自殺菌がかかわる犯罪
というもので、衝動的に自殺を図るということとは別に、
「外的な理由」
ということでなく、その人の中に潜在しているものが、自殺を衝動的に起こさせたというのであれば、それこそ、
「精神疾患というものが原因ではないか?」
ということになるだろう。
しかも、
「時々、衝動的な自殺を繰り返していた」
ということであれば、
「双極性障害」
というものである可能性は高い気がする。
何といっても、
「躁状態と鬱状態を、定期的に繰り返している」
というのだから、
「うつ状態から躁状態になるタイミングで、自殺を衝動的に繰り返している」
ということで、いわゆる、
「ラピッドサイクラー」
と呼ばれる双極性障害で、
「高速で、繰り返す」
という言葉を考えると、
「なるほど」
と感心してしまうほどに納得でき、説得力があるということになるであろう。
そう考え、彼の所持品から見てみると、果たして、
「神経内科の診察券」
が見つかったことから、主治医に逢ってみることにした。
警察が訊ねると、主治医はちょうど治療中ということで、
「診療時間が終わってから、お話しましょう」
という承諾が得られたので、刑事は、それまで待つことにした。
刑事も、今までに、捜査の関係で、
「神経内科」
であったり、
「精神科医」
と呼ばれる人に、いろいろ事情を聴いたことがあったので、前述の、
「双極性障害の話」
というものくらいは、
「基礎知識」
ということで分かっていることだといえるであろう。
先生に話を聴ける時間が来ると、話は、診察室の奥にある応接室でできるようになった。
ここの病院は、どうやら昔から続く、個人病院というもので、奥は自宅になっているようだった。
だから、
「ここは、昔からの地元に根付いた病院」
ということで、ほとんどが地元の人で、
「そういう意味では、隠れて通わなければいけないというようなことがないので、患者さんも、安心してきてくれることができます」
ということであった。
「ところで、川崎さんのことなんですが」
ということで、刑事も、最低限の情報として、
「彼が、電車に飛び込むという自殺未遂を起こして、今は、意識不明で救急病院の集中治療室で絶対安静状態である」
ということは、事前に知らせておいた。
そのうえで、話を聞きたいということであった。
「川崎さんという患者は、何度も自殺未遂を繰り返しているようですね。私のところにも、何度か刑事が来て、今回のように聴いて行かれました」
ということであった。
刑事としても、そこまでの情報は、今回の事件の捜査として、すぐに分かったことだったので、
「ここまでは、そんなに難しい捜査ではなかった」
ということであった。
「今までの自殺未遂と、今回の自殺未遂とは、レベルとしては同じだと思っていいんでしょうか?」
と刑事が聞いたが、
「さあ、それは私は、まだ今回の自殺を試みた後に話ができているわけではないので、本当に、どう解釈をすればいいのかということが分からないので、何といっていいのか分かりませんけどね」
と医者は言った。
それは当たり前のことであろう。いくら精神科医と言っても、相手の話を聴きもしないで、まるで千里眼のように分かるというのであれば、それこそ、
「精神科医は神様か?」
ということになるからだ。
ただ、
「地元に根付いた精神科医」
というのが、珍しいのか、一般的に多いのかということは分からないが。
「そういう医者が増えてくれるというのはありがたい」
と、警察としては、真剣に考えるであろう。
「ところで、こういう精神疾患を持った人は、自殺をする危険性は、他の人に比べて多いんでしょうか?」
と聞かれた医者は、
「そうですね。私は自殺をする心境というのは、正直分かりませんが、衝動的に何かをしてしまうということは分かる気がしますね。衝動的というのは、自分の意志があるなしにかかわらず、意識として、自殺しようと思うからするんでしょうからね。それを抑えるような薬というものがあるわけではないですし……」
といって、少し黙り込んだ。
その表情は、いかにも、
「苦虫を噛み潰す」
かのような表情で、少なくとも、
「いらだちを覚える」
と言ってもいい表情であった。
それを指摘すると。
「薬の中には、副作用を起こすものもあるようですからね」
というのであるが、刑事としては、それが、
「医者の本心」
とは思えなかったのだ。
「それだけですか?」
と聞くと、医者の方も、最初から言いたかったのか、少し考えた後に、
「このようなことを医者の立場からいうというのは、本当はいけないことだということで、これを精神科医の医者としての立場で聞いてほしくないんですが、そのあたりはよろしいでしょうか?」
と医者が言った。
刑事はそれぞれに、顔を見合わせ、
「どうしたものか?」
と考えていたが、
「大丈夫です」
と、少しひきつったかのような笑顔を見せ、医者を安心させるかのようだった。
「実は、私が考えているのは、非科学的だと言われるようなことなんですが」
と言って前置きをしたが、
「私は、自殺菌なるものを信じているんですよ」
というではないか。
さすがに、これには、二人の刑事は、
「開いた口が塞がらない」
といった、
「あっけにとられた表情」
というものをしていたが、少し時間が経てば、
「自殺菌という考え方を今までに自分たちもしたことがあったような気がした」
と、思い返してみたのだった、
その様子を見て、医者は、
「それならば」
と思ったのか、
「この、自殺菌という考え方は、たぶんですが、たいていの人は、一度はどこかで考えたことはあると思うんです。中には、その話を聴いて、最初は信じられないと思ったかも知れないけど、理屈として考えると、意外と、信憑性というよりも、自分が納得できるという考えに至るところで、その考えを否定することはできないと考えるようになるのではないでしょうか?」
と医者は言った。
「確かにそうかも知れないですね」
と刑事は、そう言いながら、
「確かに今までに考えたといえば、その言葉に納得してしまう自分にウソはない」
と考えられるのであった。
「自殺菌というのは、具体的にどういうものなんですか?」
と一度は考えた自殺菌であったが、
「すぐに忘れてしまった」
という意識が強い。
というのは、自分の中で、
「納得はできるのだが、理屈として考えると、その納得が、そんなに長く続くことではないということで、いつの間にか忘れてしまっている」
ということから、その意識が、
「記憶の奥に封印されるものだ」
ということになるのを、無意識に理解していたと言ってもいいだろう。
それを考えると、
「自殺菌というものの正体、分からないのも当たり前なんだろうな」
と、その正体について考えることをすぐに辞めてしまったのだ。
というのも、
「その正体が分かったとしても、それが何になるというのか?」
と考える。
どうしても、
「これは非科学的だ」
ということで、
「こんなことをいうと、笑われる」
作品名:自殺菌がかかわる犯罪 作家名:森本晃次