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異常性癖の「噛み合わない事件」

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 ということを信じるとすれば、死体はうつ伏せで倒れていて、まったくっ身動きはなかったという。
 死体があったその場所の近くには街灯はあったが、あいにく切れているようで、ちょうど、真っ暗になっているところであった。だから、家へ帰ろうとする反対側車線と通る車が意識しなかったというのは、当然のことであり、野次馬の話には、一応の信憑性があった。
 うつ伏せに倒れているので、ビックリして急いで急ブレーキを踏んだというが、それもそうだろう。
 確かに暗い場所で、しかも、ライトを上げていない状態であれば、本当に近くまで来ないと、その死体を発見することはできなかったであろう。
 しかも、この道は下り坂である。普通に走らせているつもりでも、気が付けばスピードが出ているといってもいいだろう。
 そんな中で、
「あやうく轢くところでしたよ」
 ということで、今思い出しても、背筋がゾッとするのか、身体をビクッとさせてしまっているようだった。
 もちろん、被害者はすでに死んでいるのだから、轢いたとしても、殺人にはならないのだろうが、それも後から分かったことで、その時は肝を冷やしたことであろう。
 しかも、そんな、
「障害物」
 を、速度を上げている時に乗り上げてしまうと、自分の車が横転もしかねないのである。それを考えると、
「どっちにしても、急ブレーキを踏むしかない」
 ということになるであろう。
 実際に、警官が、そのあたりを懐中電灯で照らしていると、
「確かにブレーキ痕がありますね」
 ということであった。
 なるほど、どこでブレーキを踏んだのかというのは、気の動転ということもあり、いわゆる、
「錯覚」
 というものもあるだろうから、ハッキリとしたことはいえないということになるであろう。
 だから、警察もそのあたりを言及するつもりはなかった。
 そして、発見者がいうには、
「最初は、酔っ払いか? とも思ったんですが、こんなところで酔っ払いが歩いているわけもないですよね。この街にある飲み屋というと、もっと上の方の中心街のようなところに、バーかスナック、焼き鳥屋のようなものが、それぞれ、一、二軒あるくらいですからね。そこから歩いてきたとは思えないし、それにその店にいく人は、この街の人しかいないですよ、車で帰れば飲酒運転ですからね」
 というのだった。
 それも言い分としては、至極当たり前のことで、信憑性はあった。
 確かに、ここで酔っ払いが倒れているというのもおかしなものだ。
 それに、万が一酔っ払いだとすれば、他に誰かがいてしかるべきだ。それとも、ここまで酔っぱらっているのであれば、ハイヤーでも呼ぶくらいあってもいいというものだ。
 その男がうつ伏せになっているというのも、第一発見者は、
「違和感があった」
 という。
「気分が悪くなったのであれば、歩道に持たれるくらいでないといけないですからね。誰かを呼ぶということもできるでしょうから、それもしていないということは、おかしいと思いますよ」
 というのだった。
 確かに所持品を調べてみると、胸のポケットにはスマホが入っていた。
 通話履歴を見ても、9時以降はおろか、昼以降、どこにも連絡をしていない様子だった。
 もっとも、これは後から分かったことであり、通話履歴を見ようにも、スマホにが画面ロックがかかっているので、見れるわけもなかったのだ。
 発見者がいうのに、
「近づいていくと、何やら影が濃いということが分かったんです。被害者は、向こうに向かっている時に倒れたのか、運転している自分から見ると、足とお尻しか見えない状態ですからね。だから、ヘッドライトを付けたまま、被害者を照らせば。頭の方向は影になってしまっていて、最初は目が慣れていませんでしたから、その光が影しか写していませんでした。だから、濃い影だとしか思わなかったんですよ」
 という。
 なるほど、男の言う通り、影にしか見えないということも分かるというものであった。
 男は続ける。
「だけど、目が慣れてくると、この道はアスファルトを、最近補修したのか、新しくなっていて、しかも、ここは少し急な坂ということもあって、アスファルトが、細かく凸凹になっているんですよ。しかも、アスファルトが新しいとなると、まるで、乱反射したように、ヘッドライトの光が眩しいくらいになるんですよね。そこで、よく見ると、その影だと思った部分が光って見えるんです。そこで、何かの液体だということが分かり、しかも、何かドロドロしているので、最初は、ガソリンでも漏れていると思って、顔を近づけると、まったく違う臭いだったんです。何か懐かしいような、それでいて、気持ち悪い鉄分を含んだ臭い。それで、血の臭いだとわかったんですね」
 という。
「どうして、血の臭いが懐かしいと思ったんですか?」
 と聞かれた男は。
「自分は、子供のころ、結構、やんちゃで、よく表でけがをしたりしていたんですよ。年に何度も、外科に通うくらいのですね。だから、結構流血事故のようなものもあって。その時に自分の血の臭いを嫌でも嗅ぐじゃないですか。それを思い出してしまったということなんですよ」
 というのだった。
 桜井警部補も、
「刑事のような仕事をしていれば、同じ感覚になるのも当たり前だ」
 ということで、男のこの証言も、無理もないこととして受け入れたのだ。
 さらに男が続ける。
「さすがにすぐに、殺人事件とは思わなくて、交通事故かと思ったんですが、それだったら、顔とかに傷があると思ったけど、それもなかった。手首や首筋を触ってみると、冷たいと思ったので、死んでいることは分かりました。こういう事件は、とにかく現状維持が大切だということは分かっていましたので、すぐに警察に通報したというわけです」
 というのであった。
「じゃあ、あなたは、死体の胸に刺さっていたナイフを見たわけではないということですね?」
 と桜井警部補が聴くと、
「ええ、刑事さんたちが来てから、初めてこれが、殺人事件だということを知ったんですよ」
 というので、
「でも正直、この状況から、殺人事件の可能性は高いとは思いませんでしたか?」
 と聞かれて。
「ええ、そうですね。最初発見した時は、気が動転していたので、判断力がなかったかも知れないですが、警察に通報してから、警察が来るまでは、死体と二人きりじゃないですか。こんな暗くておっかないところに生きているのは自分だけですよ。薄気味悪いったらありゃあしない。だから、冷静にもなるというもので、その時にいろいろ考えるわけですよ」
 と男がいった。
「なるほど、男は普段から、結構肝が据わっている人かも知れない。言葉尻を聴けば、どこか
「江戸っ子っぽい」
 というところがあり、それを聴いていると、
「実際に、その時怖かったということが分かる気がした」
 どうしても、薄気味悪いところにいると、
「虚勢を張りたくなる」
 というものではないだろうか?
 この男にも幾分がそういうところがあるようで、そもそも、警察の聞き込みに、ここまで話が冷静にできるというのも、それだけ、普段から肝が据わっているからではないかと感じるのであった。

                 目撃者