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「共犯の因果応報」と「一周回った完全犯罪」

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 ということを、余計に感じさせられたのだった。
 それだけ、大人になってから、子供の頃を思い出すようなシチュエーションで、しかも、朝もやに浮かぶ不気味な光景、しかも、今までこの街で殺人事件など、ほとんどなかったことを考えると、緊張感と初動捜査への事の重大さということで、大人になってからも、
「誇大妄想というものをするのかも知れない」
 と、まるで他人事のように感じたのだ。
 それだけ、誇大妄想というのが、緊張感を和らげるという意味で、他人事のように感じさせるという意味で、効果を示すということになるのかも知れない。
 境内から、裏庭に入るには、境内から向かって、左側にある社務所の裏を通りぬける必要があるということは分かっていた。
 社務所までいくと、そこに誰もいないのを見ると、通報者以外に、事件に関して誰も知らないということになるのだろう。
 時間的には、まだ、六時前。境内の掃除を始めるくらいの時間ではないかと思うと、騒ぎにならないように、社務所をそそくさと通りぬけるのが一番だと感じたのだ。
 刑事は、社務所を通り越して、いよいよ問題の裏庭に入った。そこは、さすがにそれまで以上に薄暗く、木々に覆われた雑木林がそびえているのを見ると、本当は逃げ出したくなるくらいであった。
 どうしても、子供の頃の記憶として一番鮮明に残っている、
「金網で仕切られた井戸」
 というものがあるのを意識すると、子供の頃に感じたものよりも、今度は明らかに小さな井戸がそこにはあったのだ。
 今までの境内が大きく見えた、明らかな錯覚から比べれば、小さく見えるのは当たり前のことのはずなのだが、井戸に関していえば、
「小さく見える方が気持ち悪い」
 というもので、
「今回のこの境内にやってきてから感じたことは、子供の頃の記憶から考えると、そのすべてが、自分にとって、都合が悪い感覚になってしまっている」
 と感じたのだ。
 それは、きっと、
「人が死んでいる」
 という通報を受けてやってきたという、
「極度の緊張感がもたらした感覚なのではないか?」
 と感じたからではないだろうか?
 なるほど、彼は、まだまだ30歳になったくらいの若者で、最初は交番勤務をこなしていて、実際に交番勤務も、他の人に比べて長かった。
 最初、警察に入った時は、
「刑事課で、華々しい成果を挙げたい」
 と思っていたのだが、実際に交番勤務に当たると、最初は、
「なんで俺が交番勤務?」
 と感じたものだが、
「決して交番勤務も悪くない」
 と一度感じてしまうと、今度は、
「このまま、交番勤務でもいいか?」
 と思いかけた時、ちょうど、刑事課で人員が不足したことで、上司にあたる巡査部長が、彼を推薦してくれたのだ。
 もちろん、悪気があるわけではない。むしろ、交番に配属された時に、
「いずれは刑事課で活躍したい」
 といっていたのを、しっかり覚えていたからだ。
 だから、上司とすれば、
「彼を推薦すれば、彼も喜んでくれるだろう」
 と、安易に考えていた。
 だから、推薦された方もそれを分かっているだけに、むげに断ることもできるはずがない。
 ということで、巡査部長は、今でも、彼を推薦したのが間違いだったとは思っていないし、
「彼から感謝されている」
 ということを信じて疑わないといってもいいだろう。
 それを思えば、
「俺の運命って、数奇だといえるかも知れないな」
 と感じた。
 そもそも、警察に入るというのも、最初からの夢というわけではない。下手をすると、
「公務員だったら、安定している」
 という安易な気持ちで、
「いずれは公務員」
 と思っていた。
 ただ、公務員というのも、かなりたくさんあるもので、その一つ一つについて勉強するどころか、
「実際に、どこまでが公務員なのか?」
 ということまで分かっているわけではないのに、漠然と考えていたのは、
「本当の夢というものを持ったことがない」
 ということからであった。
「夢がない」
 というわけではない。
 子供の頃であれば、
「大人になったら何になりたい」
 というくらいは、普通であればあるだろう。
 しかし、彼にはそんなものはなかった。
 というのも、彼が、子供の頃というと、バブル経済の頃で、まわり全体が大きすぎる泡だったということで、夢を見たくても、見えてくるものが、明らかに漠然としていることで、
「見えないものを見るだけ無駄」
 というものであり、実際に、大人になるにつれて、バブルが崩壊していき、
「見たくても、見る夢がない」
 という状態になると、
「公務員にでもなるか」
 という漠然としたものにしかならないのであった。
 そういう意味で、彼が育った時代というのは、
「夢を見るには暗黒の時代だった」
 といえるのではないだろうか?
 刑事が、
「通報のあった場所」
 に来てみると、いるはずの、
「通報者」
 というものが、そこにはいなかった。
 あたりを探ってみると、やはりそこにはいない。
「こんな寂しいところに、死んでいる人間と二人で、警察が来るのを待っているのであれば、当然気持ち悪いと思うに違いない」
 と思い、
「どこか別の場所で待機しているのではないだろうか?」
 と、刑事は感じた。
 しかし、それであれば、彼がここに来るまでに、声を掛けていてしかるべきであろう。それを考えながら、不気味にそのあたりの情景を感じながら見ていると、彼自身も、
「俗世から遮断された空間に取り残された」
 という感覚に陥ったのだ。
 それでも、
「通報を受けてやってきた警察官」
 という使命があり、しかも、
「ここに来るまでに、それなりに覚悟を決めてきた」
 ということもあるので、逃げ出すわけにはいかないことは間違いない。
 そして、目の前にある井戸の後ろに行ってみると、そこに、目的の、
「死んでいるという人」
 が見つかったのだ。
 そこに転がっているのは、確かに、
「もの言わぬ死体」
 ということであり、うつ伏せになって倒れている人の首筋を触ると、冷たくなっていて、硬直している状態から、明らかに死んでいるのが分かったのだ。

                 出頭した男

 刑事課を出る時、上司や先輩刑事に連絡を入れておいたので、
「まもなく誰かが来てくれる」
 ということは分かっていた。
 死体を発見して、一瞬固まってしまったが、その極度の緊張がほぐれるまでに、時間が掛からなかったのは、そこに、駆け付けてきた先輩が来てくれたからだった。
「助かった」
 と一瞬思い、そこでほぐれた緊張が、自分が警察官であることを思わせるかのように感じたことだった。
「先輩がいてくれることで、自分も警察官であることを自覚できるというのは、まだまだ自分が甘ちゃんであるということと、甘ちゃんではあるが、着実に刑事になりつうつある発展途上のような状態だ」
 ということを感じたからであろう。
 即座に、今までの緊張感から、
「先輩刑事を見て、自分もそれを見習って、いずれは立派な刑事にならないといけない」
 という思いに変わってくるのであった。
 一通り、事情を説明したが、そもそも、そこまでの説明は、電話でしてあった。