もろ刃の剣の犯罪
の時代から嫌いであり、その理由は、
「無駄な行替えであったり、挿絵などをかまさないと、字数が足りない」
ということに嫌悪感があったのだ。
それは、まるで、勝手な思い込みに過ぎず、それこそ、
「昭和の頑固おやじ」
の様相を呈しているといってもいいだろう。
だから、
「最終的にたどり着いたのが、探偵小説だ」
と思っていたが、そもそも探偵小説に興味を持ったのは、小説を読み始めて少し下頃の中学時代だったのだ。
それでも、
「最終的にたどり着いたもの」
と感じるのは、
「中学時代から、一通り他の小説も読んでみたが、結局。また読み直したい」
と思ったのが、探偵小説だったのだ。
他の小説であれば、どうしても後味が悪い。それを直してくれるのが、
「探偵小説だった」
ということである。
「口直し」
というと表現が悪いが、それも無理もないことであり、
「マンガよりも小説。そして。最終的には探偵小説」
と感じたのは、当然といえば当然のことであろう。
そして、探偵小説でいきついたのが、
「同じ小説を何度も読み直してみたい」
と感じた、
「耽美主義」
の話であった。
「何度読んでも理解できない」
というところからの発想であり、普通なら辞めてしまうのだろうが、理解できるまで読みたいと感じるというのは、
「本当の好奇心」
といえるだろう。
そんな探偵小説でしかありえないような話としての、
「耽美主義」
というような話が、この11月という、これから世知辛くなるというこの時期に、
「一つの事件」
としてクローズアップされるというのは、一体どういうことなのであろうか?
それを、奇々怪々とでもいえばいいのか、しかも、その第一発見者として挙がってきたのが、須藤というのは、これこそm
「事実は小説よりも奇なり」
というが、
「まさにそのことだ」
と、感じたのは、本人である須藤だけだったことであろう。
事件現場
会社を出た時間は、午後9時を回っていた。他の社員は、その日は皆結構早く、8時前には会社を出ていた。
というのも、
「最近の忙しさからか、週に一度は、ほとんど残業をしない日を作ろう」
ということでいたのだが、それでも、グループでの作業というものになってからというもの、
「定時に上がるということは、到底できない」
ということで、
「せめて、午後8時までには段取りをつけよう」
としていたところ、この日は、そのタイムリミットギリギリになったというわけである。
それでも、
「須藤さん、本当にいいんですか?」
とまわりの人がいうように、須藤の仕事は、彼らがやった仕事の後始末ということだったので、本当は明日一番でもいいのだが、
「急いで帰ったとしても、何かあるわけではない」
ということで、
「俺は9時をめどに仕事をしていくから、お前たちは帰っていいぞ」
というのだった。
そもそも、その日は、昼間から若手連中で、
「飲みに行こう」
という話ができていたのは知っていたし、須藤も誘われたが、あ、あまり酒が行けるようではない須藤としては、
「飲みに行くよりも、その間仕事をしている方がいい」
と思う方であり、逆に、
「一人の方が、仕事が進む」
と思っていたのだ。
だから本音としては、
「こっちの方がありがたい」
ということであった。
昼休みが終わってからの昼下がりともなると、若い連中は、
「飲みに行ける」
ということで、普段と違った気合が入っているのか、その作業工程は、いつもよりも、時間的にかなり繰り上がっていたのだった。
だから、定時の6時くらいには、中途半端となったので、その作業を終わらせると、
「ちょうど8時くらいでちょうどいい」
と皆思ったことだろう。
誰も口に出さないのは、
「これくらいのことは、今までの経験から自分で分かり切っているということだ」
ということなのだ。
だから、
「8時までに終わらせなければいけない」
ということのはずなのに、誰も慌てた素振りを見せない。
それを思えば、須藤も、
「皆、なかなか仕事を分かってきている証拠だ」
と考えたのだ。
須藤の仕事は、彼ら若手。つまりは、現場の第一線で開発している連中を束ね、その実績を上げるための、最終チェックを行う仕事だったのだ。
そういう意味では、
「現場の鳥仕切り役」
といってもよく、それは、
「先輩から受け継いだことだけではなく、自分の工夫というものを自分なりに組み合わせることで、発揮できるものだ」
といえるものであった。
その手腕を、課長クラスの人も認めていて、
「そうだよな、俺たちが歩んできた道というものだ」
ということで、須藤を温かい目で見ているのであった。
仕事の段取りがうまくいくようになると、課長クラスも、遅くまで残っていることはなかった。
会社からも、
「残業せずに早く帰れる人は帰れ」
と言われていた。
課長以上というと、出張先で会議などで、業務時間以降ということはあるが、会社にいる時、残業するということはほとんどなかった。
もっとも、
「仕事の成果物が出来上がり、リリース段階になれば、そこから数日は、何かあった場合の対応」
ということで、現場に詰めるということはあったが、それ以外には、ほとんど残業というのはなかったのだ。
だから、その日、午後9時くらいになると、自分で事務所を施錠して、警備を掛けて帰るという手はずで、これも、いつもの通りだったのだ。
この日、普段と少し違っているとすれば、
「いよいよイルミネーションの時期」
ということだけだったのだ。
須藤は事務所を施錠して表に出ると、いつものように、矢富公園を抜けて、駅に向かって歩いていこうとしているところであった。
矢冨公園に差し掛かると、これはいつものことであったが、ビルを出たところで、すぐに、自分の事務所を見上げるのであった。
というのは、
「キチンと戸締りができているか?」
ということを気にするからであり、これは、大学時代から怠ることのない習慣というか、いわゆる癖というものであった。
実際に見上げてみると、電気がついていない確認ができて、安堵するのだった。
事務所で最後の一人になるのは、毎週のことなので、当たり前のことであったが、大学時代にこのくせがついたのは、学生時代から一人暮らしを始めたことで、
「自分には関係ない同じ大学に通う学生の部屋から出火した」
という話を聞いたことがきっかけだった。
最初は、
「俺には関係ない」
と思っていたが、ふと、
「もし、俺が出火させていれば」
と思ったのだが、最初は、
「自分の部屋が丸焼けになったら」
というだけしか考えなかったが、そのうちに、
「アパート自体が全焼してしまうと」
と考えるようになると、ぞっとしてくるのだった。
「火事なんか起こすつもりはなかった」
といっても、誰が許してくれるというのか、もし、自分が逆の立場だったら、果たして、
「うっかり火を出してしまった」
という学生を許すことができるだろうか?
と思えば、だんだん恐ろしくなってくるのであった。