失せ物探し 探偵奇談26 後編
部活が終わり日が暮れかけた頃。颯馬は一人くだんの寮に足を踏み入れていた。今日は片付けはなく、誰も足を踏み入れていない。主将の駒形に忘れ物をしたかも、と伝えると鍵を貸してくれた。ついでに汚れた風呂場を掃除してきてくれと言うおつかい付きではあったが。
(この湿気がなあ)
玄関に入って靴を脱ぐ。館内は季節のせいもあってかじっとりと湿っているように重い空気が充満している。夏服がじっとりと汗ばんでいく。玄関の向かって右に管理人室兼事務所があり、左側に浴場への廊下。正面のホールには、ソファやテーブル、テレビボードが置かれ、かつては寮生の憩いの場であったことが伺えた。そこには剥製の鳥が飾られている。わしだか鷹だが、颯馬にはわからないが。
窓の外は雑木林の鬱蒼とした緑。かすかに雨音が聴こえる。颯馬はじっと目を閉じて集中する。
一昨日来たときには、たくさんの部員たちの喧騒にかき消されていたか細い気配をなぞっていく。目を開けて歩み出す颯馬が思い出すのは、昨夜の氏家との会話だ。
(人の形をしたもの以外にも、魂が宿る…)
なるほど、言われてみればたくさんの無機物に、ほんのわずかだが、念と言うのか、魂の残滓が感じられる。鳥の剥製に近寄り、じっとその瞳を覗き込んだ。
(!)
一瞬、まばたきをしたような錯覚を覚える。かつて、この鳥の瞳を通して、このホールで歓談する部員達を見つめていた者がいた。それが颯馬にはわかった。
(いまは空っぽだけど…入っていたことがあるな。女の子だ…)
肉体を持たぬものが、器として利用したらしい。
これまで幾多の人間から「奪った」少女。瑞の瞳を奪った彼女は、これまでも器を転々としながら、狙いを定めた人間にその手を伸ばしたのだ。氏家のいうように、それは人の形を模したものだけではないようだ。
作品名:失せ物探し 探偵奇談26 後編 作家名:ひなた眞白