悠々日和キャンピングカーの旅:⑭西日本の旅(山陰(前編))
この山陰近畿自動車道はまだ建設中のため、途中で降りたり乗ったりを繰り返し、案内標識「鳥取砂丘」を見てから右折して、県道319号に入り、その直ぐ先にも案内標識があり、「砂丘道路」に入って行った。
助手席の車窓から見える畑一面に、低い丈の淡い紫色の花が咲いていた。何だろうと思っているうちに、窓から吹き込む風に、らっきょうの臭いが混じってきた。この後に立ち寄った「鳥取砂丘ビジターセンター」の人に訊いたところ、やはり、らっきょうの花とのことだった。
そこでちょっと調べたところ、らっきょうの生産量の都道府県ランキング(2020年)で鳥取県はNo.1だった。砂地でも栽培できる品目として鳥取県で作付けが拡大していったという。ちなみに、No.2は鹿児島県だった。
走っている道は「砂丘道路」なので、運転席側から砂丘が見えるものと思っていたが、海岸と県道の間には灌木が広がり、時折、その隙間から海が見えていた。
その先に、海が見えそうな駐車スぺ-スがあったので、「ジル」を停め、そこからわずか5m先から見えたのは、打ち寄せる波が階段状の堤防に砕けている風景で、砂浜はなかった。まだ砂丘の東端にもたどり着いていないようだ。
「砂丘道路」は海岸から離れていき、両側は松林になっていった。
やがて左側には建物が見え始め、右側には「砂丘駐車場」があった。すぐには入らず、先ずはその前の「鳥取砂丘会館」の道に面した駐車場に「ジル」を停めた。そして「砂丘会館」の中を見て回ると、土産物屋やレストランが入っていた。
「ジル」は普通車扱いだが、サイズは幾分大き目なので(全長5m×車幅2m、車高:3m以上)、駐車場から「ジル」の後部が若干、歩道に出ていたので、「砂丘駐車場」に移動し、デジカメを持参して、砂丘に向かった。
この駐車場の海側には一面、砂の丘が広がっており、正式には「砂丘列(さきゅうれつ)」というようで、それは海岸に沿って発達する砂丘(海岸砂丘)であり、砂浜の細粒砂が風により陸側に吹き寄せられて形成される地形だ。鳥取砂丘には第1から第3まであり、目の前の砂の丘は「第3砂丘列」とのことだった。
駐車場の少し上から、砂丘列の斜面に設けられた踏面の長い階段が砂丘列の上まで続いていた。踏面の上には多少の砂が見られたので、一段一段慎重に上り、上にたどり着いた時、いきなり目の前に砂丘が現れ、その広さに驚き、感激した。
この粋な計らいとも思える砂丘の登場の仕方は憎い演出に思えた。
静岡県西部の自宅からクルマで40分ほど走れば浜松市内の遠州灘に面した中田島砂丘があり、また自宅から5kmの遠州灘の海岸に行くと広い砂浜があり、日頃から、砂丘や広い砂浜は見慣れていたのだが、この鳥取砂丘は、それらとは次元が異なり、比較にならないほどの広さで、改めて、日本一の砂丘だと納得した。
ちなみに「日本三大砂丘」を調べたところ、諸説あるとのことだが、「鳥取砂丘」、「吹上浜(鹿児島県)」、「中田島砂丘」と言われている。
また「砂丘ランキング」なるものもあり、1位は「鳥取砂丘」で、 日本一といわれる起伏が美しく、国の天然記念物であり、ユネスコ世界ジオパークにも認定されているのがその理由らしい。2位は「内灘砂丘(石川県)」、3位は「浜岡砂丘(静岡県)」、そして4位は「中田島砂丘」だった。
さらに調べると、下北半島の太平洋側にある「猿ヶ森砂丘」は、南北17km、東西最大2kmにわたって広がる日本最大級の砂丘という情報もあった。
また、日本で最も大きな砂浜は全長66kmの「九十九里浜」で、日本一長い砂丘は全長47kmの「吹上浜」という情報もあった。
砂丘と砂浜は似て非なるものだと思うが、その定義は知らない。多分、その成り立ちに違いがあるのだろうが、広さや長さといった客観的な見方や主観的な美しさなどの色々な見方もあり、世界的な機関による認定や日本の渚百選もあり、私には整理がつかなかった。
しかしながら、今、目の前にしている「鳥取砂丘」の大きさや滑らかな起伏に、私は感服した。
登ってきた「第3砂丘列」の上から、日本一の砂丘の写真を撮ろうとしたところ、風が強く、細かな粒の砂が舞い上がっている。デジカメに砂が入らないように、細心の注意を払いながら、砂丘の写真を撮り、セルフタイマーで自撮りもしながら、暫くの間、砂丘全体の風景を眺めていた。
その風景の中に駱駝(らくだ)の姿が見えた。観光客向けの乗駝(じょうだ)体験の提供だ。
その風景を見て思ったのは、砂丘を砂漠に見立て、そこに駱駝がいるならば、日本人にとってそれは、砂漠の中を駱駝に乗って進むキャラバンのイメージであり、その疑似体験が人気なのだろう。
もうひとつ、その風景を見て思い出したのは、仕事をしていた現役の頃、パキスタンのカラチに出張した際の休日に、現地駐在員が連れて行ってくれたのはアラビア海に面した海岸だった。
青空とベージュ色の砂浜が印象的で、その遥か先に、碧いアラビア海が見える情景だ。そこでもやはり、駱駝に乗駝できる商売を見掛けた。国が違えども、広い砂浜があれば、同じことを思い浮かべるのだろう。面白い。
見渡した鳥取砂丘全体の海側には「馬の背」と呼ばれる「第2砂丘列」があり、多くの観光客がそこに向かって登っていた。
ここに来るまでは、鳥取砂丘を訪れて、目の前に広がる砂丘を見れば満足するものだと思っていて、わざわざ砂丘列に登って海を見るのは、「砂を見ずに海を見ている」ようで、何か違うような気がしていた。
ところが、目の前の風景を見ていると、「馬の背」に登ることで砂丘を体験でき、そのご褒美が日本海の眺望なのだと悟った気がした。
「馬の背」の手前には、大きな池や草原のある「オアシス」があり、そこから「馬の背」に登るのは急勾配のため、その手前のルートが最も楽そうに見え、「第3砂丘列」を下り始めた。
靴の中に砂が入ってこないように気を付けてはいたものの、靴が砂の中にめり込み、もう砂が入ってしまった。「馬の背」までの最後の登りは、30cm登っても10cmはズルズルと下がってしまう感じで、思っていた以上にきつい登りだった。
登り詰めた「馬の背」の上は北風がかなり強く、海側に吹き飛ばされそうな感じだった。
そこから見えた日本海は、砂丘の砂が舞っているため、くっきりと見えなかったが、それでも「馬の背」から眺める海だったので、視界不良の海の写真を撮った。
そういえば、「馬の背」から海側に、パラグライダーが飛ぶシーンをネットか何かで見た記憶があるが、強い北風の今日は、海に流されるリスクがあるためなのか、残念ながら、パラグライダーを見ることはなかった。
波打ち際までは下らず、戻ることにしたところ、「馬の背」からの下りの1歩は2歩分の歩幅になり、こうなると、靴の中の砂についてはどうでもよく、楽しみが優先の下りになってしまった。
その先の「第3砂丘列」までの登り勾配は緩やかだったが楽ではなく、やっとのことで登り終わり、そこで、靴の中の砂を出した。振り返って、もう一度砂丘を見てから階段を下って、「鳥取砂丘ビジターセンター」に入館した。