「共犯の因果応報」と「一周回った完全犯罪」
ということくらいは、誰の目にも明らかだった。
明らかに、
「タクシードライバーの数が減ったことで、利用客に対して、タクシー会社が対応できない」
というのが実情であった。
この原因は、明らかだった。
といっても、理由は一つではない。
「目に見えているもの」
と、
「目には見えにくいもの」
という二つが存在しているのである。
「目に見えているもの」
ということでは、数年前から続いている、
「世界的なパンデミック」
というものによるものであった。
今から、4、5年くらい前に、突如発生した、
「謎の伝染病」
というものがあり、それが、世界を駆け巡ったのだ。
世界的には、
「都市封鎖」
と言った、
「ロックダウン」
というものが行われ、わが国日本でも、
「憲法の規定で、都市封鎖という、国民の権利の一部制限はできない」
ということで、苦肉の策という、日本独自の、
「緊急事態宣言」
と呼ばれるものが、発令された。
内容としては、
「人流を抑える」
ということが最大の目的で、その手段として、
「街の店の、休業要請」
あるいは、
「会社などの業務で、在宅勤務ができる人には在宅勤務をお願いする」
ということであった。
ただし、
「公共交通機関を止めるということはしない」
ということであるが、結局は、
「乗客がいない」
ということで、やむなく。
「電車の本数を減らして運行」
という露骨なことを、交通機関は行ったりしたのだ。
街の様子は、
「ゴーストタウン」
の様相を呈していた。
昭和の頃であれば、
「年始の三が日は、店はすべて休業」
ということであったが、次第に、開店する店が増えてきて、今では、
「年末は夕方まで営業していて、年始は定時から営業する」
というところも増えてきて、今では、
「365日、賑やかな町」
ということであった。
だから、
「緊急事態宣言中のようなゴーストタウンを見たことのある人は、一定以上の年齢の人ということになり、その光景を覚えている人というと、50歳以上というくらいの、初老の人たちと言ってもいいだろう」
国家や自治体は、
「休業命令」
という形ではなく、
「休業要請」
というもので、
「自主的に自粛する」
というのが、この宣言であった。
しかし、外国のような
「命令」
ということであれば、
「ただ命令を出す」
というような一方通行のことはしない。
「休業を命令するのであれば、それに見合う、休業補償というものをしっかりと配らないと、それこそ、クーデターが起こってしまうことだろう」
といえる。
だから、政府はキチンと保証金を払い、国民も、
「それならば」
ということで、その政策に応じることになるのだ。
確かに、
「国家の命令なのだから、従わなければいけない」
というのは当たり前のことであり、そのおかげで、
「蔓延防止」
というのもできるのだ。
しかし、日本の場合は、それが、
「休業命令ではなく、休業要請なのだ」
法律で縛ることができないが、要請することで、同じ効果を生まなければいけないのだ。
幸いにも、日本国民は、そのパンデミックの恐ろしさというものを自覚していて、要請ということであっても、従った。
もちろん、政府や自治体が、
「休業に対する保障は行う」
ということであったのだが、実際に保障ということになると、
「不公平」
という問題が生まれたり、
「保障額があまりにも低い」
ということであったり、さらに、
「保障請求の手続きが煩わしく、さらには、請求できたとしても、実際に支給されるまでに、相当な時間が掛かってしまい、それを待つ前に、すでに店は閉店するしかない」
という状況に追い込まれているのであった。
確かに、日本は、このような状況になるのは初めてなので、戸惑いがあるのは分かるが、
「口でいうのと、やっていることとに差がありすぎる」
ということで、相当マスゴミや世論は、叩いたものである。
その中でもタクシー会社は悲惨だったことだろう。
そもそも、タクシー会社は、
「ブラックだ」
と言われていて、
「ノルマ制」
などというものが存在していることで、普段ですら、従業員の不満は大きかった。
そのタクシー業界が、
「世界的なパンデミック」
というものの影響をもろに受け、
「乗客もいないのに、雇っておくわけにはいかない」
ということで、
「大量リストラ」
を行ったりした。
中には、
「世界的なパンデミック」
ということを利用して、巧みに辞めさせるという露骨なことをやったりしたので、
「辞めたくない」
と思っている人まで辞めさせられることになったのだ。
だが、
「因果応報」
と言えばいいのか、
「世界的なパンデミック」
というものが、少しずつでも収まってくると、徐々に、人流も元に戻ってきて、
「パンデミック前」
というところまで回復はしていないが、それでも、何とか利用客が増えてきたのはありがたいことであろう。
しかし、実際には、
「リストラ」
というものをしてしまったことと、
「リストラの一環として、所有していた車両の多くを手放した」
ということで、
「人材不足」
「車両不足」
という両方を抱えることになったのだ。
車両もかなり処分はしただろうが、それでも、運転手の数に比べて、車両は余っていると言ってもいいくらいであった。
しかも、人材不足のために、
「一度辞めていった人たちが戻ってくるか?」
と言えば、そんなことはなかった。
中には、
「少しずつ戻ってきている」
というところもあるのだろうが、実際には、減らした車両でも、まだ乗り手がいなくて余っているくらいだということなので、相当な人手不足ということであろう。
タクシー会社としても、
「いずれ、利用客が元に戻る」
ということを見越して、そのために確保している最低台数であるはずなのに、それでも、車両に対してドライバーが足りないということは、
「想像以上の人手不足となっている」
ということであろう。
彼らが帰ってこないのは、タクシー業界というものが、
「今までが、ブラック企業だった」
ということに辞めていった人たちが気づいたからだろう。
元々分かっていた人もいただろうが、その人たちがタクシーの運転手にそれでもこだわったのは、
「タクシーの運転しかできない」
と思ったからなのか、
「他の会社も同じようなものではないか?」
と感じたからではないだろうか?
確かに、平均年齢が60歳を超えているというようなタクシードライバーが、
「いまさら他の仕事を」
というのも難しいだろう。
それを考えると、
「知らないところにいきなり出るよりは」
ということで、仕方なく、タクシー業界にしがみついていたといってもいいであろう。
だから、
「世界的なパンデミック」
のせいで、会社を追われたが、何とか、他の会社で生計を立てていったが、その中には、
「何もタクシー会社にしがみつかなくても、やってみれば、何とでもなる」
ということに気づき、しかも、
作品名:「共犯の因果応報」と「一周回った完全犯罪」 作家名:森本晃次