悠々日和キャンピングカーの旅:⑭西日本の旅(山陰(前編))
そのスペースの防波堤の内側には「立石岬灯台」への案内看板があり、ここから200m直進して左折とのことだが、「クマ出没注意」とも書かれていた。
熊よけ鈴は持っておらず、笛のような音を出すものもなく、デジカメだけを持って徒歩で向かうことにした。
巨岩ではないが、大き目の石がごろごろしている海沿いの、遊歩道とは思えない草むらの中の踏跡が続くような道を歩き始め、その状況から、灯台に行く人の少なさが分かる気がした。
今日の敦賀湾は静かで、海面は穏やかだったが、もし、白波でも出ているようだったら、歩き進む気が失せたのかもしれない。そんなことを思いながら歩いて行くと、「ここから約400m、約15分」の看板があり、灯台のある半島の高台に続く登山道に入っていった。
木に覆われた険しい登り道で思い出したのは、先ほど見た「クマ出没注意」だった。「ジル」に積んでいたバールか何かを持参すればよかったと悔いたが、ここから戻るのも億劫で、歌いながらでは誰かに会うと恥ずかしいため、ちょっと大きな咳払いを続けることにした。何とも情けない方法だが、黙って登るよりはベターと思いながら登り続け、急登に息を切らせながら15分くらい登った先に、白亜のちっぽけな「立石岬灯台」が見えた。
ここまで誰にも会わず、この灯台が建つエリアにも誰もおらず、半島の先端部分、厳密に言うと、波打ち際の先端ではないが、今、ここにいるのは私ひとりだった。
そこから、東側は見えるが、北側の海は見えなかった。灯台の上に立てば、当然、見えるのだろうが、そんなことはできない。
この場所を十分に味わったので、クマが出てこないうちにと思いながら、来た道を引き返すことにした。下りは思いのほか楽で、すぐに海沿いまで下りることができ、海面を横に見ながら「ジル」まで戻ると、クマとの遭遇リスクから解放された気分になり、安堵、安心した。
立石漁港からは、行き止まりになった県道を引き返しながら南下した。
敦賀原発の前を通過してからは、敦賀湾内で南に伸びる小さな半島の先端に、薄茶色の砂洲で結ばれた2つの小島が見えた。リゾート地のような雰囲気があり、写真を撮った。
そこは、透明度の高い海に囲まれ、木々が少し生えている「水島(みずしま)」という無人島で、夏は、海水浴・ウィンドサーフィン・スキューバダイビングで賑わう若狭湾国定公園内の一部だった。
敦賀半島のほぼ中央部まで南下したあたりに、半島を東から西へ横切る県道があり、そこを走り、半島の西側に向かうことにした。その途中、馬背峠(まじょうとうげ)を越える旧道があるようだが、その下の馬背峠トンネルで、いとも容易く、半島の西側に出た。そこは、白砂が広がる美しい「水晶浜(すいしょうはま)」だった。
この紀行文の執筆中、走った道を確認するために、ネットで敦賀半島北部の地図を見たところ、立石漁港のすぐ南側に、東から西につながる道があり、その道を走らなかったのは何故? と、その時のことを思い出そうとしたが、記憶が不鮮明だった。
そこで、旅にいつも持参しているロードマップを取り出して見たところ、その道は載っておらず、今、3年前の旅の紀行文を書いていることから、その3年の間に、新規に開通した道のようで、多分、道路案内標識に気が付かなかったのだろう。
ちなみに、この新しい道の殆どは「敦賀半島トンネル」で、原発の事故発生時の初動対応や事故制圧などを迅速に行うための「原子力災害制圧道路」だった。
いずれにせよ、その新しい道を走らなかったのは残念だった。そうなると、いつもの台詞になるのだが、また行けばいい、と。
旅にいつも持参しているロードマップは7年前の2018年に買ったものだったので、最新版を買うことにしよう。
なお、これまでの「キャンピングカーの旅」で走った道をラインマーカーでトレースしているので、新しく買ったマップに、それを転記しなければならない。それを面倒くさい作業と思うのか、それとも、マップ上で再び旅ができると思うのか、さて、どちらになるのだろうか。
「水晶浜」の砂浜の上でひとり、美しい砂浜や周囲を見渡している時、この旅のおよそ半年前のことを思い出した。
それは、パラモーターのフライトのために、ここ若狭湾まで遠征し、敦賀半島の西側の美浜町の「久々子浜(くぐしはま)」からテイクオフしたことだ。西側の「三方五湖(みかたごこ)」の上空を飛んだことがある。
その日、地元のパラモーター仲間から、「三方五湖」の最も東側の「久々子湖(くぐしこ)」のすぐ上空は、南の滋賀県との県境一帯の野坂山地から吹き込む風でコンディションが良くないため、先ずは、「久々子浜」の上空600m位まで高度を上げて、それから水平に「三方五湖」の方に向かうとよいとのアドバイスをいただき、そのとおりにフライトすることにした。
地元のパラモーター仲間は、その土地の風のコンディションなどを詳しく知っているため、的確なアドバイスをしてくれるものだ。
「三方五湖」の上空では、眼下の5つの湖の景色を見まわしながら空撮を繰り返し、その空間に暫く留まりながら、周囲の景色を堪能した。
帰路は、再び「久々子浜」の上空まで水平に飛んでから下降を始め、円弧状の「久々子浜」の上を低く飛びながら、テイクオフした場所に戻り、着地した。
昼食後の2回目のフライトで、東側の敦賀半島の「水晶浜」まで飛ぶ予定だったが、大気のコンディションが悪くなり、地元のパラモーター仲間から、リスクのあるフライトになりそうとのアドバイスがあり、それに従ってフライトを断念した。
「三方五湖」の上空から撮った多くの空撮写真もあり、想い出に残る良いフライトになったが、もう一度、遠征したい若狭湾だ。
その「水晶浜」に面した県道沿いは全て駐車場になっていて、シーズン中は、多くの海水浴客が訪れるのだろう。
そこに「ジル」を停めて、砂浜を目の前にした今、その美しさに目を奪われた。
もし、上空から見下ろすことができるならば、遥かに美しい景色を自分のものにできたはずで、今さらだが、半年前に飛べなかったことが残念で堪らない心境になってしまった。
北西の方角に、半島の海岸線が丹生湾(にうわん)を形成し、その岬の尖端に建つ「美浜原発」が見え、湾を跨ぐように丹生大橋が架けられていた。その上の空には何本もの高圧線が見えた。
砂浜の上を波打ち際まで歩いた。同年配の夫婦が砂浜を歩く姿を見た時、ひとり旅の寂しさを感じながらも、自由なひとり旅を満喫している今もいいのではと相反する思いが錯綜した。
ふと足下を見ると、やけにカラフルで目立つものが落ちており、それは釣りで使う「浮き」で、少し離れた砂浜にも、別のものが落ちており、それら拾って、旅の思い出とした。
「美浜原発」の入口あたりまで行ってみようと「水晶浜」から北上を始めると、「竹浜」、「丹生」の海水浴場が続き、その先は原発の施設の「美浜原子力PRセンター」があり、その北側には原発につながる丹生大橋があったが、一般車は通行できなかった。
県道は半島の北側の漁港までつながっているようなので、さらに北上することにした。