死ぬまで消えない十字架
しかし、それをいまさら言ってもしょうがない。
確かに以前の政治家に文句を言っても、いまさらのことである。しかし、
「起こってしまったことはしょうがない。事態を少しでも収拾させるには、忘れてしまうことが一番」
ということで、さすがに最初の騒動はある程度仕方がないが、変に騒いだりして、
「余計に混乱させることだけはしてはいけない」
ということになるだろう。
それを考えれば、
「ここは、矢面に立たされても、騒がずに行くしかない」
ということと、
「こうなってしまっては、誰かを人身御供として、犠牲になってもらい、何とか騒ぎが過ぎ去るまで、耐え忍ぶしかない」
ということになったのだ。
その矢面に立たされたのが、県の環境課の課長だった。
ちゃんと調べれば、県の課長の立場で、そこまでできるわけはない。
確かに、この課長は、
「不正一派の片棒を担いでいる人間ではあったが、もっと上の人に指示されて、断ることができなかった」
というだけのことである。
それなのに、
「悪事に加担した」
というだけであるにも関わらず、まるで。
「自分が筋書きを描いた」
とばかりに仕立てられ、最初は、
「まわりが助けてくれる」
と思っていたが。まさか、
「自分が人身御供となってしまった」
などということになっていようとは、思ってもいなかったのだ。
それを考えると、
「なぜ、こんなことに?」
と思うと、さすがにその男も、今までの自分の悪事が、
「本当の悪人によって自分が利用されていただけ」
ということであり、
「何かあった時には、まるで、トカゲの尻尾斬りとして、自分がすべての責任を負って犠牲になる」
という計画だったことに気づくと、いくら、自分の正当性を訴えても、もうどうなるものでもない。
しかも、
「悪の親玉連中は、課長をすべての首謀者とするような偽の証拠をでっちあげて、結局は、何を言っても通用しないように仕立てあげる」
ということであった。
しかも、
「言えば言うほど、課長は自分の首を絞めるということで、完全に、主犯が、被害者で、利用された自分が加害者だ」
という設計図が出来上がってしまっているということになるのであった。
そうなってしまうと、失脚は必定。
もっとも、最初は、
「ここでお前の働きがよければ、いずれは出世間違いなし」
ということで、
「悪の片棒だと分かっていても、このまま逆らったら、自分の出世の道は立たれてしまう」
ということになるだろう。
そうなってしまうと、
「悪の片棒を担いでも出世をするか、それとも、バカ正直に拒否して、出世の道を断たれるか?」
ということを考えれば、
「答えは一つ」
だったのだ。
しかも、
「もし、何かヤバくなったら、こっちでうまくやるので、お前に危害が及ぶことはない」
と言われたことを、今から思えば信じられないが、そんな甘い口車に乗ってしまったのである。
「テレビドラマなどを見ていたのに、そんな言葉をよく信じられたものだ」
と言われるかも知れないが。
「そんなウソのようなことが、本当にあるなんてことはないだろう」
と、
「テレビドラマが誇張されたものだ」
という感じに、都合よく解釈してしまったのだ。
それこそ、
「公務員気質かも知れない」
考えてみれば、
「部下のために、何かあった時に助けてやるような善人であれば、最初から、私腹を肥やすなどということをするわけもないのだ」
ということになるのではないだろうか?
そんなことを考えていると、
「公務員というものの、課長クラスは、そんな人が多いのだろうか?」
と考えると、
「だから、世の中から不正がなくならないのだ」
ということで、それこそ、時代劇の、
「悪代官を思わせる」
というものだ。
公務員というものは、世間から見れば、よくわからない。
「閉鎖的なところだ」
とは思っているが、
「警察組織」
などのドラマを見ていると、おのずと、
「あんなものなんだろうな」
と漠然と考えてしまう。
実際にどうなのかは、意外とマスゴミが知っているかも知れない。
ただ、ジャーナリストというのも、
「ピンからキリまでいる」
と言ってもいいだろう。
「金で特ダネを買ったり、危ないと思うようなことに、どうなるかということを考えもせずに、簡単に足を踏み入れる」
ということもあるだろう。
「その結果どうなるか?」
というのは、ハッキリと分かるわけではない。
それを思えば、今回の事件も、
「マスゴミとしても、慎重にいかなければいけない」
ということになるだろう。
だから、第一発見者を、民間のボランティアの人ということにせずに、
「田島巡査」
ということに公表上はしたのだった。
殺された男
それが、どういう意味を持っているのかということを、想像するのは困難であったが、捜査本部の見解として、
「あの場は、そうするのが最善の方法」
ということで、実際に、上からの指示もそうだったのだ。
実際に、その後、しばらくして、捜査に少し変化があった。
というのは、その頃から、
「上からの見えない圧力があった」
ということなのか、あからさまに、
「捜査を中止」
ということはなかったが、何やら、
「捜査がやりにくい」
という状況になってきたようであった。
それをどのように考えればいいのか分からなかったが、
「ただ単に、城址公園で一人の男の刺殺死体が発見された」
というだけの単純なものではないということであった。
捜査本部ができてから、最初の方は、情報も結構あったのだ。
殺された男は、実に奇妙な男で、
「精神疾患がある」
ということで、この間まで、
「精神内科に入院していた男だ」
ということであった。
ただ、彼が、元々どういう男だったのかというと、その精神疾患というのは、
「大人になって発症した」
ということであった。
死亡時の年齢は、40歳。発症したのは、3歳を過ぎてからだったということであった。
この男、名前は、
「片桐」
という男で、そもそも、高校中退から後、チンピラのようなことをしていて、発症前くらい前まで、やくざの下っ端のような形で、暮らしていたということであった。
そういう意味で、刑事の中には、
「こいつ、見覚えがある」
という人も結構いて、死んでしまったので、確認はできないが、
「もし生きていれば、刑事は大体知っているのではないか?」
というくらいに、今までに何度もひっくくられているというくらいであった。
もっとも、
「数は多い分、やったことというと、ほとんどは大したことではない」
といえる。
不起訴になったものも多く、そうでもないと、
「こんなにたくさんの事件に絡むなんてできっこない」
というわけであった。
せめて
「借金都市」
であったり、
「風俗店の用心棒」
などということで、
「堅気の人と、仕事の上でひと悶着を起こす」
という程度のもので、そんな時における対応の仕方は心得ていた。
それだけ、
「場数は踏んでいる」
ということであった。
作品名:死ぬまで消えない十字架 作家名:森本晃次