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静岡のとみちゃん
静岡のとみちゃん
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悠々日和キャンピングカーの旅:⑭西日本の旅(山陰(前編))

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 赤信号で止まっている今、その先には大谿川に架かる石橋が見え、その左右には柳の木も見え、その風景と記憶が一致した。青信号に変わった時、直進せずにハンドルを上流側の左に切った。
 記憶の風景が始まった。人の往来の中に見えた浴衣姿やその上に半纏(はんてん)を羽織った人たちが河畔の柳や石橋を背景にしながらのそぞろ歩きは、温泉街の風景そのものだった。
 川べりの道を奥へ奥へと進み、温泉街がなくなるあたりで引き返した。

 高校生の頃までは、福岡県北九州市の近くに住んでいたこともあり、私の温泉地の記憶は、幼い頃に家族と訪れた大分県の別府の「湯けむりと浴衣姿、そして掛け流し」で、どこもそうだと思っていたが、湯けむりがあちらこちらで見えるのは、全国的にも、数少ないようだ。
 湯けむりは、源泉の数や湧出量に比例しているようで、湯けむりが見えない温泉地はイコール加温しているのではないかと、思わず、そう思ってしまう。

 外湯の「地蔵湯(じぞうゆ)」が見えてきたので、温泉に漬かることに決めた。
 対岸の有料駐車場に「ジル」を入れたが、駐車スペースがギリギリだったので、そこを出て、多少の余裕がある他の駐車場に「ジル」を入れた。
 「ジル」のサイズは全長5m、車幅2mのため、普通車用の駐車スペースの場合は、隣に駐車する普通車に少し迷惑を掛けてしまいそうで、若干広めの駐車スペースを選んで駐車している。それが見当たらない場合は、大型車両の駐車スペースに停めている。

 先ずは、河畔の道を歩きながら温泉街の写真を撮り、石橋の上で両岸の柳の風景の写真も撮り、浴衣姿の温泉客を横目で見ながら、「地蔵湯」に向かった。
 男湯に入ると、その中央にひとつの大きな楕円形のような湯船があり、浸かると少し深めで、熱めの湯が気持ち良かった。ここまで走ってきた疲れが取れてしまいそうだった。

 ここ城崎温泉には、一の湯、御所の湯、まんだら湯、さとの湯、柳湯、鴻の湯、そして地蔵湯の七つの外湯があり、全てを回ることを「七湯めぐり」というようで、これからの長いセカンドライフで、このあたりを旅する際は、毎回、ひとつひとつ巡ることに決めた。
 そうなると、あと6回も来なくてはならないが、全てを制覇するにはかなりの年数が掛りそうなので、2湯ずつ浸かることに変えた。

 城崎から今日のゴールの道の駅「あまるべ」(兵庫県香美町)に向かうには二つのルートがある。
 ひとつは、城崎から北上して、日本海側の風光明媚な竹野海岸沿いを走り、そのまま日本海沿いに香住を経て、余部に向かうルートだが、コーナーの多い道のようで、日没後に、宮津から伊根に走った際の二の舞になりそうだ。
 もうひとつは、山間を走るR178から山陰近畿自動車道(無料区間)に乗ることができるルートで、体に優しい運転になりそうだ。
 間もなく日没を迎える今日の最後の運転には後者の方がベターだと体が訴えていた。

 山間のR178は走り易く、さらに山陰近畿自動車道は下道と違って直線が多く、カーブがあっても大きなRだ。峠道はなくトンネルを通過して、制限時速70kmは速い。見る見るうちに、余部ICの表示が出てきて、自動車道を降りた。
 あと1km走れば、ゴールの道の駅「あまるべ」だと思っているうちに到着した。
 この道の駅は、JR山陰本線の餘部駅(あまるべえき)および余部橋梁の真下にあり、愛称「余部クリスタルタワー」のエレベーターで展望台「空の駅」に上がれば、古い橋梁の遺跡も見えるとのことだ。明朝に往時を偲ぶことにした。

 駅舎はまだ営業中で、残り時間は20分。さっとショップ内を見て回り、営業が終了するまで、旧余部鉄橋の情報や、そこで起きた事故の情報などのビデオをしっかりと見ることができた。
 駅舎から出た時、駐車場にはクルマが1台も停まっておらず、今夜は静かな夜を迎えることができそうだ。

 夕食は、キッチンで調理せず、キッチンの床下収納に、何かの際に活用するために積んでいたカセットコンロをダイネットのテーブルに載せて、鶏のハツとサイコロステーキ、キャベツなどを焼き、コーラを飲み、道の駅で入手したパンフレットを見ながら食べ続けた。白米は不要なほど、たっぷりな肉の量だった。

 夕食を終えた頃、1台のクルマが入って来た。それは大分ナンバーのライトバンだった。もしドライバーが車外に出てくるのであれば、話し掛けようと思っていた。
 私の実家は福岡県で、大分県には母方の親戚がいることもあり、身近な県のひとつに感じている。しかし、現在住んでいる静岡県の隣の愛知県、神奈川県、長野県、山梨県をあまり身近に感じないのは何故なのか? それは、静岡県が東西に長く、東西の県は距離的に遠く、長野県と山梨県は、容易に行けないため、精神的に遠いのかもしれない。
 ともかく、隣人のような大分県ナンバーのクルマの人と話す機会をうかがっていたが、残念ながら、そのチャンスは無かった。

 小雨が降り始めたが、「余部クリスタルタワー」のエレベーターで展望台「空の駅」に昇ってみた。残念ながら、何も見えず、何も分からず。明朝、エレベーターは6時から動くので、再度、昇ってみることにした。

 就寝前に、今日の「旅のメモ」を書いていると、潮騒が聞こえてきた。この道の駅は海の近くだと再認識した。

【今日の一言】 日本の原風景のような「伊根の舟屋」を船から見たい。「城崎温泉」の外湯巡りを制覇したい。この地にはもう一度、いや何回も訪れたい。そう決めた。