった。
そもそも、川崎と付き合っていた時期というのは、自分の中で、
「そんな気持ちをぶっ潰したいという意識があった」
ということで、川崎と付き合うことにしたのだ。
そう思えば、
「相手が川崎でなければ、ちゃんと恋愛結婚できただろうか?」
と感じた。
確かに川崎との間で考えれば、
「本当に相性は最悪だったかも知れないが、あの人とでなければ、こんな気持ちになることもできなかった」
ということで、
「最悪ではあったが、嫌な気はしない」
という気持ちになっていたのであった。
だから、
「本当であれば、もう一度くらい恋愛してみたかった」
という気持ちはあった。
それが、
「川崎という男だからダメだったのか、それとも、川崎以外でもダメだとすれば、私には恋愛はできない」
ということになることが分かると思ったのだ。
だから、最近では、
「あの時、他の人とも恋愛ができていれば」
と思うのは、みゆきを見ていて、
「母親として、どんなアドバイスをすればいいのか?」
と感じるからで、特に、みゆきが、まだ小さかった頃から、
「みゆきという娘は、私の若かった頃にそっくりだ」
と感じたのだ。
だから、
「私の経験から正しい方向に導いてあげたいが、その経験が私はない」
ということを思い知った。
それは、
「恋愛」
というののだけに限らず、他のことであっても、
「私は、何かを選ぶという時、娘が選んだものと同じものだった」
とは思うが、それを
「どんな経験から」
と考えれば、それを思い出すことができなかったのだ。
つまりは、
「経験がない」
ということであった。
中には、
「忘れてしまった」
と感じることもある。
しかし、忘れてしまったということは、最初から意識していなかったというのを同じことではないか?
と感じることで、結果、本当に経験がないということを思い知らされるのであった。
ということは、
「私はみゆきの手本にはなれない。だから、説得力もないんだわ」
と思うようになったのだった。
「じゃあ、みゆきは、お父さんに似たのかしら?」
と思ったが、
「じゃあ、お父さんってどんな性格なんだろう?」
と考えたが、改めて考えようとすると、
「はて? そんな性格だったのだろうか?」
と思ってしまうのだった。
つまりは、
「お父さんのことを知るべき時期に、お父さんのことを知ることができず、知ったつもりになっていた」
ということになるのか?
と感じたのだ。
つまり、
「私にとって、父親というもの、そして、母親というものを自分で分かっていないことで、親として、娘に何もしてやれないということになるのか?」
と感じるのだった。
そんな父親が、自分にとって、
「いや、自分が妻として、そのような存在だったのか?」
作品名:異常性癖の「噛み合わない事件」 作家名:森本晃次