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もろ刃の剣の犯罪

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「犯罪を隠蔽するかわりに、犯行を公表することで、猟奇殺人に誘おう」
 とする計算があった。
 まず、一つは、
「猟奇殺人」
 を装うことで、犯行動機を、
「復讐だ」
 と思い込ませたかったようだ。
 実際には、
「財産目的」
 ということでの、
「ドロドロした人間関係の清算」
 であったが、犯人は、被害者が死ぬことで、直接的な財産を得ることはできなかったのだ。
 だが、犯人を遺産相続者ということにすることで、間接的に、いずれは、他の人が財産分与に預かれることになる。
 被害者を取り巻く環境は、まず、
「被害者は、会社の取締役」
 ということであり。
「先代がもうすぐ隠居することで、すぐに当主となる」
 という立場だったのだ。
 しかも、その少し前に、
「兄弟での、跡目争いというのが会社の中であり、本人たちよりも、まわりの参謀や、派閥の長と呼ばれる連中の骨肉の争いというものが、大きな波紋をめぐらせていた」
 そのことは、週刊誌やワイドショーなどでも、報道されるくらいの社会問題となっていたので、その注目度も大きかったのだ。
 だから、それぞれ皆、
「叩けば埃の出る身体」
 ということであった。
 もっといえば、
「ちょっとつつけば、簡単に失脚する」
 ということであったが、その問題は、
「当主を、先代が決める」
 ということで決着を見るということで、
「限られた時間においての争い」
 だったのだ。
 だから。それぞれの派閥も必死で、
「少々のことはやむを得ない」
 ということで、下手をすれば、まったく関係のない人たちまで巻き込むということになったりしていた。
 もちろん、そんなことが許されるわけもないので、世間は、この、
「骨肉の争い」
 というものを、
「自分たち庶民とは違うところで起こっていることだ」
 と、次第に、興味は薄れていた。
 それをいいことに、争いはピークを迎えたが、それでも、
「落ち着くところに落ち着く」
 というもので、長男が、跡目を継ぐということになったのだ。
 それがまるで当たり前であるかのように決まってしまうと、まるで火が消えたかのように、その会社は、世間の注目からも、自分たち派閥の意識も消え去っていたのだ。
 実は。これが犯人の狙いで、その間に手に入れた、
「次の次の後継者」
 とみられた人を、この時の材料をリークすることで、失脚させることに成功した。
 これは、事件が起こってから、かなりの間を開けないと、分からないことであり、しかも、
「次男が警察に逮捕された」
 という時期からも、かなり時間が経っていないと、その事件の継続性ということで、疑われないとも限らないからだった。
「最初の犯行が、インパクトが強ければ強いほど、そして、その後の計画に、時間を掛ければ掛けるほど、犯人にとっての動機が曖昧ということになり、警察が、次男を起訴して裁判が行われる間に、水面下で会社が音を立てて崩れ去っている」
 ということに気づかないだろう。
 それが、犯人の狙いだったのだ。
 それを考えると、
「今回の犯罪が、そのライトノベルの模倣犯だ」
 とは言えないかも知れないが、
「自分で、この事件を推理することはできるのではないか?」
 と考えたのだ。
 それこそ、模倣犯であり、
「警察の通り一遍の捜査では、たどり着けるものではない」
 と感じるのであった。

                 自分の中での真相

 発見された被害者が誰であるかというのは、まだ警察からは公表されていなかった。
 しかし、第一発見者ということで、それなりに、
「警察も疑っている」
 ということから考えると、
「任意同行」
 という形で出頭命令を受けたことで、逆に少しだけ、他の人が知らない情報を得ることができたのだ。
 任意同行を受ける前、警察が、
「まるで、犯行時刻にどこにいたのか?」
 と聞いてきた。
 その時間というのは、ちょうど、昨夜の午後九時前後ということで、ちょうど、須藤が会社を出たくらいの時間だった。
 その時間は、解剖に回されたことでハッキリしたものであり、見た目と比べて、後ろにずれたということを感じさせるものであった。
 だから、ちょうど、須藤にはアリバイがなかったわけだった。
 ただ、ということは、あの死体は、当然のことながら、
「どこか別の場所で殺されて運ばれてきた」
 と考えるのが妥当であり、そのことを証明している」
 といってもいいだろう。
 なぜなら、
「須藤が、会社を出る時、あの場所には棺桶に入れられた死体があった」
 というわけではないからだ。
「もし、あそこに死体があったのなら、気づかないわけはないから、自分の証言が、自分が犯人ではないということを示している」
 と言いたかった。
 実際にそのことを話したことで、刑事も最初、一応は納得したが、完全に納得したわけではなく、
「一見、第一発見者側から見れば、完全なアリバイだと思っていることでも、警察側から見れば、怪しいと思われるような何かの錯誤があるのではないか?」
 と思った。
 その理由らしきものはなかったが、次第に今まで読んだ小説などから考えてみると、一つ考えられたのは、
「共犯者がいる」
 と考えたのではないだろうか?
 それも、
「第一発見者が共犯で、主犯が別にいる」
 という考えであった。
 須藤としては、
「自分には完璧なアリバイがある」
 と思っていることで、安心していたが、警察に疑われると、
「本来であれば、警察から疑われても仕方のない」
 という立場よりも、余計に不気味に感じるのであった。
「俺の何がまずいというのだ?」
 と感じてしまう。
 確かに、
「自分が犯人ではない」
 ということは自分で分かっているつもりだし、
「防犯カメラの映像を確認すれば、自分が、午後九時すぎに、会社を出たことが分かるはずだ」
 ということを言って、実際に防犯カメラを気国んしてもらったはずである。
 しかし、それでも、警察は信用していないようだった。
 須藤自身も、防犯カメラの映像を確認したいと思い、ビルの管理会社に訊ねたが、
「警察でなければ見せるわけにはいかない」
 と言われた。
 会社の方には、
「第一発見者で、警察から事情聴取の協力と受けている」
 ということは話していた。
 だから、
「会社を通して防犯カメラを見せてもらう」
 ということもできず、
「自分ではどうしようもない」
 ということが分かったのであった。
 焦りはしたが、逆に、
「自分が、客観的な目で事件を見ることができる」
 と考えた。
 そして、発想として、
「この事件は、完全犯罪をもくろんでいるのではないか?」
 と考えると、今まで読んだ小説で、
「完全犯罪をもくろむようなものにはどんなものがあるか?」
 ということを考えてみた。
 そして、この事件が、
「何かの模倣犯のようなものではないか?」
 と考えると、そこに、
「事件の核心」
 というものと、逆に、
「脆弱さ」
 というものが見え隠れしているのを感じたのだ。
「長所と短所は紙一重」
 というが、完全犯罪というのも、もろ刃の剣のようなもので、
作品名:もろ刃の剣の犯罪 作家名:森本晃次