「共犯の因果応報」と「一周回った完全犯罪」
「その理由に関しては、よく分からなかったといってもいい。
「死体発見において、少し奥の方に入る気持ちがないと見つからない」
ということもあり、これは、歴史ファンだったら、簡単に見つけられるというもので、あくまでも、警察の認識としては、
「ここに捨てて、死体が発見されないようにした」
という認識しかないであろう。
ただ、さすがの警察も、
「どうして穴に埋めなかったのだろう?」
という思いはあった。
だから、
「いずれは発見されなければいけない」
ということを犯人も考えている。
という結論にはなるのだろうが、なかなか、
「通り一遍の捜査しかしない」
という警察であるから、歴史ファンと、捜査員との間に、
「微妙な考え方の壁がある」
と言ってもいいだろう。
しかし、実際に、その壁は、想像以上に大きなものだったのではないだろうか?
それを、犯人は分かっていて。そこが最大の理由だったのではないかと、第一発見者は考えていた。
そもそも、歴史ファンというのは、
「古代へのロマン」
ということで、考古学などのように、
「発掘したり、発掘されたものに、思いを馳せ、想像力を豊かにすることが、学問だ」
と思っている。
その学問というものが、歴史だけではなく、その他にも波及してくると言ってもいいだろう。
それが、
「ミステリー」
であったり、
「SF」
などへの思い入れだったりすると考えられる。
この時死体の第一発見者であったのは女性だった。
彼女は、元々は、
「お城ヲタク」
というものから、歴史に興味を持ったのだが、最近では、
「考古学」
というものにも興味があった。
今回発見した、
「古代の城の探索」
というのは、ただ単に、
「山歩き」
というのが目的というよりも、
「城が建設される前の歴史の探索」
ということで、特に、
「砦のあったあたり」
のさらに過去というものを研究しようと考えていたのだ。
もちろん、
「大学の研究員というような、公式に発掘ができる立場ではないので、個人としての発見ができる程度の、遊びに毛が生えた程度しかできない」
というのは分かっていた。
それでも、
「何とか少しでも何かを発見できれば」
という好奇心から始まったことで、今のところ、独自に勉強して、検定に合格し、
「いずれは、どこかで研究員にでもなりたい」
という夢を持っていた。
今の制度では実現は難しいが、できるだけ近づきたいということで、山歩きは欠かすこともなかったのだ。
そこにもってきて、降ってわいたような
「死体発見」
せっかくだから、
「考古学への挑戦」
という意味で、自分なりに、想像力を発揮して、この事件を自分なりに解釈していこうと考えたのだった。
ただ、情報は、あくまでも、
「警察のマスコミへの発表」
というだけのものでしかなかったが、それでも、発想としては、事件解決が、自分自身で、ありえないことではないと思っていたのだ。
だから、警察の人に、自分の意見を聞いてもらおうとして、第一発見者という立場から話に行ったが、案の定、誰もまともには聴いてくれなかった。
しかし、それを、聞いてくれたのが、一人の、
「おじいさん刑事」
と言ってもいい人だった。
その人は、いかにも、
「好々爺」
という感じの人で、それこそ、時代劇に出てくる、
「黄門様」
の様相を呈していた。
いつもニコニコしていて、一見。刑事には見えないということで、
「定年前で、今までも、そんなに気合を入れて捜査もしてこなかったんだろう」
と思い、気軽に話をしたのであった。
その刑事は、実は清水警部であり、実際に、定年が秒読み状態ということで、実際の捜査からは、ほとんど外れていると言ってもよかった。
数年前までは、
「捜査本部ができると、本部長を歴任してきた経験がある」
という警部である。
実際には、後進に道を譲って、あとは平和に定年を迎えるだけということで、まわりもそして、本人も考えていたようだ。
だから、
「出しゃばったことはしないようにしよう」
とも思っていて。そもそも、
「警察の縦割り、そして、横の確執」
というものにうんざり来ていたこともあり、
「もうそんなことを考えなくてもいいんだ」
と思うと、それまでの重い荷物を下ろすことができると思い、気が楽になっていた。
ただ、一つ心残りだったのは、
「自分が教育係として携わった中で、唯一退職していった、鈴木刑事のことが気になっていた」
ということだ。
その気になっているということは、誰にも悟られないようにして、この気持ちは一人墓場まで持っていくようにしよう」
と思っていたのであった。
実際に、鈴木刑事が警察を辞めてから、連絡も取っておらず、
「どこに行ったんだ?」
と気にはしていたが、
「自分にも警察官としての使命がある」
ということで、大っぴらにこだわるわけにはいかなかtったということだったのだ。
それを思えば、
「警察なんて、早く辞めたい」
と思うようになり、それまであった充実感というものが、すっかり鳴りを潜めるという感覚になってきたのだった。
そんな心情を知っていた清水刑事は、鈴木刑事の無念さが自分のことのように分かった。
だから、逆に、
「鈴木がうらやましい」
と思ったくらいで、それは、
「先を越された」
と思ったからだった。
ただ、鈴木刑事が、自分の気持ちに正直になってくれたおかげで、清水刑事は、
「自分が何があっても、刑事としての道をまっとうしなければいけない」
ということを考えなければいけないと心に決めたのだった。
それは、汚れ役であって、他の人たちのように、
「逃げようとすれば逃げられる」
という立場ではなく、
「自分が逃げようとすると、まわりに迷惑がかかり、自分の気持ちに正直にはなれない」
ということであった。
「汚れ役というものは、誰かが引き受けなければいけない」
ということであるならば、その役目は自分が引き受けると思うようになった。
そして、それは、自分が、鈴木刑事に教えようと思っていたことでもあった。
だが、結局は、筋気刑事の純真な心をもったいないと思うようになったことで、結局は、
「清水刑事の負け」
ということであった。
ただ、
「この負けというのは、すがすがしい負け」
といってもいい。だから、清水刑事は、辞めていった鈴木刑事を、
「名誉の殉職」
と考えるようになり、
「自分は、彼の気持ちを肩身として、自分の信念とする」
と考えるのであった。
だから、実際に鈴木刑事が殺されたと聞いた時は、
「何としても、弔い合戦とを」
と感じた反面、
「やっと、仏になったか」
とばかりに、不謹慎ではあるが、
「自分の中での一つの整理がついた」
と考えるのであった。
ただ、それからしばらくして、今度は、
「牧田元刑事が殺された」
ということになり、その理由は分からなかったが、
「二人の元警察官が殺された」
ということに、大いなる関心が、世間では話題になっていた。
作品名:「共犯の因果応報」と「一周回った完全犯罪」 作家名:森本晃次